42,オークリーサイド
オークリーとディナーで穏やかなひと時を過ごしたイヴリンは、就寝前にオークリーの部屋へ向かう約束をして、荷解きにいったん自室に戻った。
自分の身の回りを整えると、明日からのランスロット滞在のための準備にも取り掛かる。
一方、オークリーも視察予定の担当者への一報の手配しつつ、イヴリンが予定通りロスグラン領地に戻って来たことに内心ほっとしていた。ランスロットがついてきたことに対しては予想外であったが。
王都のロスグラン邸を任せているサラから定期的に報告は受けていたが、イヴリンが妹の一件後、更にランスロットとの交流を深めていたことは知っていた。学業や事業が忙しいのか、ランスロットの相手で忙しいのか、イヴリンからの手紙の頻度も少なくなっていて、イヴリンはこのまま夏も王都で過ごすのかもしれないと、その可能性も考えていた。
ランスロットとの交流は、イヴリンの不利益になることはないとは思っている。
オークリーが調べた限りだと、内内にイヴリンが王都に戻れるよう動いていたのはランスロットの手の者であることも分かっているし、イヴリンが王都へ戻るきっかけとなった貸し衣装業の店主ソフィアも、ランスロットがロスグラン領地に送った間諜でもあることは調べがついていた。もとより、表立って動けない立場であったランスロットが、イヴリンの行先や待遇を心配して送り込んでいたことも知っている。なぜそこまでランスロットがイヴリンのために動くのかは分からなかったが。
イヴリンは若いし、ロスグラン侯爵の妻という肩書は付けたものの、それはイヴリンが自由に学ぶための手段として、ということは本人にも伝えているし、本心からそのつもりだった。
しかし、いつか他の相手と結婚できるように、イヴリンと離縁する心づもりでいたが、本当にそのようにできるか揺らいでいた。
それはイヴリンの相手になる可能性の高いランスロットが王族であり、もし二人が婚姻したら、イヴリンが自由ではない立場になってしまう事への抵抗感なのか、ただ具体的にイヴリンの将来を想定していなかったことに対する準備不足なのか…。オークリー自身も良く分かっていなかった。
(世捨て人のように、王都との関わりや『ロスグラン侯爵』としての立場を隠して生きている自分といてもイヴリンは幸せになれない)
オークリーは自分に言い聞かせるように、そう心の中でつぶやいた。
◆
「失礼しま…す…」
ひとまずの手配を終え、入浴を済ませ、夜着に着替えたイヴリンは、何度あっても慣れない、緊張の面持ちで侯爵の執務室を訪ねる。すると、シャワーを終えたばかりの、まだ髪の毛がしっとりと濡れているオークリーがイヴリンを迎えた。
(ひっ…直視できない色気…)
目をぎゅっと瞑ったイヴリンの様子に疑問を感じながらオークリーは近づく。
「すまない、乾かしてから行くから、先に寝室に行っていてくれ」
「はいいい!」
目を閉じたまま、壁伝いに寝室の扉へと向かうイヴリン。
その背を見つめているオークリーは無表情でいた。




