15,元公爵令嬢の醜聞の真実
王都に戻りたいかどうかをヴィンセントに追及された次の日。
イヴリンがキースと共にキッチンで朝食の準備をしていると、そこにヴィンセントが現れた。
「おはようございます。奥様、今少し宜しいでしょうか?」
無表情でイヴリンを誘い出す。
「…はい」
(まだ誤解がありそうで、気が進まないんだけど…)
イヴリンは観念したようにヴィンセントに応じる。状況を呑み込めないキースに、イヴリンは「気にせず支度しててください~」と言葉を残してヴィンセントに着いてゆく。
応接室で二人きり。ソファに向い合せに座ると、しばらく沈黙の時間が続いた。
(…気まずい…)
イヴリンが目線を泳がせ、重い空気に耐えかねていると、ヴィンセントが口火を切った。
「…勝手ながら申し訳ないのですが、オーネストの伝手を使って、奥様の王都でのことを調べさせていただいておりました」
「!!」
はっとヴィンセントに目を向けるイヴリン。
「ペティベリー家やアカデミー周辺の噂については早期に存じておりましたが、奥様の人となりと噂とがあまり結びつかなかったもので」
ヴィンセントの言葉を受けて、イヴリンはバツの悪そうな表情になる。
(しまった…こっちに来てから、楽しすぎて、イヴリンのキャラを忘れて素で過ごしちゃったのが裏目に…。でももうシナリオの義務は果たしたし、自分として生きたかったし…)
ヴィンセントの疑問はもっともで、イヴリンは深く考えていなかったことを反省するものの、後悔はなかった。
「当初調べた内容ですと、王都での噂に近い情報しか得られず、オーネストに依頼して、もう少し広範囲での情報を調べてもらいまして。奥様、王都では身分を隠して市井に下りていらっしゃいましたね?」
「…はい」
悪い事をして叱られているように身を縮こませ、俯くイヴリン。
幼い頃から、そして成長してからは、より厳格に過ごさなければならなかった反動で、息抜きで屋敷を抜け出していた。誰にも知られずに行動できていた、とイヴリンは思っていた。
「別に悪いことではありません。奥様が身を隠さなければならない、お屋敷とで言動を変えなければならない何かがあったのでしょう。ただ、妹のシーア様の毒殺未遂については特に信じられず、こちらも詳細を調べさせていただきました」
ヴィンセントのその言葉に、イヴリンは俯いていた顔を上げる。
「あの場では詳細に調べられなかったみたいですが、その後の生徒会や公的機関の検分で、シーア様のお食事に含まれていた毒の成分は、治療薬にも使われる生薬のようなもので、大量に摂取しなければ人体に多大な影響を与えるものではなかったみたいですね。含まれていたものも、食事の味は変わってしまうものの、実害が出ないくらいの量でした。…ただ、この情報はおそらく公爵家からの圧力があって秘められた情報となっているようです。…私は、とあるルートで入手できましたが」
「……」
自分の知らないところで、真実が暴かれていたことを知り、言葉を無くすイヴリン。
「奥様、これは推測ですが、奥様は奥様の意志で王都を追放されたように思います」
再び顔を伏せてしまったイヴリンに、ヴィンセントはため息をひとつ落とす。そして、向かい側のソファからそっと立ち上がり、イヴリンの隣に座る。
固く握られたイヴリンの両手を取ると、ヴィンセントは自身の両手で包み込む。
「奥様が王都が嫌になって意図してこちらにいらっしゃったなら、それはそれで良いのです。でも、何か事情があって王都を出なければならなかった、ということなら、戻ってやりたいことをして欲しいのです」
イヴリンは目を潤ませながらヴィンセントを見つめる。ヴィンセントは包んでいた手を離して、再び立ち上がる。
「…しっかりお考えになってください」
そう言い残してヴィンセントは応接室を出ていった。
(…心配させて申し訳ないな。そこまで気にしてくれていたなんて…)
イヴリンは力のない笑みを浮かべた。




