38,待ちに待った日
「奥様、この贈り物はどちらに運びましょうか?」
イヴリンが自室で仕事の書類に筆を進めていると、サラがランスロットからの贈り物を運んできた。
それを見て苦笑いを浮かべるイヴリン。
(オークリー様も同じ気持ちだったのかな。そう考えると、申し訳なさがすごい…)
パーティーの一件から、ランスロットは、アカデミーでイヴリンと同じ講義を選択して常に行動を共にするようになった。今まで目立たないよう過ごしてきたイヴリンだったが、パーティーで目立ってしまったことから、平和なアカデミー生活は諦めていたが、ランスロットが傍にいることにより意外と周囲の視線は遠巻きで、好きな勉強を進めることができていた。依然、シーアがイヴリンによって不当な扱いに落とされてしまった、と反発する声はあるものの、ランスロットや生徒会が、毒殺未遂事件の真相を公表したことで、イヴリンへの同情やペティベリー家の過剰な対応・隠蔽に疑問を示す声が大きくなっていた。
しかし、ランスロットのイヴリンへの行動はアカデミー内だけに留まらず、時にはイヴリンの仕事場にも顔を出すようになり、更に休日は全てランスロットに押さえられるようになっていた。ランスロットが忙しい時はプレゼント攻撃。ことあるごとに好意を伝えられて、イヴリンは体の疲れとは別の疲れを感じていた。
「贈り物は断ってるんだけど、殿下と出かける時に身に着けるように、殿下のためのものだって言われるのよね…」
困っているように眉を下げつつ、口元は優しい笑みを浮かべるイヴリンを見て、サラは「奥様って意外に押しに弱いんですね」とつぶやく。
「サラ?」
「あ、いえ。それも夏季休暇までじゃないでしょうか? 奥様はロスグラン領地に休暇中は戻られますでしょう?」
「もちろん。そろそろ戻る準備も進めないとね」
心なしかウキウキとし始めたイヴリンに、サラは内心ほっとする。
(侯爵様、ひとまず まだ大丈夫そうです)
「殿下のおかげで貸し衣装事業は軌道に乗って、最近の流行りの情報を得るルートも確立できているから、もう任せても大丈夫そうだし、今は最新の農具や、ロスグラン領にない品種の苗とかを送る手配をしてるの。この前、殿下と一緒に農地の視察もできたし、殿下に今後研究施設も連れていってもらう約束してるのよ」
「……」
ランスロットと急速に近づいているイヴリンの様子に、焦りを募らせる元オークリーの部下であるサラは、早く夏季休暇が来ることを祈るのだった。
◆
「やった~! ついに皆に…オークリー様に会いに行けるわ!」
イヴリンの1年目前期試験は概ね高得点・高評価で終え、ついに夏季休暇に入った。イヴリンの優秀さや真面目さは講師や生徒たちにも周知され、今ではイヴリンのアカデミー内での悪評はほぼなくなっていた。
「サラ、準備の手伝いありがとう。おかげで、送りたいものの手配は済んだわ。サラもゆっくり休んでね」
サラに見送られ、白のシンプルなワンピースと鍔の広い日よけの帽子を被り、トランク一つを手に、屋敷を出るイヴリン。
「事業のこともあるとは思いますが、奥様も楽しんできてください」
そう言葉をかけるサラに頷き、手を振って馬車に乗り込もうとするイヴリンだったが、少し周囲を見回す。
ランスロットが休暇の前の最後に会いにくると勝手に思っていたイヴリンだったが、姿が見えず少し肩透かしを食らっていた。
(会いたいとかではないけど…。でも、王族だし、休暇中は在学中にできない業務で忙しいだろうし。それはそうだよね)
心のどこかに引っ掛かりを覚えつつ、馬車を走らせる。
馬車は、途中休憩を挟みつつ、順調にロスグラン領地を目指す。
丸一日以上かけ、領地に入ると、イヴリンは懐かしさと安堵感を覚え、力を抜く。
領内の様子を馬車の中から確認しつつ、ロスグラン邸の門前で馬車を降りた。
「えっ!?」
しかし、降りてすぐイヴリンは驚愕した。




