第8話 山に生えてる甘いやつ
「ふぅ、この辺りはどうだ」
俺は王都から少し離れた山の中でとあるものを探していた。
「場所は合ってると思うんだけどな」
近くにある木の根元を覗いてみたり。
その場にしゃがむと落ち葉をどけてみたり。
「うーん、ないなぁ」
依頼内容はとあるキノコの採取だ。
とても美味いキノコらしく、採れた分だけ追加で報酬も出る。
「名前も見た目も分かってるのに」
ちなみにマァとは別行動中だ。
今彼女は畑に出没しているという害獣の駆除に当たっている。
場所もこの山の麓だし、後で合流して一緒に帰る予定でいる。
「さすがに一本も見つからないってのは……」
王都に来てすぐは一緒に依頼を受けていたが、最近はそれぞれに合った依頼を受けている。
俺はこういった【鑑定】を生かせる採取依頼が中心だ。今も変わらず【鑑定】を持っている事は斡旋所に隠しているが、伝えなくても受けられる採取依頼はたくさんあった。
「この辺りはっと」
うっすら盛り上がった落ち葉を掻き分けた時、微かに甘い匂いがした。
「おっ! これじゃないか?」
地面にパンケーキが落ちている。キツネ色で美味しそうだ。
俺はすぐに鑑定する。
《フェトル》クラス:Ⅱ 品質:優
・グロリアス王国で偶に採取出来る茸。優しい甘みがあり美味しい。その味と甘い香りから王国内ではデザートや調味料として親しまれている。
「うっし! これだ」
俺は静かにガッツポーズをするとパンケーキにしか見えないそれを両手で持ち上げる。すると簡単に傘の部分だけが取れた。地面を見てみると短い軸の部分がそのまま残っている。
「これでいいんだよな」
斡旋所で確認した採取法通りにやってみたが、思ったより簡単に傘の部分だけが取れた。
「軸を残さないと次が生えてこないし」
ちなみに傘の部分は美味しくて軸の部分は不味いらしい。もし捕食者に見つかっても上の部分を食べられる代わりに命は繋ぐそうだ。
それなら全身不味ければ襲われる事もないのではと思ってしまう。
まぁ、このキノコの生存戦略的には食べられた方が何か得があるのかもしれないが。
「よし! バンバン採っていこう」
俺はこれまでが嘘のように、どんどんフェトルを見つけては採取していくのだった。
♢
「どうだった?」
マァは山から降りてきた俺を見つけると小走りで寄ってきた。
「ああ、見てよこれ」
俺はしゃがむと背負い籠の中身を見せる。
「わぁ! たくさん採れたのね」
マァは両手を合わせて喜んでいる。
「最初は見つからなかったけど、一度見つけてからは順調でさ」
「へぇー、そうだったのね」
「マァの方はどうだった?」
表情的に大丈夫だったんだろうとは思うけど。
「私の方も達成したわ」
マァは笑みを浮かべる。
「それはよかった」
俺は笑うと籠を背負い直す。
お互いに怪我もないし、後は帰るだけだ。
「じゃあ戻ろうか」
「ええ、急ぎましょう」
斡旋所が閉まってしまう前に王都に戻ろう。
♢
斡旋所で手続きを終えた俺達は宿に帰ってきた。
鞄から今日の成果を出すと机の上に置く。
「見た目は美味しそうだけど……」
俺は机の上のそれを改めて観察する。
パンケーキのようなキノコ。納品に必要な数は超えていたから一つお土産に持ち帰ってみた。
「ええ、美味しいわよ」
マァは以前にも食べた事があるらしい。
「にゃん」
「ちゅう」
ラジエルやハッズはそれに近づくと頻りに匂いを嗅いでいる。
キノコだって言われても匂いも見た目もパンケーキだからな。そんな謎の存在に興味を引かれたようだ。
「とりあえず加熱したほうがいいのかな?」
鑑定でデザートや調味料になる事は知っているが、肝心の食べ方が分からない。
さすがにそのまま食べるのは違うはず。
「そうね、食堂に行って焼いてもらいましょうか」
俺とマァは宿の食堂に行くと焼いてもらうよう頼んでみた。快く調理してくれた料理人には感謝しかない。
ちなみに乾燥させると甘い調味料になるらしい。いつかそれを使った料理も食べてみたい。何でも特別な日の料理らしいが……。
焼いてもらったそれを部屋に持っていくと皆で食べる。
「美味い」
「美味しい」
「にゃにゃ」
「ちゅうぅ」
口の中に広がるのは素朴な甘み。
噛む度に甘い香りが鼻を抜けていく。
俺は異世界で出会ってしまった。どこか懐かしさすら感じるそのスイーツに。
「これが食べられるとはな」
それは表面がしっとりとして中はふわふわな、とても美味しいパンケーキでした。




