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ゴトーさんの希望

「なにも難しいことではないよ」


 ゴトーさんからの提案は、二つだった。まず村民にしっかりと詫びを入れてほしいということ。


 これはそもそも、ジョバンニさんが訪ねてきても村が開けなかったので実現しなかっただけなので、そんなに難しいことではない。


 もう一つは、現国王は、愛嬌はあるが政治家としては幼いので、元国王で父親として責任もって補佐をして、独り立ちできるまで育てる。国民が国王として慕えるように約束すること。


 いや、難しいことだよ! というツッコミはできない。というか、商人として人として俺の未熟さも言われているような気がしてくる。


「……17歳の小童が間を取り持つ案件じゃないですよね?」


 国を、とか言われると腰が引ける。


「何を甘えたことを言ってるんだ。タナカ、お前は40歳+17歳だろ? 国を動かすくらい考えんでどうする?」


 ゴトーさんのいうこともごもっともだけど、前の世界の俺は部下すらいない存在だったんだけど……って説明しても理解は難しいだろうし、やるしかないか。


「がんばり……ます」


「カミッロは断らんよ。奴も望んでいることだろうし、タナカが気張ることはないよ。あくまで仲介役、きっかけというのがお前の担当って気持ちでやってくれ」


 俺の登場が、たまたまなんだろうけど、これがきっかけとして良くなるなら、それで良いんだけど……歴史を変えてしまっている気がして、大丈夫なのだろうか。


「そういえば、少し聞きたかったのですが――」


 歴史を変えてしまって良いのか、という疑問で、前から思っていたことをゴトーさんに尋ねてみた。


「――ゴトーさんはここまで生きてこられて、元の世界に戻ろうとしたことってなかったのですか?」


 元の世界、日本に戻りたい、そう考えるときがあって当たり前だと思う。17年でさえ思わなかったことはない。250年生きていると、チャレンジしたこともあるかもしれない。


 俺からの問いかけにゴトーさんはためらった。だが、同じ状況だから俺が考えなくもないというのは理解してくれたので、自分の体験を教えてくれた。


「……もちろん、戻りたい。そう考えたこともある。けど、それはこっちに来て記憶を取り戻してきたときに考えた位で、生きていくことに必死だった。そうこうしている間に家族を持ち、村を作り、生活の基盤が作られてきた。そんな時、転生してきた状況と同じように落ちて、命を失っても戻っても、どちらにしてもこの世界に残されたものはどうなるのか、そんなことを考えると、ここで生きるというのが俺の結論になった」


 色々と葛藤があったようだった。帰りたい気持ちは持っていたんだろう。しかし、責任を考えるとそれも許されなかったのか……。俺はどうだろうか。道頓堀のような汚い川に飛び込めばよいのか。たぶんそんな単純なことじゃないだろう。この世界で会った人のことを考えると、ここで生きていくというのをちゃんと考えたことが無かったかもしれない。


 今回、俺の登場で前の戦争のシコリが消え、グレンツェの人たちの技術がまた世に出て行くことになるだろう。


 俺に責任は無いだろうが、変えてしまっても良いのかどうかというのは、ここで生きていくと決めれば考えなくても良いことなのだろう。


「俺はまだ、前の世界に未練はあります。ありますが、この世界にも魅力があります。そしてすでに生きているのはここだろうと……」


 話はまとまらない、それはゴトーさんは察してくれている。「考えるのはまだ先でも良いんじゃないかな」と肩を叩いてくれる。


「そうですね、今はやることがあるので、それに注力します」


 とにかく今は、タルキさんに挨拶に行って包丁のサンプルをお願いしに行き、そのあとジョバンニさんに会いに行って、要望を伝えて話をまとめることを考えよう。


「なるようになるよ、タナカも250年生きたらな」


 明るくそう言ってくれるが、俺はその孤独に耐えられるかどうか、自信がない。

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