35,パーティー当日(2)
主催である生徒会の挨拶で新入生歓迎パーティーは開催を告げられた。
1曲目はそれぞれのパートナーと踊る必要があるが、それ以降は別の相手と踊ったり、食事や交流を楽しめる流れである。今回は王族であるランスロットがいるため、ランスロットとイヴリンが最初に踊り、その後に他の生徒たちが続く流れになるはずだった。
イヴリンは、開始時間になっても現れないシーアの存在にひっかかりを覚えつつ、ランスロットのエスコートでフロアの中央に移動する。
その時だった。
「お待ちになって!」
曲を開始しようと合図の手を上げた生徒会を制止するように、会場入り口方面からシーアが叫ぶ。シーアはイヴリンと同じグリーンのドレスを、しかしイヴリンより華やかなレースや宝飾で飾られたドレスを身に纏っていた。
後ろには慌てた様子のリオが追随する。
「そこにいる私の元お姉様は、残念なことに、また過ちを犯しました」
しんと静まり返った場内に響くシーアの言葉に、イヴリンは目を見張る。
「どういうことかしら?」
本当に心当たりがない、という、きょとんとした表情で聞き返すイヴリン。
「正直に白状してください、お姉様。今日、殿下の横には私がいるはずでした」
シーアは、ツカツカとイヴリンのいるほうに足を進め、詰め寄り、言葉を続ける。
「殿下の今日の衣装も、デザインの情報は王家と婚約者である私がいるペティベリー家しか持っていない情報です。なのに情報を盗んで、揃いの衣装を仕立ててますね」
「まあ、それはウチの店で打合せして揃えたものですから…。シーアこそ、どこでその情報を? まさか父様に頼んで王家から…」
「そんなことしてません! 殿下の緑の瞳に合わせた衣装という事は決まっていたこと。お姉様こそ、自分の店なんて嘘までついて、罪を重ねようとしないでください」
「決まっていたこと…?」
シーアの発言にひっかかりを覚えたイヴリンは、眉間に皺を寄せる。「殿下の隣にはシーアがいたはず」「緑の衣装は決まっていたこと」と、何かを知っているような言い方に、一つの可能性を見出す。
「皆様もご存じのはずです。お姉様が既婚者の身でありながら殿下を誘惑し、婚約者であると虚偽の発言を広めているのを」
高らかに周囲に問うシーアに、観衆もざわついてくる。
「シーア! もうやめておけ」
見かねたリオが後ろからシーアの腕を取る。
「殿下が自ら選んでイヴリンを伴っている。その状況が分からないのか」
焦ったように制止するリオに、シーアは今まで見せたことがないような睨むような視線をリオに向け、低い声でつぶやく。
「邪魔しないで。シナリオを早く進めるために、お父様から王家に言ってもらったの。私は殿下の婚約者なの。あなたはもう必要ない」
苛烈なシーアの視線に、衝撃を受けて目を見張るリオは、そのまま動けなくなってしまう。
リオを振り切り、ランスロットの服を掴み、シーアは訴える。
「ランスロット様、なぜ会いに来てくださらないのですか? ずっと待っていたんですよ。お姉様に脅されているんですか? 昔のトラウマが…殿下がペティベリー家をよく思っていないのは、お姉様のせいで…」
ランスロットはシーアの言葉を待たず、服を掴んでいたシーアの手を叩き落とす。
「…なんなんだ、その思い込みは。何を言っているか分からんが、全てが無礼だ。
おい、生徒会。こいつを不敬罪で連れていけ。会場横に控えてる王室の騎士でも良い」
冷たい視線で睥睨され、シーアは固まってしまう。
そのまま待機していた騎士が、シーアを引きずるように会場外へ連れ出していった。
リオも、はっと意識を取り戻したように連れられるシーアに付き添い、会場を後にする。
不測の事態にざわめき始める会場に、パンッと注目を集めるように手を叩くランスロット。
「この際、ペティベリー家との関係が悪くなっても良いので言うが、イヴリンの以前の罪は、学園を退学になるほどの罪ではないということが分かっている。盛った毒も、薬にも使われる軽微なものだった。過度に生徒会や周囲が騒いだだけだ」
「いえ、罪は罪ですから…」
ランスロットが誤解を解こうとしてくれていることを察し、イヴリンは遠慮がちに訂正を入れる。
「それに、この衣装も、正当に俺がオーダーしてイヴリンの管轄する店で仕立てたものだ。あとで貸し出しもできるから気になる者はロスグラン邸に問い合わせるように」
「殿下…!」
イヴリンの事業の宣伝までしてもらって、恥ずかしさと申し訳なさからイヴリンは赤面する。
「さあ、パーティーを始めるぞ」
晴れやかにランスロットが宣言すると、音楽が鳴り始める。
イヴリンは小さくランスロットに、「ありがとうございます」と礼を伝える。イヴリンを守ってくれたのは紛れもないランスロットだ。イヴリンは、今の自分の立場に興味がなく、シーアに場所を追われてもかまわないと思っていたが、やはり謂れのない誹謗を浴び、ショックを受けていた。その心が救われた気がしていた。
ランスロットがイヴリンの手を取って踊り始めると、周囲は美しく一つになって舞う二人の様子に見惚れる。
しかし、イヴリンの表情は最後まで笑顔になることはなかった。




