プロローグ
第二章開始です。
王都の夜に佇む白亜の殿堂は静けさに包まれている。
祈りの集積地点であるこの場所には、大聖堂とは別に秘密の聖堂があった。
そんな人々の喧騒が届かぬ静謐な場所にて。
一人の少女が祈りを捧げている。
ステンドグラスを通して柔らかな月光が聖堂内に降り注ぎ、内装の荘厳さとも相まって神聖な空気で満たされている。
「……」
祈る先は安置されている聖女像だ。
精巧なその像は作り物であるにも関わらず、今にも動き出しそうな程に生を感じる。両手を胸に重ね置き、笑みを浮かべたその姿。教えによれば真なる慈愛を表しているとの事だが――。
「こんな所にいたのですか」
しばらくそのまま祈っていると後ろから声がした。
少女は顔を上げると、ゆったりとした動作で振り向く。
「ええ……貴方こそどうしてここに?」
少女の輪郭は月光で淡く縁取られ、白地に金糸で飾り立てられた聖衣がふわりと舞う。
長い金の髪は後ろで結われ、純白の海の中をさらりと流れる。
「貴女を守るのが私の仕事ですから」
視線の先にいた男は口の端に笑みを乗せて言った。
腰に佩いた長剣が鈍い光を返している。
「そうですか」
大聖堂に満ちる優しい輝きの中で少女の碧眼だけが薄闇に沈む。
「何か悩み事でも?」
男は訝しげに少女を見た。
「いいえ、何でもありませんよ」
少女は頭を振ると男の方へ向かう。そして横を通り過ぎ、そのまま聖堂から出ていった。月光のような香りだけをその場に残して。
「ふむ」
男はそんな少女の背中を視線で追うと、しばらくの間その場に佇んでいた。




