第16話 Memento Fungus
俺とラジエルは部屋に戻ってきた。
「さてどうしよう」
マァ達はまだ帰ってきていない。
知り合いとの話が長引いているらしい。
「昼はもういいか」
異界を出る前に保管していた果物を食べた。
ラジエルも満足したのか今は後ろのベッドで丸くなっている。
「まずはこれかな」
背負い籠からキノコを取り出す。
《異界の白舞茸》クラス:Ⅱ 品質:優
・異界で偶に採取出来る白色の舞茸。とても美味しい。食べずに移動の目印として設置することも可能。
黒い方は異界に置いてきた。
より正確に言えば入り口近くに設置した。
「そしてこれも」
《妖星茸》クラス:Ⅴ 品質:優
・原初の茸から生えた茸。触れた者が悪しき存在の場合は蛙化の呪いを与える。善き存在の場合は舞茸へ移動する力を与える。
見た目は紫の傘に白いいぼが付いたキノコだ。
ちょうど掌にすっぽり収まるサイズ。
「蛙にならなくてよかった」
改めて説明文を見ると胸を撫で下ろす。
善し悪しの判断基準が何なのかは分からない。
ただ、今のところ俺やラジエルは悪しき存在ではないらしい。
「異界の方では成功したけどなぁ」
黒舞茸を設置した時の事を思い出す。
妖星茸は触れた者が善き存在の場合は舞茸へ移動する力を与える。
「じゃあ早速始めようか」
両頬をパンッと叩くと気合を入れる。
まず机の上に白舞茸を設置する。
するとキノコ全体から淡い光が立ち上った。
「よし、こっちでも出来たな」
次に隣に置いていた妖星茸を手に取る。
そして自分の掌に柄の部分を押し付けた。
ビキビキビキッッッ!!!
掌に筋がいくつも浮かび上がる。
手を離しても倒れない。
「よ、よし……」
さっき初めてこの状態になったが、普通に腰を抜かした。
移動する力について考えていたら融合してきたんだから当たり前だ。
しかも俺の意思を無視して勝手にだからな。
「あんまりビジュアルは考えない事にして」
目を瞑ると掌の妖星茸へ意識を集中する。
するとある光景が頭に浮かんだ。
目の前の自分を含めてこの部屋が映し出されている。
「いいね」
これは机の上の白舞茸から送られてきた映像だ。
鑑定には載ってなかったけど、移動前の確認用だからかもしれない。
「じゃあ行こう。転移!」
俺は映像の中から部屋の隅を選ぶと転移する。
「おお! 成功だ」
目を開けると俺がいた場所から移動していた。
ちゃんと部屋の隅に転移出来ている。
「次はっと」
異界の中に設置してきた黒舞茸への転移を試す。
「うーん、こっちは無理かぁ」
どれだけ意識を集中しても繋がる感じがしない。
界を隔てた転移は出来ないのかもしれない。
「でもかなり便利だよなこれ」
逆に言えば、同じ世界の中であれば転移は可能という事だ。
舞茸の設置が必須とはいえ破格の性能だろう。
「離れてても大丈夫だったし、大当たりの力だ」
ラジエルには足を向けて眠れないな。
まあ普段から足を向ける事なんてないんだけどさ
「後はいつまで維持出来るか、だな」
異界産とはいえキノコは菌類だ。
時間が経てば腐ってしまうかもしれない。
「経過をよく観察しておこう」
もし仮にこのまま腐らずに保持できたなら。
「大分ハードルは下がるよな」
一つ思い付いた事がある。
「頼むぞ」
俺はキノコ達の今後に期待するのだった。
♢
「ただいま~」
「ちゅ~」
「おかえり」
「にゃん」
そろそろ夕飯かという時間帯、マァとハッズが帰ってきた。
「かなり疲れてるな」
「ええ、しつこくてね~」
椅子に座ると自分で肩を揉み始めた。
「ちゅぅぅ」
ハッズはローブから飛び出すとそのままベッドで横になる。
色も相まって伸びたモチみたいに見える。
「そんなにか」
「そんなによ~、何せ夕食まで一緒にとか言われちゃったし」
うへぇ、本当に夜まで帰ってこない可能性もあったのか。
「夕食まで食べたら今度は泊まるように言ってくるに決まってるわ」
「そりゃまた大変だな」
「だから断ったのよ」
今度は首を回し始めた。
それだけ肩が凝ったという事か。
「でも話自体は通ったわ」
「へぇ、オーロラさんには会えそう?」
「まだね、その辺りは色々調整が終わってからよ」
「すぐには無理か」
「そうね、でも思ったよりも早く会えるとは思うわ」
マァは一仕事やり切った顔で頷く。
「そうか、ありがとう」
「いいのよ、私もしたくてしているんだし」
それで、とマァは続ける。
「そっちはどうだったの?」
「うーん」
どこから説明したらいいかな。
「別に成果なんて求めてないわ」
柔らかい笑顔で声を掛けてくる。
きっと今日一日どんな事をしていたのか訊きたいだけなんだろう。
「俺とラジエルは異界に行ってきたんだ」
「そうなのね」
異界で今まで見つけた物や分かった事は可能な限り伝えるようにしている。
見える景色やその感想、得られるアイテムなんかもそうだ。
そしてスキルを習得出来る果物についても当然話した。
あの時の反応は激烈だったな。
『伝説は本当だったのね!!!』って詰め寄られてちょっと怖かったくらい。
それを考えると、今から言う内容は慎重にならざるを得ない。
「それでその……」
「うんうん」
「キノコを見つけまして」
「まぁ! いいじゃない。どんなキノコなのかしら」
「それがですね」
「?」
俺は部屋の隅に隠していた籠を持ってくると説明していく。
「これが食用で」
「へぇ、何だかぬるぬるしてるのね」
マァはナメコを触って不思議そうにしている。
「それにこっちは薄くてひらひらしてるわ」
次にキクラゲをつんつんしだす。
「後はこれなんかも食用で」
設置を解除しておいたマイタケを見せる。
「わぁ、大きいわね」
「だよなぁ」
「あとこっちはクラスⅢのキノコですごく美味しいらしい」
傘が黒いシメジも取り出す。
「太くて立派ねぇ」
マァは手に取り大きさを確認していく。
色んな角度から見られるキノコ。
その手元に向ける優しいまなざしに少しゾクリとした。
「んんっ、最後にこれ」
俺は頭を振ると問題のキノコを取り出した。
「何だか毒がありそう」
手に持っていたシメジを机の上に優しく置くと、俺の手の上にあるそれをまじまじと見てくる。
「これは食べない方がいいんだけど……って食べられるのか?」
そういえば食用かどうかの説明がなかったな。
でももし食べたら悪しき存在認定されるかもしれない。
キノコ目線で考えたら自分を食べようとする者は基本的に悪だろうし。
「いや、食べちゃ駄目だ」
「そうなのね」
「ああ、鑑定結果を知ったらマァもそう思うはず」
「ふぅん」
「じゃあ詳しく説明していくよ」
俺は鑑定で分かったそれぞれのキノコの特徴について説明していった。
最初は大人しく説明を聴いてくれていたマァも途中からは首を傾げだし、最後は我慢出来ずに叫び声を上げた。
「大発見よ!!!」
その後、興奮したマァを宥めると転移も見せた。
『これが伝説のっ!!!』と嬉しそうに語るマァの姿を俺はしばらく眺めていた。




