第22話 広がる噂とハッズの調査
異界から戻ってしばらくすると、マァが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「メグル! 大変な事が起きたみたい」
「何があった?」
椅子に座らせ事情を聴く。
机の上にはラジエルと全身黒子姿のハッズが並ぶ。
「大聖堂で事件が起こったらしいの」
建物内で誰かが斬られたとかで大騒ぎらしい。
「何だって!?」
「噂だけどね。でも本当みたい」
大聖堂なんかで事件を起こしたらすぐ捕まるに決まってる。
犯人はもう失うものがない?
それとも相当覚悟が決まっていたとか?
「オーロラさんは無事なのかな」
「それが分からないの」
どうやら誰かが斬られたのは本当らしいが、それが誰かや犯人は誰かといった部分が話す相手によって違っているらしい。
正確な情報が欲しいところだけど。
「困ったね」
その時、机の上にいたハッズが前に進み出てきた。
「ちゅう」
「ん? どうした」
「ちゅうちゅう」
何を言いたいのか分からなくて首を傾げる。
「なんですって!?」
マァがそれを聞いて驚いてる。
何か重要な事を話しているのかな。
「それは本当なの?」
「ちゅう」
「危なくないの?」
「ちゅうちゅ」
「……分かった。お願い出来る?」
「ちゅう」
次の瞬間、ハッズは目の前から消えた。
少し窓が開いてるし、そこから出て行ったのかな。
「何をしに行ったんだ?」
ただの散歩じゃなさそうだけど。
「ハッズが調査をしてくるって」
「調査?」
何を調査するんだ。
もしかして大聖堂の事件についてじゃないよな。
「ええ、大聖堂の事件についてよ」
当たってたか。
「どうやって調べるんだ?」
そこが疑問だ。
ハッズは素早いから人に捕まる心配はないと思う。
ただ、どうやって情報を仕入れてくるのか分からない。
「多分聞き込みとか……建物にこっそり入ったりもあるかも」
「建物って……大聖堂に!?」
さすがにそれは危ないんじゃないか?
「ハッズは大丈夫って言っていたし、それに」
「それに?」
「ハッズの仲間が王都にいるらしいの」
仲間?
「そっちにも頼んで調べるって」
「そんなのいつ出来たんだ?」
マァといつも一緒にいたと思うけど。
「ハッズはたまに散歩をしたがるから、その時じゃないかしら」
マァによると街中の依頼や知り合いと会っている間にいなくなる事があったらしい。
毎回ちゃんと戻ってくるから事前に知らせる事を条件に許可していたんだと。
「そうだったのか……」
うちのラジエルはその辺どうなんだろうな。
今は机の上で丸くなっているが。
「散歩したかったら自分から言うか」
ま、そんな事で遠慮はしないだろうからな。
気付いてないだけで、案外ふらっと勝手にいなくなったりしてそうだ。
「どうかしたの?」
「いや、何でもない」
いかん、今はマァとの話に集中しないと。
「とりあえずハッズの帰りを待つしかないか」
「そうね、今は無事に帰ってくるのを祈りましょう」
♢
夕飯の時間になってハッズが戻ってきた。
「ちゅう」
「おかえりなさい」
「おかえり」
「にゃん」
俺達は部屋でハッズを迎える。
「怪我とかはしてない?」
「ちゅう」
「よかったわ」
大丈夫そうだな。
「それで、何か分かったのかしら」
「ちゅう」
ハッズによると大聖堂で数日前に人が斬られたのは事実のようだ。
被害者は女性らしいが、それがオーロラさんかは不明。
ただ、その直後からオーロラさんを大聖堂で見た人がいないらしい。
「それは……」
「何か関係がありそうね」
オーロラさんなら真っ先に周りを落ち着かせに動くんじゃないかと思う。
不安に思う人達を放ってはおけないだろうし。
それなのに姿を見せないのはつまり。
「斬られたか、事件に巻き込まれたか」
「一歩遅かったのかしら……」
俺達の表情は暗くなる。
教会の闇を暴くために動いていたのなら、こういう事態もありえたんだ。
ただ、しばらく大人しくすると言っていたしこれ以上危害は加えられないと思っていた。
だから、次に会えた時にでも軽く状況を確認するつもりでいたのに。
「見込みが甘かったな」
「そうね」
王城経由で会えるかもと思った矢先にこれだ。
「そういえば王様はどうしてるんだ?」
オーロラさんは聖女でもあり同時に王女でもある。
大聖堂だけじゃなくて王城も混乱してるんじゃ……。
「分からないわ」
「そうだよな……」
王様が王城で何をしてるかなんて誰も知らないか。
直接様子を見れる訳でもないし。
「ちゅう」
「あら、どうしたの?」
ハッズが手を上げてアピールしている。
「ちゅうちゅ」
「大丈夫なの?」
「ちゅう」
「そうなの」
「ちゅちゅ」
「えっ、今から?」
マァが驚いた顔でハッズを見ている。
今からまた調べに行くんだろうか。
「もう夜になるわ。今日は休んで明日からにしましょう」
「ちゅう」
「……分かったわ。ただしご飯は食べていきなさい」
「ちゅ」
マァはハッズ用の小皿を出すとナッツを入れる。
「ちゅ!」
それを急いで頬に詰めるとすぐに消えた。
「もう少しゆっくりしていけばいいのに」
マァはため息を吐くと椅子に座り直す。
「大丈夫そうか?」
「ええ、むしろ夜の方が安全かもしれないわ」
確かに、全身黒子状態なら暗い方が見つかり難いだろうな。
「今日は少し窓を開けておきましょう」
「ああ」
いつ帰ってきても大丈夫なように。
「その代わり寝る時の明かりは消すわ」
「分かった」
外に光が漏れないようにだろう。
「そういえばマァってさ」
「何?」
「暗くても眠れるの?」
「……」
一緒にいるようになってから、ずっと寝る時は明かりを点けていた。
てっきり暗いと眠れないからだと思ってたんだけど。
「眠れるわよ」
「じゃあ何で」
「秘密よ」
マァはぷいっとそっぽを向く
微妙に頬が赤いのは何か恥ずかしい理由でもあるからか。
「分かった、これ以上は訊かないよ」
暗くても眠れるのが分かっただけで十分だ。
「にゃん」
ラジエルがそんな俺達を見て鳴いた。
「そうでした。私達も夕食を摂りましょうか」
「ああ、ラジエルの分も準備するよ」
あんまり遅くなると食堂も閉まってしまう。
急いで支度をして部屋を出る。
ラジエルには異界で作ったスープを置いていく。
これはキノコを入れてないけど、冷えても美味しい一品だ。
「戻ったら一緒に果物食べような」
「にゃん」
こうして俺達の夜は更けていった。




