第25話 夜の功罪
昨日の夕飯は結果から見れば大成功だった。
みんなも美味しいと言ってくれたし。
でも……。
「まさかあんな事になるとは」
まず下ごしらえの段階で大変だった。
水で戻そうとしばらく漬けても全然元に戻らない。
だから包丁である程度小さく切って、ぬるま湯に漬ける作戦へ。
「それで戻ったはいいけど」
次はどんどん漬けた水が黒くなって替える羽目に。
二回捨てたタイミングで鑑定もしつつ汚れを水で洗い落とす。
「最後は煮るんだけど」
煮始めた途端、鍋の中の全てが黒一色に染まった。
汁も黒ければ具材も黒い。
イカ墨をぶっかけたのかってくらいには黒い。
「大丈夫なのは分かってるんだけど」
鑑定結果では食べられる状態になっていた。
実際、歯ごたえもあって美味しい。
ただし……。
「見た目がなぁ」
食卓に彩りどころか闇……じゃなかった夜をお届けしてしまった。
これで味が微妙だったらお蔵入りしていたレベルだ。
「残りは大事に食べような」
「にゃん」
ラジエルを撫でつつ丘に置いてある木箱の一つを見る。
お湯で戻さなかった分は袋に詰めて中に保管してある。
「でも、これでスキルも増えたし」
下ごしらえに時間は掛かるし料理の見た目も真っ黒になるけど。
その分の見返りは味以外にもあった。
「鑑定」
星渡 巡
年齢:18歳
種族:異世界人
職業:旅人
SP:110/110
MP:12
固有スキル:【まどう図書館(貸出中)】
通常スキル:【気配遮断】【短剣術】【闇耐性】【土耐性】【夜籠】【夜耐性】
装備スキル:【一界一城の主】【星虹の一撃】【剣状変化】【装備収納】
「夜耐性か」
【夜耐性】クラス:Ⅰ
・通常スキル。夜系統への耐性が微上昇。
【夜籠】は夜に関係するスキルだ。
この【夜耐性】があれば少しは使いこなす事が出来るかも。
「今回はこれもあるし」
俺は腰に下げた水筒を見た。
見た目は普通の水筒だが、中身は違う。
《聖水》クラス:Ⅴ 品質:優
・原初の水より作られた聖水。触れたものを浄化し、服用した者を復活させる。
マァに状況を説明したら分けてくれた。
むしろ早く言うように怒られたな。
よく考えたらSPも回復するんだし、何回でもスキルを発動出来るじゃないか。
「まあ、腹が水で膨れるまでだけど」
それでも十分すぎる。
「じゃあ始めようか」
今日もスキルの訓練を。
♢
「おおっ」
【夜籠】を発動した瞬間、違いはすぐに分かった。
「力が抜ける感じが減ってる」
今まで入っていたスリップダメージが減った。
そんな感じだろうか。
「これならしばらくは動けそうだ」
まずは動きを確かめる。
敵を想定して短剣を振り、どのくらいで体力が切れるか見極める。
「ふぅ、この辺りかな」
多分五分くらいだと思う。
これ以上は構えを維持出来ない。
「解除」
夜がさあっと晴れる。
目の前にはスキル発動前と変わらない丘の姿があった。
「にゃん」
ラジエルが寄ってくる。
抱き上げると胡坐をかいた。
「ふぅっ、生き返る~」
水筒の聖水を飲む。
身体に染み渡るのが分かった。
「すごい便利なんだけど、外では飲めないのがな」
なにせ光る水だ。
目立つに決まってる。
「ラジエルもありがとな」
風に乗って爽やかないい香りがしてきた。
俺がたまに感じるこれは、ラジエルが意図的に発している匂いだ。
多分気を利かせてくれてるんだと思う。
疲れた俺を癒すために。
「にゃ」
気にするなとでも言うようにラジエルは一鳴き。
俺はラジエルの頭を優しく撫でる。
「次は夜の付与も試さないとな」
しばらく休憩した後、木箱が並ぶ場所へ向かう。
その中からある木箱を選んで開けた。
これには王都で買い集めた装備を入れてある。
「よし、これだ」
俺はその中からとある短剣を取り出した。
《鉄の短剣》クラス:Ⅱ 品質:優
・鉄で作られた短剣。専門の職人により丁寧に制作された。切れ味や頑丈さは折り紙付き。
星辰の短剣に次ぐ第三の相棒になるかもしれない武器だ。
聞き込みをしている時に買った。
ちなみに第三の理由は第一がラジエル、第二が星辰の短剣だから。
「オーロラさんの件は別として、これ以上のトラブルは避けたい」
普段王都を歩くときはこの短剣を腰に差す予定だ。
ローブで隠れているとはいえ、クラスⅤの武器を持っているのは知られるだけでもリスクだ。
奪うために狙われる可能性があるからな。
「おー」
星辰の短剣を収蔵の指輪に入れると新しい短剣を腰に差す。
大きさも星辰の短剣とほぼ同じ物を選んだから、違和感は特にない。
「じゃあ続きといこうか」
その場から離れ、周りに何もない場所でスキルを使う。
「夜籠」
見上げれば夜空が広がる。
星明かりしかない世界の中で、短剣を構える。
「付与」
短剣に手を添え呟く。
すると柔らかな光を発する闇が剣身を覆った。
「おお! 成功だ」
次に何度か振ってみる。
特に振り心地に変わりはない。
「攻撃力がアップしてるとかそんな感じか?」
斬りつける対象がないからよく分からないな。
何かしらの効果があると期待しよう。
「斬撃、飛ばせたりするかな」
それが出来たら最高だ。
短剣の欠点である遠距離への攻撃も補える。
「ふっ!」
斬撃を飛ばすようにイメージして振る。
「……飛ばないか」
夜の付与対象は短剣だ。
あくまで出来るのは付与だけであって、動いたりはしないのかもしれない。
「もう少しだけ試そう」
その後、何度やっても斬撃は飛ばなかった。
♢
「解除」
【夜籠】を解除した俺は草原に座り込む。
そして一旦短剣を鞘へ納めようとした。
ピシッ
「ん?」
手元から音がする。
視線を向けると短剣に罅が無数に入っていた。
そしてボロボロと崩れていく。
「はぁ!?」
第三の相棒予定だった短剣。
一緒に王都を歩くはずだった鉄の短剣。
いっぱい悩んで選び抜いた俺の短剣。
「あぁ」
その最期の散り様を俺はただ見守る事しか出来なかった。




