12,シーア・ペティベリー(後編・原作小説の展開)
後日、シーアは『青薔薇はお姉さまが捨ててしまった』と泣きながらリオに告げた。その事についてリオの追求を受けたイヴリンだったが、一瞬、ハッとした表情を見せただけで、一言、『知らない』と言うだけだった。
イヴリンは、この一件から一層口を閉ざし、人を寄せ付けないようになっていった。シーアは、イヴリンは人間関係を面倒に感じたのか、本来の性格に戻ったのだと解釈した。
そしてその日から、リオとイヴリンの関係も、シナリオ通り冷えていった。
(…やっとイヴリンは、どうあがいても『私』…シーアに敵わないと自覚したようね。無理して愛想よくしなんかしてなくて良かったのよ)
この時シーアは、原作のように自分を主人公にする事しか頭になかった。
シーアは、よりシナリオ通りになるように、リオだけではなく、父親と屋敷の使用人や、社交界で出会う他の貴族にもイヴリンの悪評を少しずつ流していった。それに呼応するように、成長するにつれ、イヴリンは頑なさを増してゆき、父親が人脈を作るように強いても、社交界にも顔を出さず、貴族の中でも、陰湿で偏屈な令嬢だという噂が広がっていった。当初は、長男が産まれなかった場合の保険として、跡取りとしての教育をイヴリンに施そうとしていた父親も、後妻に長男が誕生してからは、イヴリンを放置するようにもなっていった。
それでもシーアは油断せず、根回しは徹底して行い、アカデミーに入学したあとも、生徒たちの間に噂を流し続けた。イヴリンも、引き続き人を寄せ付けない態度を変えなかったので、アカデミーでもイヴリンを孤立させることに成功していた。
そして、悪役令嬢であるイヴリンが断罪される、毒殺未遂事件が訪れる。
イヴリンの誕生パーティーで、シーアとリオが秘密の逢引をしていたところをイヴリンが見つけることが、事件のトリガーとなる。
確実にイヴリンを刺激するために、パーティー当日は念のためシーアのほうからリオをパーティー会場の外に誘い出し、色仕掛けをした。しっかり、イヴリンが後を追ってくる様子を確認して。
そして事件が起こる予定のその日、リオにさりげなくイヴリンの動向を注視させるように仕向け、生徒会に万が一の時の根回しをさせる。
シーアは毒入りの食事を摂るふりをして、早々に不調を訴え、食事を調べさせ、証拠の毒が入った小瓶の場所をリオに教え、現行犯でイヴリンを告発した。
その後は、父親に事前に『最近、姉が怖い。何かこそこそ動いている。もしもの事を考えておいたほうが良い』と吹き込んでおいたおかげもあり、手早くイヴリンの婚約破棄と、辺境へ嫁ぐ手配が進み、原作…よりも順調に素早く、事実上の王都からの追放が完了した。
(ごめんね、お姉さま。でもお姉さまが途中で、シナリオ通りに動いてくれなかったから、念のため時間をかけて仕込むしかなかったの。仕方なかったの…)
シーアは可愛らしい顔に、薄ら怖い笑みを浮かべる。
イヴリンはこれから、小説通りだと、辺境の地にある偏屈な侯爵に屋敷を追い出される。そして持参金も使い果たし、勉強しか能力がなく、父親にも見捨てられているため帰る家もなく、娼館に身を落とすのだ。それ以上のことは、シーアが前世で読んだ中では描かれていなかった。
(せめて病気にかからず、良い相手に買ってもらえることを祈ります…)
シーアは、姉が追放され向かっていった方角に視線を向けて清々しく笑った。
◆
その後は概ねシナリオ通りに、アカデミー在学中に起こる、学園内外でのイベントをこなしていった。イヴリンの追放をきっかけに発生する出来事だ。
まずはリオからの婚約の申し込みを保留し、もう一つの三大公爵家・ラチェット家の息子や、皇室騎士団の騎士――シーアの恋愛対象相手たちと出会っていった。そして春になると、次は、一つ年下の第三王子、ランスロット・ヴェスターとの出会いがある、というのが原作の流れだった。
シーアは、このランスロット王子が一番の推しで、出会いを楽しみにしていた。仲良くなると溺愛執着系になる、俺様王子だ。ランスロットは幼少期にイヴリンと同じ家庭教師に教えられていた事があったと、のちのちの過去回想で明かされ、その時の傲慢なイヴリンの態度から、ペティベリー家へ良い感情を抱いていなかった。
そのため、最初はシーアにも壁を作っており、冷たい対応だった。だが、次第にシーアの素直な素顔に触れ、警戒を解いてゆく。心を開くようになったランスロット王子は、シーアのアドバイスもあり、立場上伏せていた真の実力もアカデミーで示し始め、生き生きと生活できるようになる。そしてシーアに対する執着心を見せつつ溺愛するようになるのだ。シーアは、ランスロット王子が溺愛時に見せる、番犬のような、犬系男子のような一面が大好きだった。
(本当に楽しみだわ。「公爵令嬢の恋愛結婚」はまだ完結していなかったから、シーアが誰と結ばれるかは分からないけど、『私』はランスロット王子と結婚して欲しかった。しかも、ランスロット王子は途中からの登場なのに、屈指の読者人気を誇っていたから、最終的にシーアと結ばれる可能性が高いわ)
まだ春までは時間があるにも関わらず、シーアの頭の中は、今後の展開へ期待感でいっぱいになっていた。思い通りに原作と同じように展開してゆくと信じて疑っていなかった。




