36,溺愛宣言
「私はやはり王都に戻ってくるべきではありませんでした」
1曲踊ったあと、表情の晴れないイヴリンを心配して、「休憩を取る」と言い、ランスロットはイヴリンを控室に連れていった。
二人は、豪奢なソファに隣り合わせで座っている。ランスロットが人払いをしたため、扉の外に警護の者がいるだけで、部屋は二人きりだ。
「何故だ?」
「私が戻ってこなかったら、シーアは伸び伸びと思うように過ごせたでしょう。邪魔をしないように地味にしていようとしましたが、やはり上手くいきませんでした。殿下には私をフォローしていただき本当に心強かったのですが、そもそもの元凶は私ではないかと…」
「あの者が意味不明な言動をしているのはイヴリンのせいではない」
「でも、私が戻ってこなかったら、そんな言動もなかったのかも…」
堂々巡りになることを予感し、ランスロットはため息をつく。
すると、ナイーヴになっていたイヴリンは、そのため息にびくっと肩を揺らす。
ランスロットは、膝に置かれたイヴリンの片手を取り、息がかかるくらいの距離に顔を寄せる。
「俺は、イヴリンが王都に戻ってきてくれて、嬉しかった。戻らなかったら、いつか自分でロスグラン領地まで迎えにいっていたかもしれない」
ランスロットの真剣な表情に、イヴリンは息を呑む。
「なんでそこまで私を…」
イヴリンの問いに答えず、そのまま顔を近づけようとするランスロット。
「ぶっ!?」
唇が重なろうとする寸前に、イヴリンのもう片方の手がランスロットの顔を押し返す。
「おい!?」
ランスロットは怒ってイヴリンのもう片方の手を取ろうとするが、すかさずイヴリンは体を捻って逃げる。
「だから、私は既婚者ですってば、殿下」
「既婚者でも逢引している者もいるだろう」
「…」
じとっとランスロットを睨むイヴリンを見て、観念したように息を吐き出すランスロット。
「幼い頃、共に学んだ期間があっただろう。その時からだ。
イヴリンは忘れていたが、“婚約破棄されたら俺の婚約者になる”と約束したんだぞ。そのために今まで色々動いていたのに、本人は忘れて、辺境のジジイと仲良くなっているし…」
「約束?」
言われて記憶を辿るイヴリン。
「…そういえば、そんなやりとりがあったようななかったような…」
「あったんだよ!」
たまらず怒り出すランスロットに、「すみません」と小さい声で誤るイヴリン。
(だから再会した後、睨んでいたり、態度が荒っぽかったのね)
「…まあ、拗ねている時間ももったいないと思って、すぐに開き直ってイヴリンに会いにいったが。
忘れていたことを悪いと思うなら、チャンスをくれないか」
ランスロットは真剣な顔に戻ると、握っていたイヴリンの手を再び握り直す。
「イヴリンが好きだ。お互い、政略結婚が当たり前の身分だからこそ、自分の力で相手を選びたい。俺の相手はイヴリンであって欲しい」
真っすぐと好意を伝えてくるランスロットから視線を離せないでいるイヴリン。
「今すぐ答えを出して欲しいわけではない。でも、王都に来なければ良かったなんて、言わないでくれ。イヴリンがアカデミーで学びたいことを学ぶまでの時間で良いから、一緒にいさせて欲しい。ロスグラン領に戻らないで欲しい」
ランスロットの願いにしばらく沈黙するイヴリン。一度約束を忘れている手前、不用意な返事が出来ずにいた。
やがて、根負けしたように、「…わかりました」と伝える。
すると、ニヤッと笑うランスロットを見て、少し(早まったかな)と思いつつ、いつものランスロットの表情に、何故かほっと安心感を覚えたイヴリンであった。




