33,密談
貸衣装店の商談用に使っている個室で二人きり、テーブルを挟んで顔を突き合わせているイヴリンとランスロット。
「ペティベリー公爵が王室に俺と妹との婚約を申請して顔合わせを打診してきた。公爵家の力を考えれば簡単に通ると思ったんだな。公爵家は選ぶ側だと。
しかし、俺は諸々の条件と引き換えに、自分の婚約者は自分で選ぶ約束を国王(父)としているから、当然申し出は受け入れていない。
少し考えれば、理由なく俺が今まで婚約者を持たなかったわけではないと分かるのに…」
「な、なるほど…」
シーアの予想外の行動に、ランスロットの説明を呑み込めないでいるイヴリン。
「であるのに、勝手に婚約者内定なんて噂を広めるとは…周囲を固めれば良いと思っているのか。王室の婚姻を、貴族の…学生の噂程度でどうにかなると思っているのか。
それとも、別の目的があるのか…」
「シーアは殿下のことが好きだったのでしょうか。私が公爵家にいた時は、そのような話を妹から聞いたことはなかったのですが」
「いや、ほぼ面識はない。入学後に何度か俺に話しかけようとしてきたり、俺の近くで不審な動きをしてたような気がするが…。仮にも王族に自分からずけずけと声をかけるなどというマナーを知らない振る舞いをする奴、不敬罪にしてないだけマシだと思って欲しいくらいだ」
(う~ん…。もしかして一目ぼれとかしたのかな…。原作は途中までしか読んでないけど、リオと良い感じだったと思ったんだけど。にしても、シーアってそんなに常識外れだったっけ…?)
「それは妹に代わって謝罪いたします。申し訳ございませんでした。
それにしても、妹は私の元婚約者のリオと隠れて逢引していたみたいですし、リオと婚約すると思っていたのですが…」
頭を下げるイヴリンは、呟くように疑問を口にする。
「既に縁を切っているのだから、イヴリンが誤る必要はない。まあ、そういう事で、アレは非常識な行動に出てはいるが、無視していれば良いこと。
…だから、パートナーを変えるなんて考えるな」
ランスロットのその言葉に、ぎくっと肩を揺らすイヴリン。
「…ばれておりましたか」
「イヴリンが考えていることなんてお見通しだ。
…やっと王都に戻って来たんだ。逃がさない」
語気を強めたランスロットに、イヴリンは、はっとしてランスロットの顔を見つめる。
「何度も言いますが、私は侯爵様の妻です。幼少期のよしみで、親しみを持っていただいているのは有難いのですが…」
毅然として告げるイヴリン。
「イヴリンが辺境の侯爵とここまで親交を深めたのは計算違いだったな。侯爵の手を借りずとも、イヴリンを王都に戻す手筈は整えていたのに」
「えっ…」
意外なランスロットの発言に驚くイヴリン。王都行きを決めたのはイヴリン自身の意思だったが、イヴリンを王都に戻そうとしていたということは初めて耳にした。
「もしかして殿下が私の罪を…」
「まあ、再婚約はすぐに決めろということではない。まだまだ今の俺を知って欲しいし。…最初はクールに見せて気を惹いてゆっくり落とそうと思っていたのに、やっぱりイヴリンが近くにいると、気になって体が動いてしまうんだ」
イヴリンの疑問をはぐらかすようにニカッと笑うランスロット。
「ひとまず、パーティーのパートナーは変えるなよ」
「…分かりました」
(実際、代わりのパートナーなんか見つかってなかったから助かるんだけど。殿下は何故か私に好意…を持ってくれてるんだよね。それを利用しているようで気が引ける…)
イヴリンは困ったように笑った。




