第2話 王都の街並みとドキドキの理由
門での手続きが終わった俺達は石畳で舗装された大通りをまっすぐ進んでいく。
石やレンガで組まれただろう家々は想像していたよりも彩り豊かだ。何か塗っているのか茶色だけでなく、橙色や黄色、青色なんて外壁の建物もある。木の筋交いが外から確認出来るものもあって見ていて飽きない。
入り口横に置かれた鉢植えや花壇には観葉植物や白い花が咲き誇り、緩やかに流れる風にその身を揺らしていた。
「凄いな……」
俺は思わず呟く。今までに見た街や村はここまでじゃなかった。建物の色味も茶や灰ばかり。
でもここは違う。元の世界の人気観光地と言われても遜色のない華やかさ。すれ違う人々の顔も生気に溢れ、踏み出す一歩もどこか軽やかだ。
「ほら、着いたわよ」
そうこうしている内に依頼人の店に着いたようだ。
連絡が行っていたのか建物から従業員が数人出てくると、すぐに馬車から荷物を降ろし始める。
ちなみに捕まえていた盗賊達は門の手続きの段階で兵士達に身柄を渡している。報奨金については斡旋所で受け取る手筈になっていて、マァによると依頼人と護衛達の頭数で割った金額が後日もらえるそうだ。
「―――」
しばらく荷下ろしの様子を見ていると、依頼人から声を掛けられた。
「こちらこそ」
マァはそう言って軽く頭を下げ、俺も返事はしないが動きを合わせる。
そして依頼書にサインをもらった俺達はその場を離れた。
「このまま斡旋所に行くんだよな?」
「ええ、依頼完了の報告が先よ」
「分かった。その後は宿の確保か」
時間は夕方に近い。なるだけ暗くなる前に終わらせたい。
「そうね。それ以外は宿に行ってから考えましょう」
俺達は話しながら斡旋所へ向かう。
斡旋所は基本的にどの町や村でも中心部に建っているし、入り口横に国旗が掲げてあるから見つけるのは簡単だろう。
「それにしても人が多いなぁ」
すれ違う人の量が今までの街や村とは全然違う。
「国の中枢だから当たり前よ。お城もあるし観光で来る人もいるから余計にね」
視線を上げれば遠くに城が見える。俺達が入ってきたのは北門だから、丁度王都の南にあるようだ。
「まさに王城って感じだな……」
「そうね、大きくて立派ね」
大通りの伸びる先、建物に隠れて尖塔や城壁がチラリと見える。それだけでも相当の大きさであることが分かる。
「あの手前の白い建物は何だろうな」
俺は城よりは小さいが、その次くらいには大きなそれを指さした。
「あれは大聖堂ね」
「大聖堂?」
俺は首を捻りながら言う。
「ノーブル大聖堂。聖女教信仰の総本山」
「なるほど……聖女教って何?」
「過去に実在した聖女様を崇めている宗教の事よ」
「そんな人がいたんだな」
「今もいるわ」
「へ?」
「流石に初代はいないけど……当代の聖女はオーロラね」
顎に指を添えるとマァは考え込む。
緩くウェーブがかった青髪が頬に流れる。
「訊いといてなんだけどよく知ってるな、初めての場所なのに」
「初めてじゃないわよ」
「え?」
「昔来たことがあるの。お父様達と一緒にね」
マァは顔を上げるとこちらを見た。青を湛えた瞳が俺を射抜く。
「私、これでもお嬢様なのよ?」
視線でも忘れてないかと問い詰められる。
……ジト目で見られると大変辛いです、ハイ。
「馬車の旅は退屈だったし、多少記憶が曖昧な所もあるけど」
そのまましばらく話していると、都市の中心部に辿り着いた。
そこには大通りを挟んで向かい合うように斡旋所とそれよりも大きな大聖堂が鎮座している。
「おお!」
大聖堂を見上げる。尖り屋根や塔のような作りもあるがその全てが白い。壁面に彫刻が施されているのか、陰影によって文様が浮かび上がっている。内部を一般公開しているのかは分からないが、外からだけ見ても十分目の保養になる建築物だ。
「さ、早く報告をしましょう」
マァの声に現実に帰る。俺達の目的地は斡旋所だった。
「ごめん、行こう」
大聖堂から視線を切ると斡旋所に向かう。
木の扉を開け、入口正面に見えるカウンターに着いた。
「グロリアス王国斡旋所グロリアス本部へようこそ」
女性職員が声を掛けてくる。その瞬間、俺の心臓が少し騒めいた。
「ええ、依頼完了の報告をしに来たわ。確認をお願い」
そう言ってマァは依頼主のサインが入った書類を取り出す。
「分かりました。身分証を見せていただいてもよろしいですか」
「ええ、どうぞ」
マァと一緒に俺も身分証を取り出す。緩い動悸が収まらない。
「はい、ありがとうございます。少々お待ちください」
書類と身分証を確認した女性職員は書類を手に裏に下がった。
「こ、これで今回の護衛依頼は終わりだな」
俺は気持ちを落ち着けるため本部の中を見る。
作り自体は支部とあまり変わらないが、やっぱり規模が違う。本部なだけあって支部より広くて人も多い。
「お待たせしました。盗賊の報奨金につきましては後日になりますので、今回は依頼達成の報酬のみお渡しになります」
いつの間にか戻ってきていた女性職員はそう言うと、トレイに報酬を乗せてカウンターに出してくれた。
長期依頼だったのもあって報酬が多い。ちゃんと枚数を確認した後に巾着袋へ入れた。報酬は大体いつも三等分だ。俺とマァと生活用。食事や雑費については生活用から基本出している。
「ありがとう、また後日来るわね」
マァは笑顔で言う。
「はい、またのお越しをお待ちしております」
女性職員は綺麗な礼を見せた。
「あと、最後に訊きたい事があるの」
「何でしょうか」
そうして最後にお勧めの宿を確認した俺達は、宿を取るべく斡旋所を出た。
「ねぇ」
宿の場所に向かって歩いているとマァが声を掛けてくる。
「ん?」
俺は街の風景を眺めながら返事をした。
「ちょっとドキドキしてたでしょ」
「うっ」
マァがいきなりそんな事を言うもんだから、咄嗟に言い返すことが出来なかった。
「やっぱり」
俺は周囲を見るのを止めて隣を見る。そこにはニンマリした笑顔で俺を見上げるマァの姿があった。
「ふぅ……仕方ないだろ」
俺は諦めの溜息を吐くと素直に認める。
ああ、久しぶりだったからな。手を繋ぐのは。
護衛依頼をしている間、お互いの身体に触れる事は控えていた。周りの眼もあるし、いつ襲われても対処出来るように準備をしていなければならなかった。
「私もよ」
「?」
俺は一瞬意味が分からなかったが――。
「ああ」
その顔を見て納得した。そうか、マァも。
「そ、私もちょっとドキドキしたわ」
俺の隣で彼女は、夕日の中で咲く花になっていた。




