第13話 聖女と聖騎士
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私は大聖堂に戻りました。
周りの方にはかなり心配を掛けてしまいましたね。
「ふふふ」
「どうかされましたか?」
いけませんね。
貴方がいる前で浮かれてしまうとは。
「いえ、何でもありませんよ」
「そうですか」
私は大聖堂の奥、一般の方が立ち入れない部屋にいます。
聖務に励むために。
「今日はこちらですか」
「はい」
彼が私の目の前に置いた物は短剣だった。
赤黒いオーラが立ち上っている。
「こちらは呪いの短剣です」
来歴を語られる。
元は暗殺を生業とする者の武器だったようです。
人の命を奪う毎に恨みがこびりつき、最後はその短剣で自分自身を殺してしまった。
元が普通の武器でも恨みが溜まるとこうやって呪物化してしまう。
「呪いの深度はⅢといったところでしょう」
Ⅲはまだ心を強く保てば装備は出来るレベルです。
Ⅳ以上はダメですね。余程呪いと相性が良くなければ触れただけで発狂します。
「分かりました。では始めましょう」
私は両手を組むとスキルを発動する。
瞼を閉じていても感じる光。今私の頭上には光輪が浮かんでいる事でしょう。
「―――」
聖句を呟く。
意識は短剣へ向ける。
全ては悪しき力を解く為に。
「ハァッ!」
収束させた光の力を短剣へ流し込んでゆく。
かなり抵抗されますが気にしません。
光の奔流で吹き飛ばすだけです!
♢
「――ふぅ、終わりました」
私はゆっくりと目を開いた。
手を解こうとすると動きに違和感があります。
どうやら解呪を始めてからかなりの時間が経っていたようです。
「聖女様、こちらを」
私は差し出されたタオルをもらい額の汗を拭う。
机の上を確認するとオーラの消えた短剣の姿がありました。
無事に呪いは解けたようです。
「ではこちらは預からせていただきます」
彼はその短剣を手に取ると部屋を出て行った。
「中々手強かったですね」
呪いの深度はⅢだという話でしたが、Ⅲの中でもⅣに近かったのではないでしょうか。
普通の武器のクラス分類もそうですが、同じⅢでも性能には差があります。
それと同じように呪いにも強さの幅があるのです。
クラスが高ければ高いほど、深度が深ければ深いほどその幅は広くなる。
「もっと精進しなければ」
私はまだ見た事はありませんが、深度Ⅳや深度Ⅴの呪いもあるかもしれません。
その解呪を任された時、出来ませんでは聖女の名折れ。
「SPをもっと増やせるといいのですが……」
SPは生まれた時に数値が決まってしまいます。
スキルを上手く使う事である程度節約は出来ますが、保有するSPは増えません。
ダンジョンを踏破すれば上がる可能性があるのは承知しています。
ただ、危険だからと言われ連れて行ってもらえないのです。
「以前近くで見つかったダンジョンは国が踏破しましたが……」
お父様に頼んでもダメでした。
むしろ勝手に行かないように監視まで付けられてしまいましたし。
「どうしたらいいのでしょうか」
私はここにいないはずのある男性を思い出します。
あの方ならこういう時、何と言って励まして下さるのでしょうか。
「……」
「ただいま戻りました」
物思いに耽っていた私の元に彼が戻ってきました。
「今日はあの短剣で最後ですか」
彼の手には何も握られていません。
「はい、先程の短剣で本日の聖務は終わりになります」
「そうですか」
私は出しっぱなしにしていた光輪を消す。
光輪の維持や操作にはSPは必要ありません。
ただし一度でも消すとSPが回復するまでは再発動出来ないのです。
「では宿舎までお送りいたします」
「分かりました」
私は椅子から立ち上がると部屋を出る。
彼とは一定の距離を保って歩いていく。
爽やかな笑顔と人当たりの良さで王都では随分人気らしい。
そんな彼とあの方との違いはどこだと言われれば。
私自身が疑っているかどうかに他ならない。
「とある噂を聞いたのですが」
「何でしょうか」
歩みを止めずに話を続ける。
「カレン=ノイジ―=プランドラーさん」
その名前に彼の歩みが止まる。
「その名をどこで」
振り返ると私を見つめた。
「どこででしょうか」
顔が少しひきつっているようですね。
普段表情を見せない貴方にしては珍しい。
「彼女、行方不明だそうですね」
やはり何かを知っているようです。
外での調査は控えますが、内部の調査は続けますよ。
「……ええ、本当にどこにいるのか」
貴方は知らないようですが、私の耳には入っています。
消息を絶った日、彼女は貴方の家を訪ねていたのです。
どうしてかは分かりません。
ただ、最近王都では行方不明になる方が多いらしいのです。
その中には彼女のように聖名を与えられた教徒もいます。
今回の失踪も無関係とは思えません。
「思い当たる場所はないと」
「そうですね、無事だといいのですが」
あまり踏み込むと良くないかもしれません。
王女や聖女の肩書きは常に命を守ってくれる訳ではないのです。
気付かれたと知られればこの場で害されかねない。
「早く見つかるよう祈りましょう」
今はまだ対峙する時ではない。
私も戦えるとはいえ相手は聖騎士。
教会最強の剣の使い手なのですから。
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