第31話 お土産と聖騎士の誘い
「にゃ」
「ちゅう」
机の上に置いたカマルのぬいぐるみを不思議そうに見ている。
お土産に買ってみた。
本命は次だ。
「ハッズちょっと」
「ちゅう?」
ハッズを呼び寄せると小さな寝袋を見せる。
《羽毛の小寝袋》クラス:Ⅰ 品質:劣
・羽毛で作られた寝袋だったもの。状態が悪く寝袋としては使用出来ない。ただし、適性のある者の手に渡ればその限りではない。
おばあさんが入れ物だと勘違いしていた寝袋。
人には小さすぎるけど、ハッズ用ならちょうどいい大きさ。
「ちょっと入ってみてくれない?」
「ちゅう」
前のボタンを外して中に入ってもらう。
しばらくもぞもぞと動いていたが、ぴょこんと穴の部分から顔を出した。
「ちゅ!」
その時、寝袋が淡い光を放つ。
「やっぱり」
「ちゅうぅ」
事態が飲み込めないのか、ハッズは困惑した声を上げた。
♢
「すまん、説明が先だった」
「ちゅ」
寝袋は無事覚醒を果たした。
しかし、いきなり光に包まれたハッズはどうしていいか分からず固まってしまう。
俺は頭を下げて謝った。
ハッズは許してくれた。
「何やってるのよ」
「いや、すまんすまん」
頭をかきつつマァを見る。
「それでどう変わったの?」
「ちょっと待って」
鑑定する。
《子守歌の寝袋》クラス:Ⅳ 品質:優
・月の力が宿る羽毛で作られた寝袋。小動物のみが装備可能。破壊不可。【月の五歌】を発動出来る。
【月の五歌】クラス:Ⅳ
・装備スキル。スキル発動を願う事で発動者にのみ聞こえる子守歌を流す。五つの歌があり、発動者を睡眠に適した状態へ整える。任意で解除も可能。
「へぇ」
寝つきがよくなるスキルか。
皆に鑑定内容を伝える。
「ハッズよかったわね」
「ちゅう」
寝袋から顔を出したまま返事をする。
どうやら気に入ったみたいだ。
「にゃん」
ラジエルも祝福しつつ、両手でカマルを捕まえている。
「カマルはラジエルにあげよう」
ハッズだけじゃ不公平だしな。
「じゃあ無事確認も終わったしご飯食べるか」
「そうね」
コンコン、コンコン
俺がちょうど異界の門を開こうとした時、部屋の扉がノックされた。
「誰かしら」
マァは扉へ近づくと確認する。
「すみません、受付の者ですが」
「何かしら?」
部屋の清掃とかかな。
「お客様に会いたいという方が来られています」
♢
俺とマァは受付前で待っている相手の姿を覗き見る。
高そうな鎧を着たイケメンだ。
「あれってたしか教会で見た……」
「そうなの?」
確認のために鑑定もした。
間違いない。
「何でこんなところに」
会いに来られる理由なんてないはずだ。
そう思っていると、いきなりこちらを振り向いた。
「っ!」
この距離で気付いた!?
男はこっちに近づいてくる。
「見つかってしまったわね」
俺達は通路の角から出た。
「こんにちは」
明るく挨拶してくる。
覗き見ていた事は言ってこない。
「……どうも」
「ごきげんよう」
マァは優雅に挨拶を返しているが、俺は正直この男が苦手だ。
何か隠してる感じがするんだよな。
「いきなり来て申し訳ない」
笑みを浮かべて謝ってくる。
そう思うなら来ないでほしい。
「それで用件は何なのかしら」
それが本当に分からない。
訪ねてきた理由は何だろう。
「そうですね。貴女というよりも……」
「?」
俺を見てくる。
「貴方に用事があるんです」
「俺に……ですか?」
特に何もないはずだ。
この男を見たのも大聖堂で一度だけ。
……もしかして鑑定がバレていた!?
「そんなに身構えなくてもいいですよ」
こっちは心臓バクバクだ。
何を言ってくるつもりなんだ。
「そうですか」
「教会の聖騎士相手では仕方ないですよね」
そこじゃない。
俺が気にしてるのは鑑定だけだ。
「ここまで来たのには理由がありまして」
やっとか。
本題は何だ?
「実は会ってほしい方がいるんです」
♢
「ご足労願って申し訳ない」
男は俺達を先導している。
ラジエルとハッズは見つかるとマズいから部屋に残してきた。
「いえ……」
道中お互いに自己紹介は済ませている。
ライト=ストレンジ=フォルス。
大聖堂の聖騎士。
鑑定で分かってはいたけど、改めて言われると何だか圧を感じる。
「結構遠いんですか?」
男の家に招かれた俺達は大通りを歩いていた。
ちょうど大聖堂と王城がどっちも見えるな。
「私の家は大聖堂と王城を結んだ線の真ん中辺りにありまして」
「そうなんですか」
「なのでもうすぐ着きますよ」
よかった。
早くその人に会って帰りたい。
俺達は昼食がまだなんだ。
ラジエルとハッズには果物とナッツを置いてきた。
「ここが我が家です」
高い塀で囲まれた大きな屋敷だ。
周りを見ても高級住宅地って感じがする。
「どうぞ」
門番に門を開けさせると中に入る。
「うわぁ」
家の玄関までが遠い。
そして庭が広い。
「こちらへ」
俺達は玄関へは向かわず、脇道を進む。
敷地が広いと建物も分かれるのか。
視線の先には本宅よりは小さいが立派な建物が見える。
「ここが目的地になります」
男が玄関を開けると俺達を中へ入れた。
そして扉を閉めると鍵をかける。
「ではこちらに」
男はどんどん進んでいく。
その後ろをついて行きながら俺とマァは目で合図する。
何かあればすぐに逃げる。
「どうぞ」
建物の奥、小さな扉の前で入るよう促された。
「分かりました」
俺が先陣を切る。
マァには背後からの不意打ちを警戒してもらう。
「失礼します」
意を決して中へと入った。
そこはテーブルや椅子が置いてあるだけのシンプルな部屋だ。
ただ、壁の一角がガラス窓になっていて外の庭が見えるようになっている。
「……」
外からの光の中、誰かが椅子に座って外を眺めている。
長い金髪に白い服、その後ろ姿にどこか見覚えがあった。
「あなたは……」
『思ったよりも早い再会でしたね』
彼女は椅子から立ち上がるとこちらを振り返る。
光の中で髪がキラキラと輝いた。
『よく来て下さいました』
笑顔で出迎えてくれたのは、聖女のオーロラさんだった。




