43,裏目に出る
「異性として見ることはないからそんなに緊張することはない」
寝室に入るなり、オークリーは肩を緊張させてベッドに腰かけるイヴリンに告げる。
「え…っと…」
その言葉に、色々な意味で固まるイヴリン。もちろん“そういう”期待がなかったわけでもないが、普通に好きな人と二人きりのシチュエーションに緊張していただけ。
“そういうこと”を期待しているように見えてるわけではなくとも、異性として見る予定がないと、線を引かれてショックを受ける。以前は子供だと思われているのだと思っていたが、この発言からは、異性として考慮のうちに入るけど、それをもってして意識外であるように聞こえた。単に年の差だけの問題ではないように感じていた。
「承知…しております。はい。挙動不審ですみません」
イヴリンは目線を下に落とし、膝の上に固く結んだ自分の手を見つめる。
「謝らなくて良い。せっかくロスグラン領地に戻ってきたのだから、王都で頑張ってきたぶん、リラックスして欲しいだけだ」
イヴリンの頭をポンポンと撫でるオークリーだが、イヴリンに目線を合わせることはなかった。
そのまま二人は背を向けてベッドに入り、夜を明かす。王都に発つ前に過ごした夜とは対照的な、二人にとっては気持ちの距離を感じた夜になっていた。
◆
「どうしたイヴリン、顔色が悪いぞ?」
翌日、朝からダグラスや護衛を連れて、屋敷を訪ねてやってきたランスロットは、ランスロットを迎えたイヴリンの顔を覗き込むなりあっけらかんと言う。
「殿下…朝から元気ですね」
「なるべくイヴリンと侯爵の二人きりの時間を短くしたいからな、早く来た。
というか、イヴリンは朝が弱かったか? そんなことは今までもなかったよな? 侯爵と何かあったのか?」
イヴリンは、ぎくっと肩を揺らすが、すぐに平静を装い、にっこり笑った。
「それはもちろん、久しぶりの夫婦の再会ですから」
「ふうん…」
顎に手をやり、半目でイヴリンの様子を窺うランスロット。疑いの目にイヴリンは焦る。
「殿下、ようこそいらっしゃいました」
そこに、遅れてオークリーがランスロットに挨拶に登場する。
「粗末な屋敷ですが、殿下が滞在される部屋の準備は一応、整いましたので…ダグラス様、殿下が視察に行っている間にご確認と荷物の手配をお願いいたします」
ランスロットの後ろのダグラスにも目線を送ると、ダグラスは一礼する。
「侯爵、朝早くからすまないな」
すると、事務的な話をしている二人の話が終わるや否や、イヴリンはオークリーの腕を取って宣言する。
「殿下、私たち毎夜同じ部屋で過ごしますので、夜は邪魔しないでくださいねっ」
その言葉に固まるオークリー。
「オークリー様、手を出すつもりはないのであれば、一緒に寝ても…ご迷惑にはならないです…よね?」
ランスロットに聞こえないよう、オークリーの耳元に口を寄せ、手を隠しながら小声で伝える。
ランスロットを躱すために、迷惑かもしれない、という可能性を考えながら恐る恐る聞くイヴリンだったが、しかし、オークリーの思考は停止していた。




