第7話 使う装備と積み装備
俺達は一旦買った物を整理するために宿に戻った。
途中で肉の串焼きも何本かお昼用に買っている。
「ただいまー」
「ただいま戻りましたわ」
「ちゅう」
扉を開けるとベッドに寝そべっていたラジエルがこちらを見た。
「にゃ」
一声鳴くとふわりと浮かび上がり机の上に着地する。
視線はずっと手に持っている肉串に釘付けだ。
俺はそんなラジエルに近寄ると頭を軽く撫で、肉串の入った容器を置いた。
「昼からはどうする?」
「そうねぇ」
ラジエルが出した赤い皿に串を置くと肉を外していく。串のままだと食べにくいからな。
マァはハッズ用の小皿を出すと、そこに小袋から取り出したナッツを入れた。ちなみにミックスナッツだ。一種類よりも色々ある方がハッズが喜ぶらしい。
「店巡りを続けてもいいけど……」
「依頼もこなさないといけないわ」
収入は大事だ。
早めに見て回りたいとはいえ、今日中に全ての店を回る必要もない。
「とりあえず先にご飯を食べましょう」
「ああ」
ラジエルもハッズも行儀よく待ってくれている。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
「んにゃ」
「ちゅう」
そして皆でいただきますをしてから食べ始めた。
♢
食事も終わり、今後の話し合いも一段落した頃。
「このナイフは預けておくわ」
マァは腰からナイフを鞘ごと外した。
水晶のナイフと交換するためだろう。
「分かった、ちょっと行ってくる」
俺はそれを受け取ると異界の門を開く。
目の前に黒い渦が現れ、すぐに中に入った。
「んーと」
いくつもある箱の中から装備の箱を探し出してナイフを納める。
「これでよし」
古の籠手はまだ鞄に入れたままだ。
俺かマァのどちらかが条件をクリアしていればいい。
そう願いつつ宿の部屋に戻った。
「ありがとうございます。ハッズもありがとう」
そこには新しいナイフを腰に差したマァがいた。
ラジエルとハッズはその姿を褒めているみたいだ。
「お披露目会みたいだな」
「あっメグル。ありがとう、預かってくれて」
俺は構わないと言うと、部屋の隅にある自分の鞄に近づく。
そして中から古の籠手を取り出すと机の上に置いた。
包んでもらった布はまだ解かない。
「私はもういいから、次はハッズの番ね」
マァは机の上に置かれていた小箱を開けて中身を取り出す。
例の頭巾か。鑑定で小動物専用と出ていたし装備は出来るはず。
「大人しくしててね」
小さな黒い頭巾をハッズの頭に被せると位置を微調整する。
その間ハッズは机の上でされるがままだ。
マァは最後に正面の布を顔が見えるように捲り上げた。
「ちゅう」
ハッズは小さな手で頭を触ると俺達を見た。
「わあ! 可愛いわ」
「うん、いいんじゃないか」
「にゃんにゃ」
俺達はハッズを褒める。
白いハッズに黒い頭巾は色の感じもいい。
「ちゅ!」
ハッズは満更でもないようで、後ろ脚で立ち上がると色んなポーズを見せてくれた。
「スキルは使えるか?」
「ちゅ」
ハッズは頷くと静かに目を閉じる。
すると身体の周りに黒い煙が現れ、すぐに姿が見えなくなった。
「大丈夫かしら」
マァは不安そうな目を煙に向ける。
次第に煙が晴れていく。そこには黒い服を着たハッズがいた。
見た目は真っ黒な忍者っぽい。これが黒子の姿らしい。
「おおー! 格好いいな」
「よく似合ってるわ!」
「にゃ」
ハッズはその声に目を開けると自分の姿を確認する。
「ちゅう~」
どうやらとても気に入ったようだ。俺達に見せびらかしてくる。
その後、走ったり隠れたりも披露してくれた。
ただ、速さの違いはよく分からなかった。なにせ装備をしていなくても一瞬で目の前からいなくなる。本人的には若干早くなっている感じはあるらしい。
見つかり難さはもっと分からない。姿を見失ったりもしないし、足音とかも消えたりしない。暗い所だと目立ちにくくはなるが、スキルの効果かと言われると……。
「うーん」
装備スキルを鑑定する。
【闇纏】クラス:Ⅳ
・装備スキル。スキル発動を願う事で闇の衣を纏う。外敵に見つかり難くなり、足が速くなる。発動には5SPが必要。発動者が攻撃を受けると強制的に解除される。任意で解除も可能。
外敵に見つかり難く、か。
「ああ、そういう事か」
「何か分かった?」
マァはハッズと遊んでいる。
小さな手を優しくつまむと上下に揺らしているようだ。
ハッズもリズムに合わせてお尻をフリフリさせて楽しそう。
「外敵って部分が関係してるんじゃないかな」
「私達は敵じゃないから効果がないってこと?」
「うん、多分だけど」
これ以上は正直分からない。
そしてまだ装備が残っているのを思い出す。
「あ、これも確認しないと」
机の上に置いたままの籠手を見ると、包んである布を解いた。
「どっちから行く?」
「私は後でいいわ」
「分かった……俺からな」
マァはハッズと遊ぶのに忙しいようだ。
俺は籠手に触る。
「……そう都合よくはいかないか」
反応はない。
続いてマァも触れてみたが同じだった。
「まあ、いつか条件を満たす事を祈ろう」
もしくは条件に合う人間を見つけるか。
ただしそれには別の問題もある……。
俺達はそれから依頼をこなしつつ、店を回る日々を過ごすのだった。
♦♦♦
「ああ、良い物を手に入れたわ~」
女は箱を開ける。
そこには淡く輝く籠手が納められている。
「見せた時の顔が楽しみね!」
周りに自慢する瞬間でも想像しているのか、顔がだらしなくにやける。
「でゅふふ」
その日の夕方、女はこっそりと家を出た。
そして翌朝になっても帰ってくる事はなかった。
両親はすぐに捜索願を出すと、自分達でも探し始める。
ここに名家のお嬢様カレン=ノイジ―=プランドラーは行方不明となった。
持っていたはずの籠手と一緒に。
♢
夜の帳の中、王都グロリアスのとある場所で。
「ふむ、良い物だな」
呟かれた言葉は誰にも聞かれる事はない。
「有効活用させてもらおう」
籠手の発する淡い光だけが、ただ静かに揺れていた。
♦♦♦




