第30話 お買い物と怪しい影
「では行ってきます」
「行ってくる」
「にゃん」
「ちゅう」
俺達は朝食を済ませると宿を出た。
ラジエルとハッズは仲良くお留守番だ。
ラジエルは気分でだろうが、ハッズは調査で忙しかったからな。
ゆっくり休んでもらいたい。
「普段持つ物と訓練に使う物それぞれいるのよね?」
「ああ、とにかく数を集めたい」
「じゃあいくつか店を回りましょうか」
今日は短剣を買う。
デザインや使用感にこだわらなければ選択肢は多い。
「安くても強度がありそうな物を買うよ」
「それでいいと思うわ。脆いと付与の練習には不向きでしょうし」
「その通り」
店を回りつつ安めの短剣を買っていく。
一度に大量買いはしない。
買い占めはよくないからな。
♢
「あっ、今日は青空市場をやってるみたいね」
「青空市場?」
王都の中心部にある広場に入ると多くの人でごった返していた。
見ると敷物の上や机の上に色んな商品が並べられている。
「個人で不要になった物や古い道具なんかを売る市場よ」
「なるほど、フリーマーケットみたいな感じか」
興味を惹かれた俺は店頭の品を眺める。
「これは何だろう」
白くて丸い何か。
小さな目も付いてる。
一瞬、大福みたいな食べ物かと思ったんだけど。
「それはカマルね」
「カマル?」
鑑定してみる。
《カマルのぬいぐるみ(白)》クラス:Ⅰ 品質:優
・布で作られたぬいぐるみ。白色のカマルを模している。集めるといい事があるかも?
「ぬいぐるみかぁ」
「そうね。ちなみにカマルはダンジョンのモンスターよ」
「これが?」
「本当はもっと大きいの」
マァは手で大きさを描く。
大体バスケットボールくらいか。
「それにモンスターなのに攻撃してこないらしいわ」
「じゃあダンジョン踏破も楽でいいな」
「そうでもないみたい」
「ん?」
マァが急に真剣な顔になる。
何か特殊な能力でもあるのか?
机の上に置いてあるカマルを見る。
つぶらな瞳で見返してくる。
「心が痛むのよ」
「は?」
「踏破のためとはいえ無抵抗のカマルを殺していくのよ?」
「……ああ」
想像してみる。
このゆるキャラみたいなモンスターを斬っていく自分の姿。
カマルはただただ無抵抗で、俺が襲いかかるのをじっと見つめている。
「ちょっと嫌かもな」
「そうでしょ」
せめて生きるために抗って欲しいところだ。
無害そうな姿を見てそう思った。
♢
「そろそろ帰ろうか」
「そうね」
もうすぐ昼になる。
宿に帰って食事をしないと。
「この店で最後にしよう」
「分かったわ」
敷物の上には木像や装飾品がずらりと並んでいる。
おばあさんが店番をしていて、商品の説明をしてくれる。
「これは何かしら」
「とある村で作られている木彫りの鳥だよ」
「これは?」
「国の外から流れてきた銀の腕輪さね」
「じゃあこれは?」
「これは……何だったかね」
軽快に答えていたおばあさんが止まる。
敷物の隅。
そこに置かれている古ぼけた何か。
《羽毛の小寝袋》クラス:Ⅰ 品質:劣
・羽毛で作られた寝袋だったもの。状態が悪く寝袋としては使用出来ない。ただし、適性のある者の手に渡ればその限りではない。
「寝袋?」
「ああ、確かそんな名前だった気もするね」
おばあさんはそれを手に取ると俺に見せてくる。
「ほら、ここから物を入れられるんだ」
顔を出すであろう穴部分を指差して言う。
説明してる使い方は違うけど、多分ダンジョン産の道具か何かだと思う。
「へぇ、そうなのね」
マァはおばあさんの説明に頷いている。
寝袋って事は中に入って寝るんだろうけど。
小さすぎて人では無理だ。
「それっていくらなんですか?」
試しに訊いてみる。
出来れば欲しい。
安ければいいんだけど。
「そうだねぇ、見た目通り汚れちまってるしこのくらいかねぇ」
おばあさんは指を一本立てる。
投げ売りのダンジョン装備が大体小銀貨一枚くらいだから、相場ではある。
「じゃあ買います」
腰の巾着袋から小銀貨一枚を出して渡した。
「出来ればもう少し細かいやつは持ってないのかい?」
「え?」
「おつりが少なくてね」
「じゃあ私が出すわ」
マァが自分の巾着袋から大銅貨を一枚取り出す。
貨幣については勉強済みだ。
たしか大銅貨十枚で小銀貨一枚になるから、俺が渡した金額の十分の一だ。
「ありがとうね」
おばあさんは小銀貨をマァに渡すと大銅貨を受け取る。
「はい、しまっておきなさい」
小銀貨を俺に渡してくるマァ。
戸惑いつつも自分の財布に入れた。
「じゃあこれね」
おばあさんがマァに寝袋を渡している。
この人は多分ダンジョン産の道具だって気付いてないんだ。
だから安かった。
「またね、おばあちゃん」
「では失礼します」
「またおいで。いつでも歓迎するよ」
俺達は露店に別れを告げると大通りを歩き出した。
「で、何かあるのよね?」
マァが俺の顔を覗き込んでくる。
「ああ、よく気付いたな」
「どれだけ一緒にいると思ってるのよ」
確かにそうだった。
俺達は話しつつ、そのまま宿へと帰った。
♦♦♦
「見つけた」
こんな場所で暢気にデートか。
こっちは探すのに苦労したってのに。
「本当に役に立つのか?」
どういう人間かは把握している。
でもどうしても疑問は残る。
「まあいい」
相手が誰だろうとやる事は変わらない。
目的のためには必要な存在だ。
「全ては――」
♦♦♦




