第26話 散るものと生まれるもの
しばらく動けなかったが、握りしめていた柄を見てハッとする。
夢半ばで散っていった鉄の短剣。
その忘れ形見が手の中にある。
俺は聖水を飲んで体力を回復させると、木箱へ向かって歩く。
「すまない」
恐らく付与のせいだろう。
付与した時間が長かったのか、それとも夜を付与する事自体がいけなかったのか。
「とにかくだ」
付与にも何らかのリスクがある事が分かった。
それが今回学んだ教訓だ。
今後に生かせるよう尊い犠牲の事は忘れないようにしよう。
「ありがとう」
柄をそっと木箱の中に置く。
その時偶然、隣の装備に手が触れてしまった。
「これは……」
沈黙したままのダンジョン装備。
装備しようとしても覚醒しなかった内の一つ。
「いつ覚醒するのかな」
何となく触れつつ考える。
覚醒した装備を身につけて戦う姿を。
「いいと思うんだけどな」
その瞬間、装備が淡く光り出す。
「は? 鑑定っ」
《古の籠手》クラス:Ⅰ 品質:劣
・金属で作られた籠手だったもの。状態が悪く籠手としては使用出来ない。ただし、適性のある者の手に渡ればその限りではない。
確かグレイスさんの店でお詫びにもらった装備だ。
覚醒しない事は確認したはず。
「何で今?」
光が収まると、そこには生まれ変わった籠手の姿があった。
鑑定内容も変化している。
《星天の籠手》クラス:Ⅴ 品質:優
・星々の力が宿る金属で作られた籠手。スキル名に夜が入る者のみが装備可能。破壊不可。【星影の約束】を発動出来る。
【星影の約束】クラス:Ⅴ
・装備スキル。スキル発動を願い掌を合わせる事で、発動者または対象者を中心とした結界を生成する。発動には100SPが必要。何人たりとも二人の時間を妨げる事は出来ない。発動者及び対象者は結界の外側へ出られず、発動者及び対象者以外は結界の内側へ入れない。
「うわぁ」
タダでもらった装備がクラスⅤになった。
ちょっと期待はしてたけど、やっぱり古シリーズは覚醒したらクラスⅤになるのかも。
読む限りスキルの内容も凄そうだし。
「デザインも格好いい」
見た目は青白い金属製の籠手だ。
指先まで金属で覆うタイプで、拳や肘の所は追加で装甲が付いている。
所々に金色の模様も施してあって美術品の様な美しさがある。
「スキル名に夜が入る者、か」
装備条件は特定のスキル。
俺はキノコを食べる事で新しいスキルを得た。
しかも夜に関しては【夜籠】と【夜耐性】の二つもある。
「そうか、後から条件を満たす事もあるんだ」
定期的に装備に触れて確認しておくべきだった。
「それにしても」
星辰の短剣を収納したと思ったら今度はこれか。
見せられない物がまた増えてしまったぞ。
「と、とりあえず装備してみるか」
手間取りつつどうにか籠手を着けていく。
指輪が邪魔になるかと思ったが、籠手のサイズが自動的に変化しているようであまり気にならない。
「よし、出来た」
両腕を色んな角度から見る。
問題はなさそうだ。
「ただ、やっぱり目立つかもしれない」
前に見た光塵の籠手よりは装飾は控えめ。
ただし放つ存在感はあの籠手以上だ。
「収蔵の指輪に入れるか?」
俺はステータスを確認する。
星渡 巡
年齢:18歳
種族:異世界人
職業:旅人
SP:110/110
MP:12
固有スキル:【まどう図書館(貸出中)】
通常スキル:【気配遮断】【短剣術】【闇耐性】【土耐性】【夜籠】【夜耐性】
装備スキル:【一界一城の主】【装備収納】
【装備収納】クラス:Ⅲ
・装備スキル。スキル発動を願い装備を手に持つ事でその装備を収納する。指輪を外すと収納された装備は手元に戻る。収納出来る数は指輪のクラスにより変化する。収納した装備のスキルを使用可能。
『星見の鑑定玉』『星辰の短剣』『写し身の鞘』
「うーん」
星辰の短剣と写し身の鞘は別扱いらしい。
元々セットじゃなかったからかな。
もしくはそれぞれがスキルを持っているからかもしれない。
「どっちにしてもだな」
収納に空きがないのは変わらない。
「写し身の鞘を外すか?」
でも短剣を取り出す時に抜き身なのは危ないし。
「それに防具だもんな」
正直、身に着けておきたい気持ちの方が強い。
もし誰かに斬りつけられても肘から先は守られる。
「そもそも俺の左腕って見た目があれだしな」
妖星茸が融合して以来、左腕には紫と白の稲妻ラインが走っている。
ローブや服である程度隠せるけど、手の方にも伸びてるからな。
そう考えると腕周りが目立つのは今更な気もする。
「籠手の方がまだマシか?」
派手なタトゥーを見られるよりは、高そうな防具の方が世間の受けはいいかもしれない。
「にゃん」
悩んでいるとラジエルがこちらに来た。
籠手を見ている。
「どうした、これが気になるのか?」
しゃがむと鼻先に手を持っていく。
ラジエルはスンスン嗅いだ後、何もせずに離れた。
「気に入らなかった?」
嫌がってはなさそうだったけど。
「ま、いいや。普段は装備しとこう」
動きに違和感もないし、身を守るのは大事だ。
ただ、撫でる時は出来るだけ外そう。
ラジエルの反応を見てそう思った。




