第3話 気になる抜け毛とステータス
俺達は斡旋所でお勧めされたいくつかの宿から一つを選び、そのまま向かうと宿泊の受付をした。宿のグレードはオブリビオンで泊まっていた宿屋よりは下がっているが金額は同じだった。王都だから物価が高いのかもしれない。もちろん二人部屋なのは言うまでもないだろう。
現在、食事も済ませた俺達は部屋でのんびりしている。
「そういえばさ」
俺は久しぶりに呼び出したラジエルをベッドの上で撫でながら言う。
長旅の間あまり構ってやれなかった事もあって、今日のラジエルは少し甘え気味だ。
艶やかな白い短毛の感触を味わいつつ、たまにサラサラした黒い翼を撫でる。
「ん? なにかしら」
マァはハッズを掌に乗せて指先で遊んだり撫でたりしている。ハッズも目を細めて楽しそうだ。
「ラジエルは抜け毛とかないんだけどさ、ハッズはそういうのあるのかなって」
俺はラジエルを撫でた手を見つつ、ふと頭に浮かんだ疑問を口にした。ハッズは白毛で尻尾の長いハムスターで、そしてラジエルとは違いスキルではない。
宿にはハッズの事は伝えていないが、動物持ち込み可であるのは事前に確認している。だから宿泊に関しては大丈夫だ。
でも抜け毛からどんな動物か聞かれても返答に困るし、幸運のネズミだ何だと騒ぎになるのはもっと困る。
「そういえばそうね」
マァは自分の目の高さまで掌を上げると、そこに乗ったハッズをじっくり眺める。
「ちゅう?」
ハッズは新しい遊びだと思ったのか、掌の上でぐるぐると走り始めた。
「うーん」
しばらく色々な角度から見ていたが、特に分かる事はないみたいだった。
諦めたのか、マァは揃えた太ももの上にハッズをゆっくり乗せると撫で始める。ハッズはすぐに耳を寝かして大人しくなった。
「抜け毛は今まで見た事ないし、多分抜けないんじゃないかしら」
ローブにも服にも付いてはいないとマァは言う。
「そうなんだ」
「不思議よねぇ」
「本には何か書いてあったりする?」
「あるにはあるけど、存在自体が珍しくて生態についてはあまり分かってないの」
大体の外見と木の実が好きである事、そして幸運の加護を授ける事。分かっているのはその程度らしい。
「なるほどね」
まあ抜け毛を見られたからって種類を特定するのは不可能だろうし、聞かれても俺達が言わなければいいだけかもしれないな。
「ちゅ?」
俺は撫でられすぎて太ももの上でへそ天し始めたハッズを見る。
「まあハッズはハッズだし」
それに……珍しい存在、か。
俺は自分の掌を見る。珍しさで言えばむしろ俺の方が珍しいと言えるだろう。なにせ異世界人だ。見世物で金が取れるレベルかもな。
「にゃ」
ラジエルは俺の手が止まった事に不満があるのか鳴き声を上げた。俺は謝ると撫でるのを再開する。
そういえば今までいっぱい撫でてきているのに、ラジエルがへそ天している姿を見た事がない。やっぱりお腹の所は見せたくないんだろうか。初めて会った時も雄雌を確認しようとして嫌がられたし。
俺は頭を振ると、久しぶりに自分を鑑定してみる。
星渡 巡
年齢:18歳
種族:異世界人
職業:旅人
SP:110/110
MP:12
固有スキル:【まどう図書館(貸出中)】
通常スキル:【気配遮断】【短剣術】
装備スキル:【一界一城の主】【星虹の一撃】【剣状変化】【装備収納】
【装備収納】に鑑定玉が収納されていて表示されないが、【鑑定】は問題なく使えている。
数値の上昇については、SPの最大値がダンジョンボスだった大土鬼を倒したら10増えて、MPがモンスターを倒した数と同じだけ増えている。恐らくMPについてはボスでも雑魚でも1ポイント判定になっている。
次に俺はマァの方を見た。
マァ=アナーカ
年齢:15歳
種族:精霊人
職業:水使い
SP:30/30
通常スキル:【水龍】【言語理解】
装備スキル:【装備収納】
一緒にダンジョンボスを倒したからか、SPは俺と同じで10上昇している。MPはそもそも『まどうポイント』とかいう俺独自のシステムだから表示自体がない。
収納されたヌウンの水筒の持つ【液体生成】は俺の【鑑定】と同じく表示されないが、見ようと思えば【装備収納】の中身の装備名までは鑑定可能だ。
マァにも確認したが、クラスⅤだからそこまで見えるらしい。収蔵の指輪や装備スキルをクラスⅣの鑑定玉で見るとこうなる。
《収蔵の指輪》クラス:Ⅲ 品質:優
・【装備収納】を発動出来る。
【装備収納】クラス:Ⅲ
「中身を見られないのは助かる」
俺はマァから視線を外すと目を閉じた。
特に俺達はスキル付き高クラス装備を複数持っている。どこかのタイミングで鑑定されないとも限らないし、俺もマァも探られたくない事情がある以上、変な目立ち方は避けたい。
「本当は星辰の短剣も収納したいけど、自衛が出来なくなるのがな」
装備のクラスもだが【星虹の一撃】も出来れば切り札として隠しておきたい。ただ、収納してしまうと今度は代わりの武器が必要になる。
ナイフは持っているが、それを自衛手段にするのは本当に最後だ。相手から手を出されない程度には質のいい剣を装備しておきたい。
「装備、見に行くかぁ」
普通の装備を購入しつつ、覚醒前のダンジョン装備も探す。
王都に来るまでにも寄った先で探してはいたが、オブリビオン以外は店も少なくていい物も売っていなかった。でもここなら店もたくさんあるし、探せば色々よさそうな装備が見つかるかもしれない。
「ねぇ、メグル」
「ん?」
俺はその声に目を開ける。視線を向けるとマァがこちらをじっと見ていた。
「私からでいい?」
そう言ってマァは部屋の隅の衝立を指さす。
「ああ、どうぞどうぞ」
そういえば身体を拭くのはまだだったな。
俺は衝立の方を見ない様に反対を向くと、ゆっくりとラジエルを撫でる。
爽やかな香りがラジエルから漂う。その落ち着く香りに包まれて、しばらくの間俺は癒されるのだった。




