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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ
第二章 星渡巡と白鼠とワ

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第11話 送り猫

「そろそろ出ましょうか」

『はい』


 瞬く間に時間は過ぎ去り、問題に立ち向かう時が来た。

 聖女との話は楽しかったが気を引き締める。


「これからどうしますか?」

『……大聖堂へ行きましょう』



 一般開放しない日の大聖堂周りは比較的落ち着いている。

 それでも多くの人が前の通りを行き交っている。

 俺達はそんな中を縫うように進んでいった。


「もう少しです」

『はい』


 俺達は順調に大聖堂へ近づいていた。

 襲われる気配も特にない。


『きゃっ』

「おっと」


 聖女が石畳に(つまづ)く。

 転びそうになる身体をとっさに抱き留めた。


「大丈夫ですか?」

『……ええ、ありがとうございます』


 俺は周囲に目を配る。

 襲うなら今が絶好の機会だ。

 ……うん、誰も近づいて来ないな。


「行きましょうか」


 聖女の手を取る。

 また転びそうになっても困るしな。


『……』


 急に静かになった聖女と共に歩く。

 無言で歩くのも気まずいし話を振ってみる事にした。


「あの」

『は、はい』


 道端の花を見る。鈴生りに咲いた白い花だ。

 

「あの花なんですけど」

『聖花ですね。ノーブル様のお好きだった……』


 目を細め何かを思い出すように話す。

 足は自然と花の前で止まる。


「ノーブル様?」

『ええ、初代聖女様です。大聖堂には当時の資料も保管されているので……』

「なるほど。初代聖女様の好きだった花、か」


 純白だから聖女を表してるって話だったけど、自身が好きな花でもあったらしい。


『文献によれば草花を愛する慈母の様な方だったとか』

「へぇ、優しそうな方なんですね」

『ええ、そして多くの人々をその御力で救ったのです』

「立派ですね」

『私もその聖名(みな)をいただいている以上、清く正しく立派であらねばなりません』

「……聖名?」

『ええ、私の名前は――』


 そこで聖女ははっと息を吞んだ。

 俺に自分の正体を明かしていない事に気付いたんだろう。


『ここまで来てお伝えしないのは不義理というもの』


 聖女は覚悟を決めたようだ。


『あの』

「はい」

『私の名前なんですが』

「教えてもらえるんですね?」

『オーロラ=ノーブル=ワ=グロリアスと申しまして』

「おお」

『聖女教の聖女をしております』

「なるほど」

『?』

「何か?」

『いえ……驚かないのですね』

「十分驚いてます」

『私これでも国ではとても有名なんですよ……』


 いかん、聖女改めオーロラさんが落ち込んでいる。


「いやいや、本当に驚いてますよ!」

『でも何か反応が薄……』

「そんな事ないですよ! いや~驚いたなー」

『……』

「凄いなぁ、まさかあの有名な聖女様だったなんてっ」


 自分でも苦しいと思う。

 でもここで引く訳にはいかない。


『ふふっ』


 オーロラさんが笑ってくれた。

 よし!


「改めてエスコートさせて下さい、聖女様」


 俺はグレイスさんの所作を思い出し、優雅な礼をしてみせる。


『ええっ、お願いしますね』


 まだ少し笑いが残っていたものの手を差し出してくれる。

 俺はその手を(うやうや)しく取ると、二人で再び大聖堂へ向かった。



「無事着きましたね」

『はい、ここで大丈夫ですよ』


 俺達は大聖堂の正門前まで来た。

 オーロラさんは手を離すと俺を見る。


『今日は本当にありがとうございました』

「いえいえ」


 俺だって偶然声が聞こえたから間に合っただけだ。

 お互いに本当に運がよかった。


『私はしばらく大人しくしていようと思います』

「そうですね、それでいいと思います」


 さすがに身の危険があったばかりだからな。

 しばらくは調査も控えるべきだろう。


『えっと、それでですね』

「?」


 何かモジモジしながらこちらを見てくる。


『また……お会いできますか?』

「ええ、会えますよ」


 同じ王都にいるしどこかで会う事もあるだろう。

 それに大聖堂が解放されている日であれば、直接会いにも行けるはずだ。


『そうですよね!』

「うおっ」


 何かいきなり元気になったな。

 ずいっと前のめりに寄って来る。


『ではまた! 必ず! お会いしましょう!』

「は、はい」


 オーロラさんはその言葉を最後に笑顔で去って行った。

 途中で被っていたフードを外すと門番の顔が固まる。

 急いで門を開けると敷地中へ迎え入れていた。


「帰るか」


 遠目にそれを見ていた俺は踵を返す。

 まさかこんな出来事に巻き込まれるなんてな。

 依頼も途中で投げてしまったし。


「あ」


 マズい、道の調査依頼まだ終わってなかった。

 もし襲われても俺だけなら異界に入ってやり過ごせるが……。


「襲ってきたやつらがいませんように」


 俺は急いで依頼された地区へと戻った。

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