39,三つ巴?
「遅かったな、イヴリン。待ちくたびれたぞ」
門の前で、ランスロットが、ランスロット付の執事であるダグラスと護衛の騎士を従え、立っていた。ダグラスはなんだか疲れた表情をしている。ランスロットはよくダグラスを巻いて単独でイヴリンに会いに行くこともあったが、さすがに今回の休暇には同行できたようだ。
「なんで殿下がここに!?」
「イヴリンを驚かせたくて」
「は!?」
「というのもあるが、長期休暇に、侯爵と二人きりにすると思うか? 俺もロスグラン邸で夏季休暇を過ごそうと思う。勉強すべきことも多い土地だと思うしな」
「……」
絶句するイヴリンを尻目に、門を開け、屋敷に向かっていくランスロット。
「おお、珍しい庭の作りをしているな」
などと呑気に庭を覗きこんでいる。
すると、騒がしくなった門の声を聞きつけて、屋敷からマリーが出てくる。
「奥様、予定通り到着に――って、え!?」
イヴリンの到着を出迎えるため屋敷から出てきたマリーは、すぐにイヴリンの隣にいるランスロットに気がつく。ロスグラン領地でランスロットを見ることはないものの、王家の紋章を付けた騎士の存在と、噂に聞く第三王子の特徴とが一致した。
「失礼しました、第三王子の…ランスロット殿下。殿下に…ご挨拶申し上げます…」
「そう畏まらなくて良い。事前に知らせず、こちらがすまなかった」
反射で低頭するマリーに、鷹揚に頷くランスロット。マリーは屋敷の扉を開けて、ランスロットを中に促す。イヴリンは、ジトッとした目でランスロットを見つつ、その後に追随する。
イヴリンは、屋敷に入る時にマリーにこそっと耳打ちする。
「マリーさん、すみません。私も予測しておりませんでして…。お仕事終わってましたら帰って大丈夫ですので」
「わ…分かりました。お茶を出すよう、キースに伝えておきますね。キースも奥様の帰りを心待ちにしていて、本日、厨房におりますので」
イヴリンは二人の気持ちにじ~んと心を温かくしながら、ランスロットを応接室に案内する。
(侯爵様のこと、どうしよう…。お茶を出したらキースさんにも帰ってもらって、ヴィンセントさんの正体を明かすしかないよね…さすがに王族に対しては虚偽罪になるし。もしくは、その前に殿下に帰ってもらうことは…)
応接室にイヴリンが入ると、ランスロットはソファにどっかり座り、隣をたたき、隣に座るように示す。
「いやいや、無理ですって。殿下、一応、私はこの屋敷の主の妻なんですよ!?」
むっとしたランスロットの表情に気づかない振りで、ランスロットの前に座るイヴリン。ダグラスと護衛は立ったままランスロットの後ろに控えている。
「殿下、今からせめて高級宿に泊まるってことは…」
「ないな。王族は領主のもてなしを受けるのが自然だぞ」
「おもてなしはもちろん致しますので。明日から私が領地を案内して…」
「まずは屋敷を案内してもらいたいな。イヴリンが使う部屋はどこだ?」
「……」
すると、一礼してキースが姿を現し、紅茶と簡単な軽食の準備をする。
イヴリンが両手を合わせ“ごめん”のポーズを取ると、キースに申し訳なさそうな表情を向け、目配せをする。キースは薄く笑顔をイヴリンに向けると退室していった。
「気に食わんな。なんだその気安い態度は」
キースが退出すると、不機嫌な表情でランスロットがイヴリンに文句を言う。
「屋敷に通いで来てくれている自慢の料理人です。いちいち目くじらを立てないでください」
イヴリンは呆れて反論する。
「キースの料理はおいしいですよ。王宮の料理人はどうか知りませんが」
そう言って、紙に包まれているサンドイッチを一つ取り分け、ランスロットの前に差し出す。
「イヴリンが領地で人気があるのは知っているから、ライバルが多いなと思っただけだ」
そう拗ねたように言って紅茶を飲み始めるランスロット。
「…で、侯爵は?」
ギクッとしてサンドイッチを自分の皿に置こうとした手を止めるイヴリン。
「し…少々お待ちください。殿下が急に来るので、私も準備がまだで、侯爵様に挨拶もしておりませんので」
そう言って立ち上がったイヴリンが扉のほうを振り向くと、ヴィンセント――ロスグラン侯爵がいた。




