31,新たな火種
「楽しかっただろう?」
「イヴリンには一緒にどこにでも行ける俺のような相手が良いと思う」
そんな冗談とも言えるような軽口を言って、ランスロットはイヴリンを屋敷に送り届けて帰っていった。
(追放されてからの王都はじっくり見てまわることもなかったから、疲れたけど、意外に楽しかったな。
殿下は強引なんだけど本当に嫌な事はしてこないし、掴みどころがなくて、何がしたいのかよく分からなかったけど…)
そんな感想を抱きながら、次の日、いつも通りアカデミーに行くと、イヴリンは妙な視線とひそひそとした声を感じた。一時限目の講義を受けていても、常に視線を感じる。
(何…? 誰も何も言ってこないけど、生徒たちに見られている感じがする…目立たないようにしているのに…)
一時限目が終わると、より目立たないように気配を消しつつ、次の講義が始まる教室へと移動するため教室を出ようとするイヴリン。
「ちょっと…あなた、どういうつもりですの?」
しかし、行く手を阻むようにイヴリンの前に一人の女性徒が立ちはだかってきた。教室に残る生徒たちが一斉にその人物とイヴリンとを見る。
(この子は確か…シーアの取り巻きの令嬢の一人だったような? 名前は忘れたけど…)
「聞いてるの!?」
「あ…はい。なんでしょうか。次の講義が始まるので手短にお願いしたいのですが」
イヴリンは表情を消して、『氷のようだ』と評されたこともある過去のイヴリンの表情を無意識に作る。
「…っ!」
その顔に息を呑んだ令嬢だが、本来の目的を思い出して告げる。
「あなた、既婚者の身でランスロット王子に色目を使っているらしいですわね。
昨日、街中で殿下を連れまわしているあなたを目撃した人がいますわ。」
「…出かけたのは事実ですが、殿下に色目を使った覚えはありません。昨日も半分仕事で、半分は殿下が昔のよしみで、田舎から出てきた私に町を案内してくださっただけです」
イヴリンは淡々と事実だけを述べる。
(…ああ、だから視線を感じたのね。やっぱり殿下に付き合うんじゃなかったかも…)
朝からの違和感の理由を察するイヴリン。
「殿下があなたのような犯罪者を気にするわけがないでしょう。
そもそも、殿下の婚約者にはシーア様が内定しているのに、畏れ多くも自分が婚約者だと吹聴しているのも知っているのですよ!」
令嬢のその言葉に、教室が一斉にざわつく。
「……」
(あら、シーアが内定していたのね。…なのにこの前、殿下は「私が婚約者」とか訳の分からないことを言ってたの…? でも殿下ってそんな無責任な発言する?)
何かモヤモヤするものを抱えながら、イヴリンは思案する。
「とにかくっ! 今後殿下とシーア様の前に姿を現さないでくださいませ…!」
口答えを予想していた令嬢だったが、何も発言しないイヴリンから不気味な余裕を感じ、言いたいことだけ言って去っていった。
もともと令嬢の目的は『イヴリンの悪評』と『ランスロットの婚約者にシーアが内定している』という噂を広めることだ。
(ええ…。パーティーのパートナーどうしよう…)
一方のイヴリンは内心、困り果てていた。




