32,禁断症状
「はあ。疲れた…」
屋敷に戻ったイヴリンは、イヴリンを出迎えるサラにも気づかず、がっくりと頭を垂れる。
一日中、好奇の目に晒されて疲れが溜まっていた。講義以外の時間は気配を消し、イヴリンを探すランスロットやリオの気配を感じるとすぐさま速足で逃げる…。イヴリンは何度も途中で早退しようと思ったが、侯爵が与えてくれた学びの機会を自分から放棄することはできなかった。
「奥様、どうされました…?」
サラは、イヴリンのカバンを受け取ろうと手を伸ばす。
「…ああ、ごめんなさい。今日少しアカデミーで疲弊することがあって…」
イヴリンは「自分で持っていく」とサラの手を遠慮する。
「アカデミーですか? また殿下ですか?」
「う~ん…殿下といえば殿下なのだけど…」
どう答えるか考えあぐねるイヴリンに、サラは提案する。
「悩まれていることがあったら、侯爵様に相談するのはどうでしょうか? 近況をお手紙でご連絡したほうが侯爵様も安心されるでしょうし」
「そうね…。いや、でも自分で解決するわ。侯爵様に心配をおかけするのは本意ではないし。心配かけてごめんなさい、サラ。
アカデミーでの勉強の様子や事業についての報告もしたいし、お手紙はまた別で書くわ」
そう言って自室に向かうイヴリンの背を、何か言いたげにサラは見つめていた。
◆
(ああ~~~オークリー様に会いたい。)
イヴリンは考えを放棄するように自室のベッドにダイブする。
(侯爵様との手紙のやりとりだけが癒しだわ…)
完結で短い内容だが、領地の様子や屋敷の近況などの手紙を侯爵から定期的に受け取り、イヴリンも近況を報告する手紙のやりとりをしていた。イヴリンの王都でのささやかな癒しだ。夏季休暇の帰省予定は心の支え。
(現実逃避してもしょうがないわ。休暇に入る前の一番の試練ね…。
…追放前のパーティーは、どうせ追放されるしって思ってて欠席してたし、パートナーのことなんか考えてなかった。追放前のパーティーでシーアは…リオをパートナーにしてたよね、たぶん。
今回シーアが殿下をパートナーにするつもりだったら殿下は私を誘ってないし…でも婚約者に内定しているって…。訳が分からない。
まあ、どちらにしても殿下をパートナーにしたら面倒ってことは分かるわ。ひとまず断りを入れよう。でも噂に尾ひれがつくしアカデミーで殿下と会いたくないし…
そうだ)
◆
イヴリンはランスロットと共に訪れた貸衣装店へ向かった。
(殿下の衣装はオーダーメイドで発注してるし、衣装合わせでまた顔を合わせるはず。伝言を頼もう)
そう考えて店の扉を開ける。
「やっぱり来たか。アカデミーで避けられてるとしたら、ここしか連絡手段はないからな」
すると、待ち構えていたようにランスロットが立ちふさがった。奥に苦笑いを浮かべる店主の姿があった。
「殿下…!!」
青ざめたイヴリンはそのまま床に膝をつく。
「イヴリンの元妹は、なかなか とんでもないな」
言葉とは裏腹に涼し気な面持ちでそう言うと、膝をつくイヴリンの両脇に手を入れ、犬猫のように持ち上げた。




