第28話 焦り
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「一体どうなっておるのだ」
ワシは椅子の背もたれに寄りかかる。
「最近行方の分からぬ者が増えたと聞いてはいたが」
プランドラーのわがまま娘に救貧院の子供たち。
「そして此度は――」
コンコン、コンコン
その時執務室の扉がノックされた。
「誰か」
ワシの一言に部屋付きのメイドが扉へ近づく。
「宰相様でございます」
「そうか、入れてやれ」
メイドに内側から開けさせる。
「宰相ロウ、ただいま帰参致しました」
「うむ」
ワシは視線でメイドを下がらせる。
無言で礼をすると去って行ったな。
ここから先の話は誰にも聞かれる訳にはいかん。
「では、ご報告致します」
宰相はワシと二人になったのを見計らって話し始める。
宰相には情報収集と捜索を頼んでおいたのだ。
何か分かればいいのだが……。
「結論から先に申し上げます」
「うむ」
「オーロラ様の行方はまだ分かっておりません」
「……そうか」
宰相でも分からんか。
「ただ色々と判明した事はございます」
「ほう」
「斬られた者がどうなったかはご存じですか?」
「知っておる。見つけた時には既に亡くなっておったようだな」
嘆かわしい事よ。
大聖堂内で人命が失われるなど。
「どうやらその者はアグリィ派に所属していたようで」
「知のアグリィか」
「ええ、教会には後継ぎのマークもおりますし」
次期当主のマーク。
頭は切れるが思想が少々偏っておる。
「あれで当主が務まるかどうか……」
「そう言われますな。あれでも優秀なのです」
宰相もワシと同じ考えなのだろう。
不安が顔に出ておる。
「亡くなった者の死因は剣による一突き。正確に心臓を抉っております」
「不意を打ったか、相当な手練れか」
「両方の可能性もあります」
警備が厳重なはずの大聖堂の宿舎に忍び込むような相手だ。
尋常な者ではあるまいな。
「聖騎士は何をしておったのだ」
「オーロラ様の身辺警護を担っているとはいえ、流石に宿舎に入る事は出来ません」
よりにもよって宿舎で人斬りとは。
話を聞いた時は飛び上がって驚いたわ。
「そんな事は分かっておる、ただの愚痴よ。あやつは何と?」
「翌朝迎えに伺ったところ既に宿舎からは姿を消しておられた、と」
「宿舎の警備の者は?」
「警備の者も怪しい人物は見ていないと申しております」
「ふむ」
「民には伝えますか?」
「……いや、まだよい」
「承知致しました」
斬られた者が見つかったのは朝という話だ。
聖騎士の迎えが来て、別の教徒がオーロラを呼びに行く途中で発見した。
それまでの宿舎への出入りに不審な点もない。
「犯人は未だ分からず、か。だが少なくとも……」
オーロラがいなくなったのは宿舎に戻ってから翌朝までの間だ。
その時間帯の人の動きを徹底的に追えば何か分かるかもしれん。
「きっと今頃は寂しがっているに違いない。宰相もそう思うだろう?」
「そうですな」
生きていないとは考えん。
殺すのが目的なら宿舎で殺されているはずだ。
「クククッ」
今まで成功しておったからと調子に乗りおって。
連れ去った犯人は極刑ですら生温い。
ワシのオーロラちゃんに手を出した事、骨の髄まで後悔させてやろう。
「必ず無事に助け出せ」
「はっ、全力を尽くします」
可愛い可愛いオーロラちゃんは絶対にワシが助けてみせる。
「頼んだぞ」
ついでに犯人も引きずり出して。
そして必ずこの手で八つ裂きにしてくれるわ!
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「何だ?」
一瞬背筋が冷えたような感覚が。
「あら、貴方は」
「……ご機嫌はいかがですか」
頭を振ると前を見る。
部屋の中には聖女がいた。
椅子に座って外の庭を眺めていたようだ。
「特に変わりはないですよ」
「ふむ、何か心配事でも?」
表情に影がある。
ここでの生活に苦労はないはずだが。
「まだ少々混乱しているのです」
なるほど、目の前で人が斬られればそうもなるか。
オレみたいに日頃から動じないよう訓練でもしていなければ。
「無理もない。ですが必要な事ですから」
「……秘跡は無事に行えるのですよね?」
無事に始まりはするだろうな。
内容までは知らないが儀式の場所は把握している。
ただし、無事に終わるかどうかは聖女次第だ。
「それはお約束します」
「今はその言葉、信じておきましょう」
聖女の表情が険しくなる。
といってもそれは聖女基準でだ。
中々に迫力がない。
「これは手厳しい」
「どちらにしろ私には選択肢がありませんから」
まあいい。
全ては秘跡の時に分かる事だ。
オレは聖女から視線を逸らし、そのまま部屋を後にした。
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