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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ
第二章 星渡巡と白鼠とワ

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第1話 王都到着

 ハッ、ハッ――


 複数の人間の荒い息遣いが薄闇に響く。夜よりも朝に近い時間帯。

 森を貫くように敷かれた道には既に人間が何人も倒れていた。


「行くわよ!」

「ああっ!」


 俺はマァの合図に合わせて動く。

 後ろで生まれた水の龍は俺が直前までいた空間を貫き、剣を振り上げていた盗賊に命中した。


「グァッ!」


 盗賊は吹っ飛び、木に叩き付けられて気を失う。

 周りを見ればまだ戦いは続いている。


「次は向こうに行くぞ!」

「ええっ!」


 俺は短剣を手に最短距離で走る。マァは杖を持ちそれに続く。

 依頼を全うし、全員で生き残るために俺達はしばらくの間戦い続けた。



 俺達は護衛依頼を受け、王都に向かう商隊に帯同している。道中は盗賊が出る場合があるそうで、荷を守るため結構な人数が雇われていた。

 俺はマァとペアを組み右側面を担当している。俺が前衛でマァが後衛だ。これはダンジョン攻略の時と同じ役割分担になる。


「やっと終わったか」

「そうね、人数は相手の方が多かったみたいだし」


 耳を澄ませば盗賊の呻き声と護衛隊の話し声が聞こえる。見る限りこちら側で倒された護衛はいないようだ。

 俺の革鎧には目立った傷もない。偶然相手の手が当たった程度で、武器自体は避けていたからだ。もちろんマァには傷すらない。後ろには誰も通さなかったからな。

 依頼者である商人との話し合いが終わったのか、護衛隊を任されているリーダーがこちらに来た。


「―――。―――?」


 俺達を見て何かを言う。


「ええ、大丈夫よ」


 マァは返事をし、俺は頷く。

 この世界の言葉が分からない俺は何となく雰囲気で返す事しかできない。恐らく戦いに対する労いと怪我の確認じゃないかとは思う。

 それからしばらくマァとリーダーとの間で話が行われた後、リーダーは依頼人の方へと戻っていった。


「何の話だったんだ?」

「依頼人との話し合いで、盗賊たちを縛って連れていく事になったそうよ」

「そっか」


 聞けば俺達が目指している王都はもうすぐらしい。元の世界みたいに正確な地図がある訳じゃないから、そういう情報は助かる。

 生き残った盗賊達を捕縛して馬車に積み込むと、俺達は街道をそのまま歩き始めた。

 ちなみに盗賊を殺さないのは、その方が国からの報奨金が多いからだそうだ。生きていれば色々使いようがあるみたいだが恐らく碌な目には合わないだろう。


「んー、それにしてもこの指輪はいいわねぇ」


 俺は歩きつつ横をチラリと見る。

 そこには自分の手を眺めているマァの姿があった。


「確かに便利だよな」


 ダンジョンで手に入れた例の指輪をマァは右手の薬指に着けている。

 俺は左手小指に嵌まる自分の指輪を見た。



《収蔵の指輪》クラス:Ⅲ 品質:優

・金剛石と白金で作られた指輪。【装備収納】を発動出来る。


【装備収納】クラス:Ⅲ

・装備スキル。スキル発動を願い装備を手に持つ事で収納する事が出来る。装備を戻したい場合は指輪を外すこと。収納出来る数は指輪のクラスにより変化する。収納した装備のスキルを使用可能。

『星見の鑑定玉』『』『』



 あの日手に入れた指輪には鑑定玉を入れている。これで指輪をしているだけで鑑定玉にいちいち触れなくても鑑定が出来るようになった。マァはヌウンの水筒を入れている。

 ヌウンの水筒のスキルは【液体生成】だ。これは元々蓋に触れる事で容器内に聖星水を生み出すものであり、実際に使うためには備え付けの蓋に注ぎ、どんな液体にするかを願うという聖星水独自の作業も必要だった。だが、指輪に収納する事でその手間もかなり省けた。つまり俺もマァもスキルの発動が大分楽になったという事だ。

 ちなみにさっきの戦闘でも使っていた指揮棒のようなマァの杖は、鋼の短剣と共にいつも腰に差している。収納しないのは短剣と同じでスキルが付いておらず、意味がないから。ただ、素材自体に少しだけ水に関するスキルを補助する働きがあるようで、戦いでは短剣を抜かずにもっぱら杖を振っている。


「フフフ」

「……」


 気付けば笑みを浮かべるマァの姿があった。

 その視線は指輪を越えてどこか遠くを見ているような――。

 何故か背筋がゾクッとした。男女でお揃いの指輪を着ける意味は以前聞いた。それに俺はどう返したんだったか……。


「スキルと装備の相性がいいとこういう事も起こるのね」


 俺がそれを思い出す前に帰ってきたマァは自分の手元を眺めつつ言う。

 【液体生成】は指輪を介して発動すると杖の先に小さな水球が現れる。この時点でどんな液体を出すかを決めておけばその液体で現れる。そして水筒から水を出す位の速さで徐々に大きくなり、適度な大きさになると【水龍】を使い龍に変えて敵に打ち放つ。そうすることで【水龍】のSP消費が節約されるのだ。

 練習の時に鑑定で見たが、【水龍】発動にかかるSPが半分の5で済んでいた。恐らく水を生成するという部分がSPを消費しない【液体生成】で代替された結果だと思われる。


「水の種類も変えられるしな」

「そこは今後の課題の一つね」


 やろうと思えば毒水や聖水の龍も生み出せる。今は普通の水で戦っているが、可能性は無限大だ。


「毒は後処理が大変で、聖水は光って派手なのよねぇ」

「言われてみれば……」


 いきなり毒をまき散らしたりすれば、周囲への被害は大きいだろう。下手をすると俺達がお尋ね者になりかねない。後で聖水で中和する手もあるにはあるが、飛び散った場所全てとなると難しい。それに結局聖水自体も光るし目立つ。

 ただ、【液体生成】を使ってSPを温存しつつ自分の使いたい水量・種類の龍で戦うか、消費SPは増えるが【水龍】だけを使って一定水量の龍を即座に出すか。選べる択も増えて、出会った頃よりも確実に強くなっている。


「使い方を考えてみるわ。きっといい方法があるはずよ」

「そうだな。俺も何か考えてみるよ」


 いい考えが浮かんだら伝えよう。元の世界の知識も使えば何とかなるはずだ。



「―――!!!」


 前の方で誰かが叫ぶ。


「そろそろ目的地に着くぞって言ってるわ」

「分かった」


 盗賊を捕まえてから一日も経たないうちに王都に着いたようだ。

 俺達が護衛する馬車が商人用の列へ向かう事は知っている。一般人、商人、施設のお偉いさんや王族等はそれぞれ別の手続きが必要になるらしく、それぞれに担当官がいて列を捌いているそうだ。王族なんかは滅多に出入りしないだろうし、そもそも入口自体が違うかもしれないが。

 俺達は隊列からはぐれないように前に着いていった。


「ここまで長かったわね」

「そうだな」


 国としてはそこまで面積が大きいわけではないそうだが、それでも最初の街オブリビオンからここまで来るのに十何日もかかった。

 木々に覆われた道を抜けると、そこには草原が広がっていた。遠くには石で出来た外壁が見える。


「大きいな」

「ええ、大きいわね」


 遠くからでも分かるその威容は、規模は違うが初めてこの世界の街に来た時を思い出させる。あの時は異世界の街に感動する余裕すらなかったが、今は違う。

 右ポケットに入っている身分証を手で確かめつつ、徐々に近づいてくる外壁を見上げながら、俺はこれからの生活に思いを馳せた。

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