40,対峙
「殿下、初めまして、オークリー・ロスグランでございます。この地にようこそいらっしゃいました」
すっと伸びた背筋を綺麗に曲げ、丁寧に挨拶をするオークリーは、最初から『ヴィンセント』の仮面は外している。王家に対して虚偽をすると罪になるということもあるが、ランスロットには通じないことは察していた。オークリーは、戦後すぐにこの領地の侯爵を得るやいなや領地に引きこもっていたが、節目ごとに王都に行くこともあった。しかし、ランスロットと個人的な交流があるわけではなかった。
「いや、イヴリンが楽しそうにロスグラン領の話をするから、一度来てみたいと思っていたんだ。事前に知らせず無礼を申し訳ないが、しばらく世話になる」
そう言ってソファから立ったオークリーは、オークリーに手を差し出す。
オークリーは一瞬 間を空けてから、手を取り握手を交わす。二人の後ろで執事のダグラスと護衛もオークリーに頭を下げる。
「侯爵様、ただいま戻りました」
遅れて立ち上がったイヴリンは、綺麗なカーテシーを取り、帰省の挨拶をする。理知的な笑みを浮かべるが、頬を紅潮させていて、嬉しさが隠し切れていない。
オークリーはイヴリンを見て、軽くうなづくと、目線をランスロットに戻す。
「この屋敷は客室の準備ができておりませんので、今日のところは街のホテルに宿泊の手配をいたしますので、そちらに泊まっていただけませんでしょうか?」
「今日だけ待てば、この屋敷に滞在できるのだな?」
ランスロットの抜け目ない追及に、にこやかな顔のまま、しばし言葉を探すオークリー。しきたりと社交辞令で言っただけで、さすがに王家をもてなす用意がある屋敷ではないと、ランスロットも分かっているはずだと思っていた。
そこに焦ったイヴリンが割って入る。
「殿下! 私と学友であるからこの古い屋敷に泊まっても良いとお考えくださったのかと思いますが、侯爵様と私はラブラブですので、屋敷にお泊めすることはできません! 王家にふさわしいか分かりませんが、この領地にも素敵な高級ホテルがありますので、どうぞそちらに!」
一気にまくしたてたイヴリンを、驚いたような表情で見つめるイヴリン以外の面々。
(…ん?)
周りの反応を見て、不思議な表情を浮かべるイヴリンだが、恥ずかしい発言だったと察し、顔を真っ赤にする。それを見てランスロットはまじまじとイヴリンを見る。
「いつも冷静なイヴリンにしては珍しい姿だな」
ランスロットは、ちらっと表情の変わらないオークリーを見る。
「…まあ、侯爵の顔色が変わらないのを見ると、割とここでは日常だったんだな。羨ましい」
「殿下!」
ランスロットから好意を寄せられている事をオークリーに知られたくないイヴリンは、慌ててランスロットの口を塞ごうと両手をランスロットの顔に向ける。
(…どちらが。…仲良くなって)
その様子を見て、今度はオークリーが二人の距離の近さに眉を寄せる。
「まあ、侯爵の様子を見るに、イヴリンが勝手に“ラブラブ”だと思っているようだし、明日からは世話になるから、準備よろしく。また明日の朝に来るよ」
そう言ってランスロットは引き下がり、ダグラスたちを連れて屋敷を出ていった。
オークリーとイヴリンは、並んで門前に立ってランスロットを見送る。
「はあ…」
ランスロットの乗った馬車が見えなくなると、オークリーはため息をつく。
それを聞いたイヴリンはびくっと肩を揺らし、オークリーを振り返ると、優しい眼差しがイヴリンを見ていた。




