第11話 送り猫
「そろそろ出ましょうか」
『はい』
瞬く間に時間は過ぎ去り、問題に立ち向かう時が来た。
聖女との話は楽しかったが気を引き締める。
「これからどうしますか?」
『……大聖堂へ行きましょう』
♢
一般開放しない日の大聖堂周りは比較的落ち着いている。
それでも多くの人が前の通りを行き交っている。
俺達はそんな中を縫うように進んでいった。
「もう少しです」
『はい』
俺達は順調に大聖堂へ近づいていた。
襲われる気配も特にない。
『きゃっ』
「おっと」
聖女が石畳に躓く。
転びそうになる身体をとっさに抱き留めた。
「大丈夫ですか?」
『……ええ、ありがとうございます』
俺は周囲に目を配る。
襲うなら今が絶好の機会だ。
……うん、誰も近づいて来ないな。
「行きましょうか」
聖女の手を取る。
また転びそうになっても困るしな。
『……』
急に静かになった聖女と共に歩く。
無言で歩くのも気まずいし話を振ってみる事にした。
「あの」
『は、はい』
道端の花を見る。鈴生りに咲いた白い花だ。
「あの花なんですけど」
『聖花ですね。ノーブル様のお好きだった……』
目を細め何かを思い出すように話す。
足は自然と花の前で止まる。
「ノーブル様?」
『ええ、初代聖女様です。大聖堂には当時の資料も保管されているので……』
「なるほど。初代聖女様の好きだった花、か」
純白だから聖女を表してるって話だったけど、自身が好きな花でもあったらしい。
『文献によれば草花を愛する慈母の様な方だったとか』
「へぇ、優しそうな方なんですね」
『ええ、そして多くの人々をその御力で救ったのです』
「立派ですね」
『私もその聖名をいただいている以上、清く正しく立派であらねばなりません』
「……聖名?」
『ええ、私の名前は――』
そこで聖女ははっと息を吞んだ。
俺に自分の正体を明かしていない事に気付いたんだろう。
『ここまで来てお伝えしないのは不義理というもの』
聖女は覚悟を決めたようだ。
『あの』
「はい」
『私の名前なんですが』
「教えてもらえるんですね?」
『オーロラ=ノーブル=ワ=グロリアスと申しまして』
「おお」
『聖女教の聖女をしております』
「なるほど」
『?』
「何か?」
『いえ……驚かないのですね』
「十分驚いてます」
『私これでも国ではとても有名なんですよ……』
いかん、聖女改めオーロラさんが落ち込んでいる。
「いやいや、本当に驚いてますよ!」
『でも何か反応が薄……』
「そんな事ないですよ! いや~驚いたなー」
『……』
「凄いなぁ、まさかあの有名な聖女様だったなんてっ」
自分でも苦しいと思う。
でもここで引く訳にはいかない。
『ふふっ』
オーロラさんが笑ってくれた。
よし!
「改めてエスコートさせて下さい、聖女様」
俺はグレイスさんの所作を思い出し、優雅な礼をしてみせる。
『ええっ、お願いしますね』
まだ少し笑いが残っていたものの手を差し出してくれる。
俺はその手を恭しく取ると、二人で再び大聖堂へ向かった。
♢
「無事着きましたね」
『はい、ここで大丈夫ですよ』
俺達は大聖堂の正門前まで来た。
オーロラさんは手を離すと俺を見る。
『今日は本当にありがとうございました』
「いえいえ」
俺だって偶然声が聞こえたから間に合っただけだ。
お互いに本当に運がよかった。
『私はしばらく大人しくしていようと思います』
「そうですね、それでいいと思います」
さすがに身の危険があったばかりだからな。
しばらくは調査も控えるべきだろう。
『えっと、それでですね』
「?」
何かモジモジしながらこちらを見てくる。
『また……お会いできますか?』
「ええ、会えますよ」
同じ王都にいるしどこかで会う事もあるだろう。
それに大聖堂が解放されている日であれば、直接会いにも行けるはずだ。
『そうですよね!』
「うおっ」
何かいきなり元気になったな。
ずいっと前のめりに寄って来る。
『ではまた! 必ず! お会いしましょう!』
「は、はい」
オーロラさんはその言葉を最後に笑顔で去って行った。
途中で被っていたフードを外すと門番の顔が固まる。
急いで門を開けると敷地中へ迎え入れていた。
「帰るか」
遠目にそれを見ていた俺は踵を返す。
まさかこんな出来事に巻き込まれるなんてな。
依頼も途中で投げてしまったし。
「あ」
マズい、道の調査依頼まだ終わってなかった。
もし襲われても俺だけなら異界に入ってやり過ごせるが……。
「襲ってきたやつらがいませんように」
俺は急いで依頼された地区へと戻った。




