第34話 見据える先
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「聖女様の行方はまだ分からないのですかっ」
「もっ、申し訳ございません!」
司教にあてがわれた大聖堂の一室にて。
部下達が司教へ頭を垂れていた。
「マーク司教様、彼らも最善を尽くしています」
「しかしですねっ」
「一旦落ち着きましょう」
補佐役の男がそう言うと、近くにいた別の部下に紅茶を持ってこさせる。
「ふむ、いい香りだ」
マーク司教は豪華な椅子に腰掛けると机の上に置かれた紅茶を飲んだ。
「味も素晴らしい」
「何でも秘境産の葉を使っているそうですよ」
「おお、それはまた珍しい物を」
マーク司教は紅茶を味わいながら宙を見る。
「ふぅ、イライラしても問題は解決しませんね」
多少は落ち着いてきたようだ。
「それで、行方についての手掛かりはなしですか」
「王城の方でも捜索はしているようですが」
「あの王の事です。いずれ我慢が利かなくなって自らも動くでしょう」
「そうなると危険ですね」
「ええ、どれだけの犠牲が出る事やら」
彼らもグロリアス王の危険性を分かっているらしい。
少し顔が青ざめている。
「とにかく聖女様の行方を全力で探しなさい」
「はっ!」
部下達は急いで部屋を出て行った。
♢
大聖堂の敷地内にある訓練場。
そこでは数人の騎士達がこそこそ話し合っていた。
「まさか聖女様が連れ去られるとは」
「聖騎士は一体何をしていたんだ」
「いや、宿舎での事らしいし任務外だろう」
そこへ近づく一つの影。
「だからって――」
「お主ら何を騒いでいる」
「騎士長様!」
見上げる程の巨躯。
鎧の隙間からはみっちり詰まった筋肉が見え隠れしている。
「いえ、何でもありません!」
「そうか? 随分と盛り上がっていたようだが」
「決してそのような事は!」
「……ならいいんだが」
騎士達はその場から離れると思い思いに訓練を再開する。
「ぬぅ、入り方を間違ったか」
騎士長と呼ばれた人物は軽く頭を掻いた。
「まあいい、訓練を始めるとしよう」
背負っている大剣の柄を握るとそのまま真正面へ振り下ろす。
風圧で剣身に巻かれていた布が解ける。
そしてそのまま地面スレスレで止めた。
「よし」
縦横斜め。
様々な角度から振っては止めてを繰り返す。
「何度見ても理解出来ない」
「ああ、普通あんな風に止められないぜ」
二人組で訓練をしていた騎士達が話す。
「筋肉をもっと付けるべきか」
「じゃあ騎士長様とまともに打ち合えるくらいを目指すか」
「……それは鍛えてどうにかなる話か?」
「言うなよ。目標は高く持とうぜ」
お互いに木剣を振りつつ語り合う。
そこに油断はない。
木のぶつかる音が連なっていく。
「我らが目指すべきはライト様の方ではないか?」
「そうかもしれないがよっと」
「くっ、やるではないか」
「俺だって日々成長してるんだぞっと」
「ぐっ」
そのまま何度か切り結んだ後、勝敗は決した。
「はぁっはぁっ」
「ふぅっふぅっ」
息を整えつつ地面に腰を下ろす。
「休憩にしよう」
「そうだな」
二人はしばらく座ったまま、騎士長の訓練風景を眺めていた。
♢
「くっ」
男は苛立っていた。
「ふざけるなよ!」
近くの家具を蹴り飛ばす。
木製の家具はその一撃で壊れてしまった。
「クソがっ!」
ソファーに腰掛けると宙を見た。
「聖女の行方すら分からないとは」
その後もブツブツと文句を垂れる男。
「よくも俺の計画の邪魔をっ」
部屋の中には黒ローブの人間達が並んでいる。
誰も話さない。誰も動かない。
男の言葉だけがその隙間を縫っていく。
「カレンッ!」
男は立ち上がると叫んだ。
フード達の最前列から一人が進み出る。
「こういう時はアレをするに限る」
男がどういう表情をしているかはフードに隠れて分からない。
ただ、口から出たその言葉は人の醜さに塗れていた。
「さっさと部屋に行くぞ!」
カレンは答えない。
ただ足は扉へと進んでいた。
「俺の邪魔をしたやつは必ず殺す!」
そう言いつつ扉の向こうへ消えていく。
きっとこの男も動く事になるのだろう。
そしてその様子を陰から見ている者もまた。
「ちゅう」
王都の闇はたしかに深い。
だがより深い闇もまた存在する。
その二つが出会ったならば。
より深い方が相手を飲み込み喰らうのだ。
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