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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ
第二章 星渡巡と白鼠とワ

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第17話 聖女と司教と聖騎士と

♦♦♦


 大聖堂の一角、光差す大回廊にて。

 私はとある方に出会いました。


「これはこれは聖女様ではありませんか」

「マーク司教」


 にこやかな笑顔で声を掛けてくる。

 面識はそれほどありませんが、有名な方です。

 知の名門アグリィ家の次期当主。


「ご機嫌はいかがですかな?」

「ええ、問題ありませんよ」


 名家出身の方達にとても人気があるそうです。

 気遣いも出来て優しい方だと。


「それは良かった」


 付き添い人も多いですね。

 これも慕われている証でしょう。

 隣で補佐する方以外はマーク司教の後ろに綺麗に整列しています。


秘跡(サクラメント)の準備も順調なご様子」

「ええ、後は行うだけです」


 秘跡の内容や行う場所については聖女のみに受け継がれます。

 これは初代様から続く伝統です。


「成功をお祈りしますぞ」

「ええ、必ず」


 失敗はありえません。

 今まで歩んできた道こそが秘跡への鍵なのですから。


「あまり立ち話もなんですな、ではこれで失礼致します」


 マーク司教は礼をすると去って行った。

 すれ違う際には私の護衛である彼へも声を掛けていきました。

 声が小さく内容までは聞き取れませんでしたが。


「チッ」


 彼がマーク司教の後ろ姿を睨んでいる。


「マーク司教とは仲が悪いのですか?」

「いえ、そういう訳では……」

「では何故睨んでいるのでしょう」

「それは」


 言葉が続かない様子。

 怪しいですね。

 武の名門であるフォルス家と知の名門であるアグリィ家。

 本来はお互いに助け合い、この国を発展させていく関係のはず。


「まさか先程の会話中も睨んでいたのではないでしょうね」

「……違いますよ」


 どうやら図星のようです。

 恐らくすれ違う際にそれを注意されたのではないでしょうか。


「貴方は聖騎士、全ての騎士の模範となるべき存在です」

「はい」

「それを忘れないで下さい」

「……はい」


 これで少しは態度を改めるでしょうか。

 怪しくはありますが、これ以上は言わないでおきましょう。


「では行きますよ」

「はっ、聖女様」


 胸を張って大回廊を進んでいく。

 一歩一歩これからも真っ直ぐに。



「くそっ! 役立たずが」


 王都の一角、とある大きな広間にて。


「偉そうにしやがって」


 ソファーにふんぞり返った男が悪態をついていた。

 真っ黒なフード付きのローブで全身を隠している。

 目の前には同じような格好の人々が整列していた。


「いやらしい身体をしておいて聖女だなどと」

「俺の視線を奪うとは罪な女め」


 ブツブツ呟きながら宙を見つめる男。

 その独り言に返事をする者はいない。


「秘跡の刻限はもうすぐだ」

「俺の努力が報われる日は近い」


 一旦呟くのを止めると正面を見た。

 無言で手招きし、最前列にいた人物を隣に座らせる。


「準備は万事整った」


 いきなり相手の肩を抱きつつローブの中に手を入れる。


「お前もそう思うよな? カレン」


 そう言いつつローブの内側をまさぐり続ける男。

 カレンと呼ばれた人物は返事もせず、動きもしない。

 ただ男の動きに身を任せているだけだった。


「おお、すまなかった。お帰りの挨拶がまだだったな」


 ローブから手を抜くとその人物のフードを取る。

 次の瞬間、ショートカットにした金髪が闇から解放され、室内の明かりを受けて僅かに輝く。

 反対にその瞳は暗く濁り、表情も抜け落ちていて生気がなかった。


「た・だ・い・ま♡」


 顔を一瞬寄せるとまた離れる。

 何をされても反応しない人形。

 その名は――カレン=ノイジ―=プランドラー。


「あっはははははははっっっ!!!!!」


 その顔をまじまじと見て男は狂ったように笑い出す。


「あひっぶふふっ、ああっ! あのカレンがこんなに大人しくなるなんてっ」


 正面から一度勢い良く抱きしめた後、男はソファーから立ち上がる。


「さぁ早く立て! 奥の部屋へ行くぞっ」


 無表情で立ち上がるカレン。

 そして男に手を引かれるまま一緒に扉まで歩いていく。

 魂の抜けた人形にもう選ぶ権利はないのかもしれない。


「お楽しみはこれからだ」


 残りの人形はそのままに、扉の向こうへ消えていく二人。

 王都の夜はどこまでも深く、未だ明ける様子はない――。


♦♦♦

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