第18話 Re:キノコ
「昨日は凄かったなぁ」
「にゃん」
俺達はまたキノコの森に来ていた。
今はちょっと休憩中だ。
「今日は昼前には戻ろうな」
「にゃん」
昼食は昨日採れたキノコと今日採れたキノコで料理をする予定だ。
そのための調味料はマァ達が買ってきてくれる。
「時間いっぱい探そう」
「にゃにゃ」
帰りは転移で一瞬だ。
門の開く丘に黒舞茸を設置しているからな。
「出来ればスキルが増える何かがあると助かる」
転移は使えるようになったけど、スキル自体は増えていない。
今の所、増えそうな食材は黒いシメジだけだ。
俺達のこれからを考えればスキルの選択肢は多い方がいい。
「だからってお前を蔑ろにしてる訳じゃないぞ」
俺は左腕を撫でつつ言う。
そこには紫と白の線が稲妻のように走っていた。
『―――』
頭の中に音が響く。
本当に色々あったなぁ。
休憩しつつ少しだけ過去を振り返ろう。
□□□
「私も転移してみたいわ!」
転移を見てヒートアップしたマァは自分もやりたいと言い出した。
俺は手にくっついている妖星茸を鑑定する。
《妖星茸》クラス:Ⅴ 品質:優
・原初の茸から生えた茸。触れた者が悪しき存在の場合は蛙化の呪いを与える。善き存在の場合は舞茸へ移動する力を与える。
悪しき存在の基準が分からない。
俺やラジエルは触れても大丈夫だった。
ただ、マァが同じかはどうかは自信がない。
個人的には大丈夫だとは思うんだけど……。
「難しいのかしら?」
マァも勢いに任せて触ったりはしない。
このキノコの説明はさっきしたからな。
「いや、大丈夫だとは思うんだけど……」
正直に分からないと答える。
これでマァが蛙になったら俺は立ち直れないぞ。
「まずは一緒に転移出来るか確認しよう」
直接キノコに触れなければ問題ないはずだ。
俺は融合した手とは反対の手を差し出す。
「ええ、転移出来るならそれでいいわ」
自分で転移したいというより、転移という経験をする事の方が重要みたいだ。
「じゃあ行くぞ」
「ええ、お願いね」
手を繋ぐと意識を集中する。
何かが繋がり、白舞茸から見える映像が頭に浮かんだ。
「転移!」
次の瞬間、俺だけが離れた場所に移動していた。
「ダメかぁ」
「そうねぇ」
あくまで転移出来るのはキノコが融合している人のみらしい。
「ん?」
でも装備なんかは一緒に転移してる。
対象が俺だけなら素っ裸で転移先にいないとおかしい。
「どうかしたの?」
「いや……」
そういえばラジエルはベッドで丸くなったままだな。
確認する必要があるか。
「ちょっと試したい事がある」
ベッドに近づくとラジエルを抱き上げる。
睡眠を邪魔しないようなるべく優しくだ。
「――転移」
俺はラジエルと一緒に転移した。
「転移、出来たわね」
マァはこちらに歩きながら言った。
「なるほどね」
多分、融合した自分自身と自分が触れている所有物が対象なんだろう。
ラジエルは元々俺のスキルから生まれた存在だ。
でも俺自身じゃない。だから触れていないと一緒に転移しないし、触れていたら転移する。
「なるほどねぇ」
俺が自分の考えを伝えると、マァは羨ましそうな眼差しをラジエルへ向けた。
本猫は気にせず俺の腕の中ですやすや寝ている。
「でも便利なのは間違いない」
どこかへ行ってもすぐに帰って来られる。
世界を越える事は出来ないけれど、それでも凄い事だ。
「上手く活用していきましょう」
マァはそう言って机の上の黒いシメジに手を伸ばす。
「私はこっちに期待するわ」
確かに闇の力への耐性は気になる。
もしかしたらそういうスキルを得られるかもしれないし。
だからって優しく撫でるのは違う気もする。
「んんっ、とりあえず明日も新しいキノコがないか探してくる」
「じゃあ私達は調味料とかを買い足しておくわね」
調理するための道具は一通り買い揃えてある。
長距離を移動する時にも重宝するし、異界に入れておけば邪魔にもならないからな。
ただ、調味料関係が減り気味だ。
キノコを調理するにも手持ちだけでは足りないかもしれない。
「ありがとう、頑張って採ってくるよ」
「気にしないで、私は自分のしたい事をしているだけよ」
♢
「じゃあ寝るか」
「ええ、おやすみなさい」
夕飯を終えて身体を拭き終わった俺達はベッドに横になる。
ラジエルとハッズもそれぞれのベッドに分かれて休む。
ぼんやりとした明かりが天井を照らしている。
「すぅ~すぅ~」
しばらくするとマァの寝息が微かに聞こえてきた。
「俺も早く寝ないとな」
妙に目が冴えている。
別に寝る前に特別何かをしたわけじゃない。
いつもと違いがあるとすれば……。
「これか」
自分の左の掌を見る。
そこにはもう妖星茸の姿はない。
転移の実験をした後すぐに取ったからだ。
融合を解除するように意識すればポロっと外れる。
もちろん跡が残るような事もない。
「うーん」
転移をするために意識を集中した時、妖星茸を介して舞茸と繋がったような感覚があった。
そのパスを通して映像を見ている。
ただ、それと同時に別の何かも流れ込んできていた。
「妖星茸の意思、か」
うっすらとだが確かに感じる何かの自我。
気のせいだと思って皆には伝えなかったけど……。
「ま、気にし過ぎか」
俺は考え事をしている内にいつの間にか寝てしまった。
部屋にいるのが自分達だけでない事に気付かないまま。
♢
「ん、あぁあ~」
自然と目が覚めた。
半身を起こし両腕を上へと伸ばす。
「今何時だろ」
癖で時計を探してしまう。
「ないんだよなぁ」
この世界では基本明るくなったら活動を始めて暗くなったら寝る。
時間の概念はあるんだけど、それを正確に示す物が普及してないんだ。
王都であれば鐘の音で大体の時間は知らせてくれる。
これは時間を刻むアイテムが大聖堂にあるからだそうだ。
「まあいっか」
俺は皆を起こさないようにそっとベッドを抜け出す。
そして窓際に近づくと木戸を押し開けようとした。
「朝か……な」
固まる。
俺の視界に入った腕がおかしい。
何か変な線が入ってる。
そういうタトゥーと言われれば納得するくらいにはガッツリ入っちゃってる。
「は?」
窓を開けるのは一旦止めてベッドに戻る。
夢じゃないのは頬をつねってみて分かった。
「何これ」
鑑定を発動する。
《妖星茸》クラス:Ⅴ 品質:優
・原初の茸から生えた茸。触れた者が悪しき存在の場合は蛙化の呪いを与える。善き存在の場合は舞茸へ移動する力を与える。
「……」
どういう事?
目の前にあるのは腕であってキノコでは断じてない。
それに昨日、妖星茸は外して籠の中に入れたはず。
「ふあぁ~」
混乱して動けないでいると隣のベッドから声がした。
マァが起きようとしているようだ。
「マズい」
何でかは分からないけど、見られてはいけないような気がする。
俺は急いで外着へ着替えると腕を隠した。
□□□
「結局その後バレて問い詰められたんだよなぁ」
「にゃん」
当然だと言わんばかりにラジエルは頷く。
「朝起きていきなりこれだと混乱もするだろ」
俺は左腕を持ち上げる。
肩から手にかけて何本もジグザクの線が走っている。
「まあ悪さもしなさそうだからいいけどさ」
つまり朝になると籠の中の妖星茸は消えていて。
何故かは分からないけど俺の腕と完全に融合していた。
簡単にまとめるとそういう事だ。
『―――』
頭の中に音が響く。
それは言葉とは違う何か。
文字に起こすのは難しい。
ただどう思っているかは伝わってくる。
「大丈夫だよ、別に怒ってないから」
左腕を撫でながら呟く。
端から見たら完全な不審者だろうが、見ているのはラジエルだけだ。
人の目がない所では積極的に交流するつもりだし、今はこれでいい。
「力も普通に使えるし、元にも戻せるから問題ない」
さっき軽く試した感じ、転移は普通に出来た。
むしろこうなった後の方が集中する時間も少なくて済んだ。
それに今は完全に融合しているとはいえ、やろうと思えば妖星茸にも戻せるし、そうすれば腕の線も消える。
『―――』
ただ、妖星茸自身は離れるのはあまり好きではないようだ。
長期間離れるのはちょっと……と今も俺に伝えてきている。
「分かったよ、ただ元に戻す時もたまに来るだろうって話だ」
俺はそう言うと視線を上げる。
「時間も経ったし、そろそろ休憩は終わりにするか」
「にゃん」
ラジエルはふわふわと浮かび上がると前を向く。
俺は立ち上がってお尻を叩くと葉っぱを落とす。
そうして準備が整うと、ラジエルを先頭に森の中を進んでいった。




