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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ
第二章 星渡巡と白鼠とワ

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第10話 聖女との出会い

 俺は珍しく王都内の依頼を受けていた。

 なんでもある地区の道の調査らしい。

 調査と言っても地図と同じかどうかチェックするだけだ。


『きゃっ』


 地図を片手にうろうろしていると、短い悲鳴を聞いた気がした。


「ん?」


 声は道の先の細い路地からのようだ。

 胸騒ぎを覚えた俺は地図を鞄に戻しつつ向かう。

 何もなければいい、なければいいが……。


『来ないでください!』


 細い路地の先、袋小路に彼らはいた。

 フードを頭から被った人物とそれを取り囲む数人の男。

 フードの方は分からないが、取り囲んでいる側はゴロツキっぽい。


「うわぁ……」


 俺はその状況を曲がり角からこっそり見ていた。

 厄介事の匂いがプンプンするが、助けない訳にもいかない。

 この状況を無視するのは人としてありえないだろう。


「―――――――!」


 男達が何かを叫んでいる。今にも襲いかかりそうだ。

 考えている時間はない。


「何をしてる!」


 俺はわざと大声を出しながら角から飛び出す。


「――!?」

「――—!」


 男達は俺の登場に驚いたようで浮足立っている。

 俺はその隙に彼らの間を通り抜けると、フードの人の前に立つ。


『あの、助けてください!』

「ああ!」


 俺はすぐに伸ばされた手を掴むと走り出す。


「―――――!!」


 後ろから男達の怒声が聞こえる。意味は分からないが捕まったら碌な事にならないだろう。

 俺達は細く入り組んだ道をしばらくの間走り続けた。



「ここまで来れば大丈夫」


 どうにか男達を撒いた俺達は休憩も兼ねてとある店に入っていた。

 ここは最近俺がハマっている食堂だ。既にメニューも大体把握している程度には通っている。


『ここは……』


 彼女は席に着くとキョロキョロと店内を見回す。

 それぞれのテーブル席の間には仕切りが立ててある。プライバシーに配慮した作りになっていて周囲の眼は気にならない。

 俺達は近づいてきた店員に料理を注文すると話を続ける。


「怪我とかはないですか?」

『ないですね……あの、ありがとうごさいます』


 一息吐けたのか少し安心したような声を出す。


「あっ」

『?』


 俺はそこで気が付いた。彼女と会話が出来ている。

 すぐさま彼女を鑑定する。



オーロラ=ノーブル=ワ=グロリアス

年齢:16歳

種族:普人

職業:光の聖女

SP:25/25

通常スキル:【光輪】【報連僧】

装備スキル:【犠聖陽極】【心の友】



「おいおい」


 まずは一番上、ずいぶん名前が長い。高貴な身分確定だ。

 次に職業、光の聖女。王都に来た時にマァが言ってた聖女本人だな。

 そして会話が出来ているのは……【心の友】の効果か?


「とりあえず質問いいですか?」


 ステータスを消して話しかける。

 鑑定結果は一旦忘れよう。踏み込み過ぎもよくない。

 ただ、現状は把握しないといけない。


『はい、いいですよ』


 聖女は背筋を伸ばすと俺を見る。

 フードの暗がりから強い視線を感じた。


「ありがとうございます。ではまず……何で襲われてたんですか?」


 一番の核心部分から訊く。

 聖女だから狙われたのか、それともただの偶然か。この違いはかなり大きいはずだ。

 聖女側がどう認識しているかで多少は相手の狙いも分かるだろう。


『実は……』


 聖女はぽつりぽつりと語り始めた。

 まず聖女はある組織の闇を暴くために調査をしていたらしい。

 しかも聖女の身近な人物が関わっている疑いがあり、情報が洩れる危険性を考え慎重に行動していた。

 ただそれでは得られる情報にも限界があり、もっと情報を得ようと少し踏み込んで探っていたところいきなり襲われたと。


「ふぅむ」


 確実に大事だな。組織の闇とか身近な人物の裏切りとか。

 聖女の身近な人物って多分教会関係者だろ、で、調査してた組織ってそれ教会の事なんじゃ……。


『危険だという事は承知しています。ですが(わたくし)がやる事に意味があるんです』


 聖女だもんな~。

 その口ぶりからしてやっぱり教会内部のゴタゴタっぽい。


「な、なるほど」


 で、訊かれたからって何でそれを正直に言うんですかね。

 ちょっと嫌な予感がした俺はそれとなく確認する。


『あの状況で助けて下さる貴方はきっと、裏表のない善良な方だと思うんです!』


 聖女はいきなり机から身を乗り出すと俺の両手を掴んでくる。

 意外と力が強いな……。


「ええっと……」


 俺はそのまま言葉に詰まる。


「――――――――」


 その時店員が仕切りの向こうから声を掛けてきた。

 どうやら料理が来たらしい。


「……とりあえず先に食べましょうか」

『はい、そうですね』


 店員が料理を置いて下がると聖女はフードを脱いだ。

 金色の長い髪にぱっちりとした碧眼、肌は透き通るような白さ。

 ……ずっとフードを被っていた理由が分かった気がする。

 聖女の上にこの美貌だ。このまま王都を歩けば確実に視線を集めてしまう。


「では、いただきます」

『? はい。――—』


 聖女は目を瞑り、胸の前で手を組むと何かをつぶやく。食事前の儀式だろうか。俺は普通に手を合わせておく。

 ちなみに料理は二人とも本日のおすすめを頼んだ。器の中を見ると煮込み料理らしく、大きめに切られた肉や根菜が茶色のソースの中にゴロゴロ入っている。見た目はビーフシチューに近い。

 スプーンで肉に触れるだけでそのまま柔らかく切れていく。茶色いとろみのあるソースと共にそのまま掬い取ると一口食べた。


「!」


 俺は目を閉じるとゆっくりとそれを味わう。

 煮込んで柔らかくなっている肉の旨味と野菜の甘みや旨味の集合体であるソースの深い味わいとが混然一体となって口の中に溢れ出していく。

 これは肉の質もそうだがソースにもこだわって作っているのだろう。多くの野菜や肉を贅沢に使用し長時間煮込み続ける事でそれらの甘みや旨味が最大限引き出されたソースを創り出した。そしてそのソースと質の高い肉や根菜類を合わせる事で見事な料理が完成している。

 つまり何が言いたいかというと――。


「美味い」


 飲み込む瞬間も旨味を感じる。

 本当に美味しい物は身体が喜ぶと言うが、その感覚をまさに今味わっている。


『美味しい』


 その呟きに視線を向けると聖女が固まっていた。

 どうやら料理が美味しすぎてフリーズしたらしい。


「大丈夫ですか?」

『……いえ、心配をお掛けしました』


 美味しさの向こう側から帰ってきた聖女は食事を再開する。

 笑顔で食べ進めているし、きっとこの料理を気に入ったんだろう。



『美味しかったです』

「それは良かった」


 食事を終えてまったりしていると、聖女が感想を一言。

 咄嗟に思いついた場所だったが、喜んでもらえてなにより。


『初めて食べるお料理でした。新しい恵みの発見に感謝を』


 両手を組んで祈り始める。

 しばらくして手を解いた聖女に俺は訊いてみる事にした。


「普段はどんな料理を食べているんですか?」


 地位に見合った高級なものか、それとも聖職者らしく質素なのか。


『私にはこういったお肉を使った料理が出ません……』


 話を聴くと、肉や魚は基本出てこないらしい。

 食卓に上がるのは野菜や山菜、キノコで作られた料理ばかり。その代わり丁寧に調理されているらしく、それに対して不満はないらしい。

 たまにデザートで果物も出るみたいだから、大事にされていない訳ではなさそうだ。


「なるほど」

『たまにお肉やお魚を食べたい日もありますが、我が儘は言えませんね』


 聖女は内心を吐露した。

 図らずも今回肉料理を食べられたのはよかったのかもしれない。

 普段食べられないのなら猶更。


「たまには言ってもいい気がしますけどね、我が儘」

『……はい、そうですよね』


 ちょっと無理してる感じがする。

 どうしよう。


「……」

『……』


 俯いてしまう聖女。

 このままだとまずい。


「こ、こんな時は逆に」

『?』


 顔を上げてこちらを見た。

 今だ!


「笑ってみるのはどうでしょうか」

『……はい?』


 聖女は悲しそうな顔から一転、ポカン顔に。


「……」

『……』


 俺の固まった笑顔から血の気がサァーーーッと引いていく。

 完っ全に滑ったあぁぁぁぁぁっっっ!!!


「えっ笑顔というのは幸せを引き寄せるというか何というか……」

『ふふふっ、何ですかそれ』


 冷や汗をかきつつ視線を逸らす。

 どうか弁明の機会をいただきたい。


『もうっ、大丈夫ですよ』


 その声に恐る恐る視線を戻す。

 目の前には口元に手を添えて笑う聖女の姿があった。


「すみません。変なこと言って」

『ふふふ、変なこととは?』

「いやいや、勘弁してくださいよ……」


 お茶目が過ぎるぞ聖女様。


『変なことではありませんよ。私は十分笑顔になりました』


 目の端に浮かんだ涙を細い指先でそっと拭うとこちらを見る。


「……それなら良かったです」


 本当によかった。

 涙を浮かべるくらいに笑えたのなら、恥ずかしさなんてどうでもいい。

 俺は聖女の心からの笑顔を見てそう思った。

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