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16,イヴリンの決断

その後、イヴリンは髪の毛を一つ結びに束ね、軽装になると、庭に出た。

肥料を撒いたり、草むしりしたり、庭仕事に没頭する。

ロスグラン邸に来た頃は、背丈ほどの雑草が生い茂っていた庭も、今や綺麗に整備され、季節の木々や花が植えられている。暖かい季節の到来を待つばかり、といった状況だ。ちゃっかり作った畑も畝が綺麗に整えられ、控えめに積もっていた雪も解け、植えられていた種が芽吹いているものもある。

(庭仕事は無心になれるから良いわ。…うん、まだ庭の草木も成長途中だし、農家の皆さんと試している品種や作付けの改良は春に向けてこれからってところだし…。あ…でも、王都のほうが野菜の品種が多いんだよね…苗をロスグラン領に持ってこられないかな。

あ、あと、アカデミーの歴史の先生からロスグラン領の歴史の本、貸してもらいたいなあ。侯爵様の書庫には古いものはなかったし…まだ知らないことが多くて…)

イヴリンは思考を巡らせていたが、ふと思い立って、いつも庭作業をしながら見上げていた侯爵の自室のある窓を見上げる。

すると、カーテンの隙間から庭を見下ろしている目と目が合う。

その瞳から、温かなものを感じ取るイヴリン。

(ヴィンセントさんだ…。執務室にいるってことは、今日は侯爵様との仕事なのかな。

……もし私が王都に行くことになったら、ヴィンセントさんとも会えなくなるんだよね…)

イヴリンは自分がヴィンセントに対し、特別な好意を抱いていることを自覚していた。

初めてこの世界で自分を受け入れ、そして導いてくれた人だ。

しかし、侯爵の結婚相手という自分の身分と、実はこっそりマリーに探りを入れた時に知ってしまった、「ヴィンセントには妻がいるという噂が過去にあった」という情報に身動きが取れなくなっていた。


(これ以上好きになる前に、距離を取ったほうが良いのかもしれない)


しばらく見つめ合っていた二人だったが、不意にイヴリンはにっこり微笑みを向ける。

(傍に居れなくても、ヴィンセントさんのために、この領地を良くしたい。

そうだよ。私の知っている原作のシナリオ分はキッチリ役割をこなしたんだもの。本筋に影響しない程度に、やりたいことをやらせてもらおう)

イヴリンはそう決意し、ヴィンセントから視線を外し、再び庭仕事に戻った。

「王都に戻らせていただきたいと思います」

思い立ったら吉日、その日の夜に、今度はイヴリンがヴィンセントを応接室に呼び出し、真っすぐな瞳で意志を告げる。

「そうですか」

ヴィンセントは予想していたように頷く。

「ただ、王都に未練があるわけではなく、ロスグラン侯爵や領地のためになることがしたいからです。…学びたいことがあったら、それは…ええと…伝手を辿って家庭教師の先生に師事します。基本的には事業のために期間限定で行って来ようと思います」

「…いえ、奥様、それでは中途半端になってしまいます。せっかくなので奥様が学びたいことを全部学んできて欲しいのです。…ですから、アカデミーに再入学しましょう」


「えっ!?」

予想外のヴィンセントの提案に、まぬけな声が出てしまうイヴリン。

「未遂とはいえ、罪人として退学にもなってますし、公爵家を追い出された身ですので、さすがにそれは難しいかと…」

慌てて不可能であることを説明する。

「ですから、イヴリン・ロスグランとして再入学されれば良いでしょう」


「へっ!?」

再びまぬけな声が漏れるイヴリン。

「ロスグラン侯爵家の者として入学すれば、それは罪人であるイヴリン・ペティベリーとは別人という扱いにできると思います。…王の許可ももらいましょう」

大胆な提案に、イヴリンは慌てる。

「…ヴィンセントさん!? 勝手にヴィンセントさんが決めては…侯爵様はどうおっしゃるか…」

「大丈夫です。私がロスグラン侯爵ですから。あと、王には貸しがあるので、そのくらい容易たやすい事です」


「はっ!?」

この日三度目のまぬけな声が、イヴリンから発せられた。

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