29,ランスロット襲来
「…これくらいで良いかな?」
休日、イヴリンは王都のロスグラン邸の自室で一人招待状の返事をしたためていた。
服飾の事業のリサ―チや営業をするためには、中流貴族以下のサロンや社交界のパーティーに参加する必要がある。そのため、地道に侯爵の伝手や、ソフィアの王都の事業での顧客にいた貴族らとコンタクトをとっていた。
(学校では大人しくしてはいるけど、商家から成り上がった貴族の子や、昔、いじわる姉だった時代の私にも平等に接してくれた元同級生と地道に接触して、顔見知りになれたのは大きい)
更にイヴリンは、上位貴族が履修しない経理や経済の講義も積極的に履修していたことが、中流貴族の子女に共感され、水面下では親しみを持たれ、着々と人脈を広げていた。
「知り合いのパーティーには参加するとして…
あとは…生徒会主催の新入生歓迎のパーティーね…」
アカデミー入学のタイミングは春と秋にあるが、両方の新入生の入学を歓迎するパーティーは毎年春過ぎ、初夏の始め頃に大規模に行われる。卒業パーティーと同じく重要視されており、基本的には在校生含め全員必修参加で、単位にも影響する。社交界でのマナーを披露または身に着ける意図がある。
イヴリンが協力しているドレス関係の新規事業の宣伝やリサーチをするには良い機会だが、シーアやリオなど、面倒な人たちの参加も予想されるため、やはり参加が躊躇われる。
(…でも侯爵の援助でアカデミーに通えてるのに、必修科目を落とすのは…。
商売の機会は見送って、地味に目立たない方向で参加だけするのが良いかな…)
そんなことを考えていると、イヴリンの自室のドアを叩く音がする。
「…どうぞ?」
すると、困惑した顔のサラが現れる。
「奥様…その…」
「ここがイヴリンの自室か。狭いな」
「!?」
サラの後ろから護衛を連れたランスロットが現れた。王族にしては装飾の少ないラフなシャツとパンツ姿だが、スタイルの良さが際立つ。
「殿下!? なんでこんなところに」
「イヴリンの王都の屋敷が見たくて…というのは口実で、逢引に誘いに、な」
「!? ですから、以前申し上げた通り、私は既に結婚している身です」
「既婚でも、他に相手を作っている貴族は多いぞ」
イヴリンの抵抗を歯牙にもかけない素振りで、飄々と受け応えるランスロット。
「誰が王族を浮気相手に選びますか!? それに私は、侯爵を好いております!」
イヴリンはムキになって言い返す。
その言葉にピタリと表情を消すランスロット。
「侯爵も同じ気持ちなのか?」
「――……!」
図星を突かれ、固まるイヴリン。
ランスロットはニカッと爽やかに笑ってイヴリンの手を取る。
「出かけるくらい良いだろう。行こう!」
そのまま屋敷の外に連れ出し、止めておいた馬車にイヴリンをエスコートする。
(『もう良い』って興味がないように言ったり、婚約者にすると言ったり、突然連れ出したり…なんなの…もう!)
自分のペースに持ち込めず、イヴリンはただただ翻弄されるのだった。




