48,分岐
「過労と睡眠不足ですね。ゆっくり休めば、じきに回復するでしょう」
イヴリンはオーネストを通じて、事情を知る、オークリーの主治医を屋敷の寝室まで呼んでもらい、診察をしてもらう。主治医は戦時中の軍医で、オークリーとは旧知の仲だと説明する。オークリーは目を瞑ったままベッドに横たわり、主治医とイヴリンがその横で座って話している。
「侯爵の診察をするのはいつぶりですかね? ずっと頑丈で…というか、気を張っていらっしゃったから。奥様がご一緒だから気を緩めることができたのでしょう」
優しい面持ちで主治医がイヴリンに向かって話す。
「…いえ、私がいるから侯爵様はペースを崩されてしまったのでしょう。私には心当たりがあります。私が一緒にいないほうが良いのかもしれません」
(私の我儘に、オークリー様を巻き込んでしまった…。殿下を躱すため、自分がオークリー様といたいためだけにストレスを強いてしまった…)
「……」
主治医は気遣うような視線をイヴリンに向けるも、言葉をかけられずにいた。
◆
「…というわけで、侯爵様は日頃の業務の疲れが出まして、しばらく療養されます。私も看病の時以外は自室に戻りますので。侯爵様にご用がある際も私のところにお願いいたします」
昼食を終えて客室に戻っていたランスロットにイヴリンはそう頭を下げて報告する。
結果的にイヴリンが侯爵の寝室で共寝するかどうか、という問題は解決したものの、不本意なかたちとなりイヴリンの表情は晴れない。
「それは俺が突然来たことも関係してるのだろうか。であれば申し訳なかった」
ランスロットも真摯な表情でイヴリンに謝罪する。
「…いえ、直接には関係ないと思います。私の力不足です…」
目線を床に向け、伏くイヴリンの頭に手をポンと乗せるランスロット。
「あまり気負わないほうが良い。今度はイヴリンが体調を崩したらいけないからな」
そう言って優しく微笑みかけた。
◆
目覚めたオークリーに、自分のせいであるから、という言葉をぐっと飲み込んで、イヴリンは一歩も引かず説得し、完全に回復するまで療養するように言った。
合わせて、療養中の侯爵の業務はイヴリンが代理でこなすことになった。
もともとイヴリンが予定していた事業の進行に祭の準備、侯爵の業務が増え、更にイヴリンは自ら料理を作って侯爵を看病することもあり、多忙を極めていた。
そんな、余裕がなくなってきたイヴリンを慮ってランスロットも侯爵のいない隙にと、イヴリンを誘うことはなかった。それどころか、祭の準備に関してはイヴリンが手伝おうとしていた仕事をランスロットが代わりに受け持ったり、毎日朝、その日のスケジュールで簡略化または見送って良いものなどの精査をしてイヴリンの負担を減らしていた。
◆
そうしているうちに侯爵も順調に回復し、主治医から、あと数日様子を見て問題なかったら復帰して良いという言葉も出た。
ただ、祭の開催を明日に控えた今、祭は侯爵は不参加の方向で、ということになった。
◆
ロスグラン領民が夏季、一番楽しみにしている祭の当日を迎えた。
イヴリンは朝早くから準備の手伝いに商店街に来ている。
「順調そうか?」
そこに、ダグラスと護衛を従えたランスロットが現れる。
「おはようございます、殿下。いろいろ殿下が根回ししてくださったおかげで、やることが少ないです」
眉を下げつつ、全く困った感じではなく、イヴリンは軽口を言うが、すっと笑みを消して、頭を下げる。
「本当にありがとうございました。無事、本日を迎えられるのも殿下のお力あってです」
そんなイヴリンを横目に、ランスロットは世間話をするように話す。
「侯爵はやはり今日は難しそうか?」
「…はい。でもお蔭様で、もうすぐ復帰できそうです」
「それは良かった。祭の見回りや、侯爵の様子を見に屋敷に戻る時間もあるだろうが、夜に少しはゆっくり祭を見る時間もあるだろう? エスコートさせてくれ」
「…はい」
これまでのランスロットの協力や、恋愛的な意味での接触を控えてくれたお礼も込めて、イヴリンは肯定する。
(殿下をおもてなしすることもできなかったし…私のほうこそ殿下をエスコートしよう)
「日が落ちる頃、メインの広場で待っているから」
そう言ってランスロットも祭の準備の手伝いに戻って行った。
このあとエンディング分岐します。




