第19話 あつまれ きのこの森
俺とラジエルは霧を避けつつ森の中を歩いている。
視界を確保した方がキノコも見つけやすいんだ。
「霧の中だと今いる場所も分からないからなぁ」
「にゃん」
ここに来る前、試しに異界の中央にある丘からこの森の方角を見てみた。
どこにもあの天を衝くような巨大キノコの姿はなかった。
壁と見間違えた倒木も、あの霧すらも確認出来ず、遠くまで広がっていたのはただの森だけ。
多分だけど霧の一帯には外から見られるのを防ぐ何かか、もしくは中にいる人間に幻覚を見せる何かがあるのかもしれない。
「とにかく、色んな種類を採って行こう」
同じ種類のキノコはスルーする。
昨日で十分量は採れているし、食べる量にも限界がある。
今は新しい種類を見つける事を優先する。
「まあ結局最後はあの広場に行くんだけど」
あの巨大キノコから生まれたキノコがまた見つかるかもしれないし。
「にゃ」
「おっ、何か見つけたか?」
ラジエルの視線の先を見るとかなり大きなキノコが生えていた。
初めて見る種類だ。
《異界の土山鳥茸》クラス:Ⅲ 品質:優
・異界で稀に採取出来る土色の山鳥茸。非常に香りが豊かで美味しい。食べる事で土の力への耐性を得られる。
「おお~」
前に見つけた黒シメジと同じような効果だ。
闇の力か土の力かの違い。
それにこっちは旨味よりも香りの方に特徴があるみたいだ。
「じゃあ採るぞ」
ラジエルはキノコを見つけても自分で採る事にはあまり興味がないようだ。
咥えたりパンチしたりすれば採取出来るのにそれはしない。
今も隣でふわふわ浮きながら様子を見守っている。
「それにしてもデカい」
キノコの根元を掴むと太さが半端じゃない。
俺の手首以上なのは確実だ。
「傘の部分はあんぱんに似てるな」
柄は短くてすぐに地面から抜けた。
軽く嗅いでみるとナッツの様な香りがする。
「おぉ」
ラジエルも嗅ぐかと思って隣を見たけどもういなかった。
人より猫の方が嗅覚はよさそうだし、見つけた時点で香りは分かってたのかも。
「ちょっと待っててな」
離れた場所にいたラジエルへ声を掛けると、キノコの石突の土を払い籠に入れる。
「お待たせ、マァ達にもいい報告が出来そうだな」
「にゃん」
この時、俺はある種のフラグを立ててしまったんだと思う。
まさかあんな事になるなんて。
「じゃあ行くか」
「にゃ」
俺達は新しいキノコを見つけるため、引き続き森を探し回った――。
♢
「で? こんなに採れたって訳ね」
「はい、正直ちょっと反省してます」
俺達はマァ達と宿の部屋で合流した。
時間は昼、これでも早めに帰っては来たんだけど……。
「んにゃ」
「ちゅう」
ラジエルとハッズはベッドの上で遊んでいる。
いや、あれはラジエルの猫パンチをハッズが躱している?
修行でもつけてるんだろうか。
「メグル~?」
「は、はい!」
視界の端で行われる謎の戦いから意識を戻す。
マァの笑顔がちょっと怖い。
「はぁ、しばらくはキノコ料理が続きそうね」
「そうだなぁ」
俺とマァの間に置かれた籠にはこんもりとキノコが入っている。
大体籠の半分くらいかな。
どう考えても一日二日で食べ切れる量じゃない。
「どのくらい日持ちするのかは分からないけれど、毎日消費はしていきましょう」
「特に水分が多そうなのを優先するか」
ぬめりがあったり柔らかかったり。
そういうものは日持ちがしないかもしれない。
「とりあえずお昼にしましょうか」
「分かった、料理は任せてくれ」
俺はマァ達が買ってきた調味料の説明を受ける。
知らないやつもあったから、マァも色んな味付けを楽しみたいのかもしれない。
それと食材も少し買ってきてもらっている。キノコだけよりも色んな料理が作れそうだ。
最後にどれを食べるかを皆で決めてから異界へ入る。
「さ、調理開始だ」
「にゃん」
宿の部屋で火を使ったりはもちろん出来ない。
だから異界でやるしかない訳だ。
そうすると必然的に調理担当は異界に入れる俺になる。
一応料理は作れるけど、まあ普通レベルかな。
「じゃ、まずはこれから」
《異界の黄滑子》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る黄色の滑子。美味しい。
ナメコはスープに入れようと思う。
とろみも出ると思うから、買ってきてもらった卵と葉野菜を一緒に使おう。
「次は」
《異界の赤花猪口》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る赤色の花猪口。美味しい。
新しく採れたキノコだ。
同じ種類が近くに結構あったから、味見用に一本採ってきた。
全体が薄っすら赤くて傘の裏が黄色、しかもそこがスポンジみたいになってる。
これもナメコと一緒にスープに入れよう。
「後はこれとこれ」
《異界の闇黒占地》クラス:Ⅲ 品質:優
・異界で稀に採取出来る闇黒色の占地。非常に旨味が強くて美味しい。食べる事で闇の力への耐性を得られる。
《異界の土山鳥茸》クラス:Ⅲ 品質:優
・異界で稀に採取出来る土色の山鳥茸。非常に香りが豊かで美味しい。食べる事で土の力への耐性を得られる。
この二種類はソテーにしよう。
キノコ本来の風味が楽しめるはず。
「それぞれ別で焼いた方がいいな」
シメジは一株採れたし、ヤマドリタケは一本だ。
皆で分けて、耐性についても今の内に確認したい。
「最後はこれなんだけど……」
今日一番の成果。
《異界の白金松茸》クラス:Ⅳ 品質:優
・異界で極稀に採取出来る白金色の松茸。味は特にない。食べる事でクラスⅣ相当のスキルを得られる。
「嬉しいんだけど……嬉しいんだけどぉっ!」
そうじゃないんだよなぁっ。
せめて他のキノコであってほしかった。
何でよりにもよってマツタケなんだ。
まだ一度もちゃんと食べた事ないのに。
「にゃ?」
ラジエルが俺の反応を見て首を傾げている。
悶えている理由が分からないらしい。
「いや、何でもない。調理を続けよう」
「にゃ」
人生初のマツタケが味なしなのはこの際忘れる事にする。
あれだけ周りを必死に探したのに他のマツタケ見つからなかったし。
時には諦めも肝心である。
「とりあえず焼いて塩でもかけるか」
果物を食べてスキルを得た時、食べ終わったタイミングでスキルが増えた。
つまり、一部ではなくほぼ全ての可食部を摂取しなければスキルは得られない。
「皆は遠慮したしなぁ」
このマツタケについて話し合った時、皆は俺が食べるべきだと主張した。
マァなんかはこれでお揃いねって呟いていたけど、どういう意味かはちょっと怖くて訊けなかった。
鑑定通り味もないだろうし、スキルを得る事以外に得はない。
そういう意味では味がなくてよかったかもな。
皆で取り合いをせずに済んだ訳だし。
「次に見つけた時は誰かに食べてもらおう」
俺以外が食べてもスキルを得られるのか見てみたい。
出来ればもう少しクラスの低いやつがあると助かるんだけどな。
クラスが高いとその分だけ食べた相手が落ち込むだろうし。
「さ、準備も出来たし始めようか」
「にゃにゃ」
炭を焚き、鍋を火にかける。フライパンを振って焼く。マツタケは網焼きに。
それら全てを携帯用の調理器具でやっている。
収納や持ち運びも簡単、炭も地面に置かなくて済む優れものだ。
火の加減はラジエルに見てもらっている。
職人の様な鋭い眼差しだ。火に何かこだわりでもあるのかもしれない。
そして――。
「完成だ!」
「にゃ!」
自分でも上手に出来たと思う。
ラジエルも満足そうだ。
俺は早速目の前に並んだ料理をお盆に載せると門を潜った。




