第35話 掴んだ尻尾は誰のもの?
「怪しいやつを見つけたですって?」
「ちゅう」
オーロラさん達と会ってから数日後。
ハッズからそんな情報がもたらされた。
王都に潜む仲間達からの報告だそうだ。
「なるほど……」
ネズミ達の情報網は俺が思っているよりも凄いのかもしれない。
「ただオーロラさん達にどう伝えるか悩むな」
ラジエルやハッズの存在は内緒にしている。
わざわざ伝えるものでもないしな。
「そうねぇ、どこからの情報かも教えられないし」
「でも知らせないのはよくないよな」
一緒に頑張りましょうってやってる相手にさ。
「情報元は隠して伝えましょう」
「それしかないか」
俺達はすぐに宿を出ると屋敷へ向かって歩き始めた。
♢
「何かありましたか?」
「ええ」
部屋にはオーロラさんとライトさん、俺とマァがいる。
ラジエルとハッズはお留守番だ。
「実は怪しい人物を見つけたんです」
「それはどなたでしょうか?」
「それは――」
ズズゥンッ!!!
「何だ一体?」
「何かしら?」
俺とマァはお互いを見る。
地面から軽く振動も伝わってきた。
「これは……」
「確認して参ります」
オーロラさんも困惑している。
ライトさんはすぐに部屋から出て行った。
「ここでの生活はどうなの?」
マァがオーロラさんに訊いている。
「問題は特にありませんよ」
本当にそう思っているようだ。
オーロラさんはすぐに答えた。
「ならいいんだけど」
なんだかんだ心配なんだろうな。
「ただ……」
オーロラさんが何かを言いかけた時。
ガチャッ
部屋の扉が突然開かれた。
ライトさんが険しい表情で入ってくる。
「何あったのですか?」
オーロラさんが訊く。
ライトさんはそれに一言。
「屋敷が襲撃を受けました」
♢
「大丈夫なんですか?」
俺達は屋敷の地下への階段を下りている。
「大丈夫とは?」
俺の問いかけにライトさんが首を傾げる。
「いえ、屋敷が襲われてるんですよね?」
もう音は聞こえないけど、まだ終わってはいないはず。
「ああ、メグル様はご存じないのですね」
ライトさんは何かに気付いたのか説明をしてくれる。
「我がフォルス家は代々王都の武を司っております」
「武……ですか?」
「はい、それがフォルス家の誇り。家の者は全員ある程度以上の力を持っているのです」
つまり屋敷には強い人達ばかりだと?
「そんな場所を襲撃するなんて正気ではない」
「それはそうですね」
「もしかしたら我々が追っている犯人達なのかもしれません」
「それならっ」
捕まえて正体を吐かせればいいのでは?
家の人間が強いのであればそれも出来るはず。
こうして地下へ移動する理由が分からない。
「襲撃が一度で終わるとは思えません」
ライトさんは話を続ける。
このまま屋敷にいては万が一が起こりうると。
「ここは秘密の避難路です」
「避難路?」
「ええ、王城とフォルス家、それに大聖堂とも地下で繋がっています」
「そんな通路があったんですね」
安全な場所へ避難するための道って事か。
「オーロラも知っていたのかしら?」
「ええ、使う可能性のある人間には知らされているの」
ただし、詳しい内部構造までは知らないらしい。
そこは王様とか案内役が把握してるんだろう。
「そろそろ着きますよ」
階段の先は小部屋に繋がっていた。
正面には金属製の扉がある。
「ここから先は王城や大聖堂との共有部分になります」
固く閉ざされた扉を開ける。
「これは……」
扉の先を見たライトさんが固まった。
「どうかしたんですか?」
「……」
ライトさんは剣を抜くと中へと入る。
左右に広めの道がまっすぐ伸びていた。
「通路ってこんな感じなんですね」
特に変わったところはなさそうだけど。
「普段は中の明かりは落としているんです」
ライトさんが口を開く。
天井を見るとたしかに明かりは点いていた。
「でも点いてますよね」
「ええ、だからおかしいんです」
「確認のために点けたとか」
「それはないはずです。ここへ入る事が出来るのは非常時のみですし」
ライトさんでも理由が分からないらしい。
「気を付けて進みましょう」
「はい」
俺達は扉を出て左へ進む。
右は王城へ向かう道らしい。
「これから大聖堂へ向かいます」
「王城じゃなくていいんですか?」
ライトさんは首を横に振った。
「それはある事情で出来ません」
「後は私がお話ししましょう」
オーロラさんが話を引き継いだ。
「これはお二人にはお伝えしていませんでしたが……」
何でも、オーロラさんは秘跡というものを行う必要があるらしい。
しかもその期日が今日なんだとか。
「日程をずらす事は出来ないんですか?」
何もこんな状況の時にやらなくても。
「いえ、それが今日しか出来ないのです」
「何か理由が?」
「はい。私が調整出来るものではありません」
それなら言っても仕方ないか。
別にタイミングが悪いのはオーロラさんのせいじゃないし。
「それに今から王城へ向かえば、しばらくは外へ出してもらえなくなるでしょう」
行方不明だったんだから家にいろって事かな。
王様も溺愛してるみたいだからなぁ。
「たしかにそうかもしれないですね」
俺は頷いた。
「元々この通路を使うつもりはありませんでした」
ライトさんが話す。
二人でこっそり表から侵入し、大聖堂で秘跡を行って戻ってくるつもりだったと。
「そんな事が出来るんですか?」
「はい、スキルを使えば可能です」
そんなスキルがあるのか。
前に大聖堂で見たスキルのどれかだろうけど。
「秘跡は私一人で行います。どんな形であれ大聖堂まで辿り着ければいいのです」
「分かりやすくていいわね」
オーロラさんの言葉にマァが返す。
「しっ!」
ライトさんが注意を促す。
何か異変があったんだろうか。
俺達はライトさんの視線の先を確認した。
「あれは……」
視線の先にいたのは丸い何かだった。
バスケットボールくらいの大きさで、通路の床の上でじっとしている。
その大きさと円らな瞳を気にしなければ大福に見えなくもない。
「カマル」
ライトさんの口から言葉が漏れた。
知っている名前だ。
「何でここに?」
ラジエルにあげたぬいぐるみと姿は同じ。
だけど大きさは全く違う。
ダンジョンにしかいないはずのカマルの実物がそこにいた。




