第17話 聖女と司教と聖騎士と
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大聖堂の一角、光差す大回廊にて。
私はとある方に出会いました。
「これはこれは聖女様ではありませんか」
「マーク司教」
にこやかな笑顔で声を掛けてくる。
面識はそれほどありませんが、有名な方です。
知の名門アグリィ家の次期当主。
「ご機嫌はいかがですかな?」
「ええ、問題ありませんよ」
名家出身の方達にとても人気があるそうです。
気遣いも出来て優しい方だと。
「それは良かった」
付き添い人も多いですね。
これも慕われている証でしょう。
隣で補佐する方以外はマーク司教の後ろに綺麗に整列しています。
「秘跡の準備も順調なご様子」
「ええ、後は行うだけです」
秘跡の内容や行う場所については聖女のみに受け継がれます。
これは初代様から続く伝統です。
「成功をお祈りしますぞ」
「ええ、必ず」
失敗はありえません。
今まで歩んできた道こそが秘跡への鍵なのですから。
「あまり立ち話もなんですな、ではこれで失礼致します」
マーク司教は礼をすると去って行った。
すれ違う際には私の護衛である彼へも声を掛けていきました。
声が小さく内容までは聞き取れませんでしたが。
「チッ」
彼がマーク司教の後ろ姿を睨んでいる。
「マーク司教とは仲が悪いのですか?」
「いえ、そういう訳では……」
「では何故睨んでいるのでしょう」
「それは」
言葉が続かない様子。
怪しいですね。
武の名門であるフォルス家と知の名門であるアグリィ家。
本来はお互いに助け合い、この国を発展させていく関係のはず。
「まさか先程の会話中も睨んでいたのではないでしょうね」
「……違いますよ」
どうやら図星のようです。
恐らくすれ違う際にそれを注意されたのではないでしょうか。
「貴方は聖騎士、全ての騎士の模範となるべき存在です」
「はい」
「それを忘れないで下さい」
「……はい」
これで少しは態度を改めるでしょうか。
怪しくはありますが、これ以上は言わないでおきましょう。
「では行きますよ」
「はっ、聖女様」
胸を張って大回廊を進んでいく。
一歩一歩これからも真っ直ぐに。
♢
「くそっ! 役立たずが」
王都の一角、とある大きな広間にて。
「偉そうにしやがって」
ソファーにふんぞり返った男が悪態をついていた。
真っ黒なフード付きのローブで全身を隠している。
目の前には同じような格好の人々が整列していた。
「いやらしい身体をしておいて聖女だなどと」
「俺の視線を奪うとは罪な女め」
ブツブツ呟きながら宙を見つめる男。
その独り言に返事をする者はいない。
「秘跡の刻限はもうすぐだ」
「俺の努力が報われる日は近い」
一旦呟くのを止めると正面を見た。
無言で手招きし、最前列にいた人物を隣に座らせる。
「準備は万事整った」
いきなり相手の肩を抱きつつローブの中に手を入れる。
「お前もそう思うよな? カレン」
そう言いつつローブの内側を弄り続ける男。
カレンと呼ばれた人物は返事もせず、動きもしない。
ただ男の動きに身を任せているだけだった。
「おお、すまなかった。お帰りの挨拶がまだだったな」
ローブから手を抜くとその人物のフードを取る。
次の瞬間、ショートカットにした金髪が闇から解放され、室内の明かりを受けて僅かに輝く。
反対にその瞳は暗く濁り、表情も抜け落ちていて生気がなかった。
「た・だ・い・ま♡」
顔を一瞬寄せるとまた離れる。
何をされても反応しない人形。
その名は――カレン=ノイジ―=プランドラー。
「あっはははははははっっっ!!!!!」
その顔をまじまじと見て男は狂ったように笑い出す。
「あひっぶふふっ、ああっ! あのカレンがこんなに大人しくなるなんてっ」
正面から一度勢い良く抱きしめた後、男はソファーから立ち上がる。
「さぁ早く立て! 奥の部屋へ行くぞっ」
無表情で立ち上がるカレン。
そして男に手を引かれるまま一緒に扉まで歩いていく。
魂の抜けた人形にもう選ぶ権利はないのかもしれない。
「お楽しみはこれからだ」
残りの人形はそのままに、扉の向こうへ消えていく二人。
王都の夜はどこまでも深く、未だ明ける様子はない――。
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