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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ
第二章 星渡巡と白鼠とワ

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第34話 見据える先

♦♦♦


「聖女様の行方はまだ分からないのですかっ」

「もっ、申し訳ございません!」


 司教にあてがわれた大聖堂の一室にて。

 部下達が司教へ頭を垂れていた。


「マーク司教様、彼らも最善を尽くしています」

「しかしですねっ」

「一旦落ち着きましょう」


 補佐役の男がそう言うと、近くにいた別の部下に紅茶を持ってこさせる。


「ふむ、いい香りだ」


 マーク司教は豪華な椅子に腰掛けると机の上に置かれた紅茶を飲んだ。


「味も素晴らしい」

「何でも秘境産の葉を使っているそうですよ」

「おお、それはまた珍しい物を」


 マーク司教は紅茶を味わいながら宙を見る。


「ふぅ、イライラしても問題は解決しませんね」


 多少は落ち着いてきたようだ。


「それで、行方についての手掛かりはなしですか」

「王城の方でも捜索はしているようですが」

「あの王の事です。いずれ我慢が利かなくなって自らも動くでしょう」

「そうなると危険ですね」

「ええ、どれだけの犠牲が出る事やら」


 彼らもグロリアス王の危険性を分かっているらしい。

 少し顔が青ざめている。


「とにかく聖女様の行方を全力で探しなさい」

「はっ!」


 部下達は急いで部屋を出て行った。


♢


 大聖堂の敷地内にある訓練場。

 そこでは数人の騎士達がこそこそ話し合っていた。


「まさか聖女様が連れ去られるとは」

「聖騎士は一体何をしていたんだ」

「いや、宿舎での事らしいし任務外だろう」


 そこへ近づく一つの影。


「だからって――」

「お主ら何を騒いでいる」

「騎士長様!」


 見上げる程の巨躯。

 鎧の隙間からはみっちり詰まった筋肉が見え隠れしている。


「いえ、何でもありません!」

「そうか? 随分と盛り上がっていたようだが」

「決してそのような事は!」

「……ならいいんだが」


 騎士達はその場から離れると思い思いに訓練を再開する。


「ぬぅ、入り方を間違ったか」


 騎士長と呼ばれた人物は軽く頭を掻いた。


「まあいい、訓練を始めるとしよう」


 背負っている大剣の柄を握るとそのまま真正面へ振り下ろす。

 風圧で剣身に巻かれていた布が解ける。

 そしてそのまま地面スレスレで止めた。


「よし」


 縦横斜め。

 様々な角度から振っては止めてを繰り返す。


「何度見ても理解出来ない」

「ああ、普通あんな風に止められないぜ」


 二人組で訓練をしていた騎士達が話す。


「筋肉をもっと付けるべきか」

「じゃあ騎士長様とまともに打ち合えるくらいを目指すか」

「……それは鍛えてどうにかなる話か?」

「言うなよ。目標は高く持とうぜ」


 お互いに木剣を振りつつ語り合う。

 そこに油断はない。

 木のぶつかる音が連なっていく。


「我らが目指すべきはライト様の方ではないか?」

「そうかもしれないがよっと」

「くっ、やるではないか」

「俺だって日々成長してるんだぞっと」

「ぐっ」


 そのまま何度か切り結んだ後、勝敗は決した。


「はぁっはぁっ」

「ふぅっふぅっ」


 息を整えつつ地面に腰を下ろす。


「休憩にしよう」

「そうだな」


 二人はしばらく座ったまま、騎士長の訓練風景を眺めていた。


♢


「くっ」


 男は苛立っていた。


「ふざけるなよ!」


 近くの家具を蹴り飛ばす。

 木製の家具はその一撃で壊れてしまった。


「クソがっ!」


 ソファーに腰掛けると宙を見た。


「聖女の行方すら分からないとは」


 その後もブツブツと文句を垂れる男。


「よくも俺の計画の邪魔をっ」


 部屋の中には黒ローブの人間達が並んでいる。

 誰も話さない。誰も動かない。

 男の言葉だけがその隙間を縫っていく。


「カレンッ!」


 男は立ち上がると叫んだ。

 フード達の最前列から一人が進み出る。


「こういう時はアレをするに限る」


 男がどういう表情をしているかはフードに隠れて分からない。

 ただ、口から出たその言葉は人の醜さに塗《まみ》れていた。


「さっさと部屋に行くぞ!」


 カレンは答えない。

 ただ足は扉へと進んでいた。


「俺の邪魔をしたやつは必ず殺す!」


 そう言いつつ扉の向こうへ消えていく。

 きっとこの男も動く事になるのだろう。

 そしてその様子を陰から見ている者もまた。


「ちゅう」


 王都の闇はたしかに深い。

 だがより深い闇もまた存在する。

 その二つが出会ったならば。

 より深い方が相手を飲み込み喰らうのだ。


♦♦♦

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