反省と
ゴトーさんの屋敷で、前に泊めてもらっていた部屋の板の間の上で目が覚めた。
「痛っ……」
安眠ではなく、気を失って、起きるだけの体力と意識が回復したので、自動的に板の間の痛さで起きた、そんな感じなので、全快からは程遠い。
体を起こすと、俺の様子を見ていた女中さんだろうか一瞥与え、奥の部屋に去っていった。「ちょ……」と、お礼やゴトーさんを呼んできて、と伝えようと思ったが、その姿は見えない。
体を起こしたところ、荷物もちゃんと一緒に持ってきてくれている。一度交流を持ってくれたということもあり、敵意は無い様子はありがたい。
グルっと見渡したところ、板の間に放り投げられた感じなのだろうか。布団もない……いや、良いんだけどね。ありがたいんだけどね。
「おう、起きたのか?」
隣で準備していたのだろうか、女中さんが去ってからすぐにゴトーさんがやってきた。
「あ、すみません、いや、ありがとうございます」
ゴトーさんや村の人を不快にした詫びと、運んでもらったお礼と、あとは包丁と醤油に関しても伝えなければならなくて、いろいろ焦って、詫びと礼をつたえた。
「混乱しなくても良いから。話、聞くよ」
ゴトーさんは前と同じように、俺の正面に腰を下ろした。
「では、まず……ご不快にしてしまったことを詫びさせてください」
俺は、言い訳からになってしまったことを断りつつ、ジョバンニさんを元国王と知らずに連れてきてしまったことを詫びた。
「門のところでは、あれは俺も大人げなかったと思う。すまん。お前が一緒に来ていたとはいえ、事情を先に伝えていたから、知らなかったと思うべきだった。せめてタナカだけでも村に入れるべきだったのではないかと、反省した」
この村と前の戦争の事情は聞いていたし、辛かった思いも理解していた。ジョバンニさんが元国王と知ってても、連れて行くのに、このタイミングではないことくらいはわかっていた。
俺が再び訪れて数日たって、ゴトーさんは考えて反省をしたということだった。
「俺こそ、ジョバンニさんについて、もっと知ってから連れてくるべきでした。商人として、もっと相手を知ってから、としたたかな部分が欠如してたので、俺の原因です。ゴトーさんを嫌な気分にさせてしまいました」
そう、商人ならもっと相手を疑うことを覚えたほうが良い。俺はまだまだ足りない。
「そうだな、50年以上人生を経験しているわりに、タナカは脇が甘い」
「ごもっともです」
ゴトーさんの言い方は叱責するものではなく、諭す物言いだった。このあたりは、250年生きている余裕なのだろうか、すでに怒りの部分は収まっているようだった。
「グレンツェの村民と取引するのが難しいって言われた、ってタナカが言ってたのは、そのジョバンニってことだったが、カミッロだったとわかると、納得だな」
「そうですね、そのあたりからも俺はもっと相手をどういう人物だったか探るべきでした」
「歳を取ると、何かしら利益がないと優しくなれたりしないからな」
「肝に銘じておきます……だとすると、ゴトーさんはどうして俺にやさしくしてくれるのですか?」
「同郷のよしみってのが一番だな。あとは、俺の知らないその後の日本を教えてもらえたとか……あと、下心的には、グレンツェの若い者たちに、そろそろ外の世界と関係を持たせる、そのきっかけにできるんじゃないかと。そういう目論見ができた」
「それは、俺が元国王とつながっているという部分ですか?」
「……そうだな」
ジョバンニことビンデバルト元国王カミッロ=ビオッティが行動していること、戦争を悔いて、戦後行脚して個別に訪問もしていたり、遺体の身元を検証して丁重に埋葬したり、報告したり。また開戦の原因が自らの落ち度だったと自認していることを、ゴトーさんは理解している。
「申し訳ないが、タナカを使わせてもらえたらと思っている」
村の長であるということもあり、自らの歩み寄りだったり、国からの提案というのは受け入れるのが難しかったようだ。
「俺が橋渡し役になるのであれば、喜んでさせていただきます」
平和になって、グレンツェの人たちがより良い生活だったり、工房の人たちの技術が国中に広まっていくのは嬉しい。2週間ほどだが、村で生活をさせてもらったことで、村民の素直な優しい性格をいただいていることもある。
「ありがとう」
ゴトーさんは膝をそろえ、手をつき、俺に深々と頭を下げている。本当にそういう願いを持っていたことが伝わってくる。
「ゴトーさん、やめてください。結果的にこうなってますが、そもそもは俺が勝手に連れてきたことが良くなかったので……だからそういうのはやめましょうよ」
「そうか……わかった」
「この流れで申し訳ないのですが、包丁と醤油についてですが……」
このままだと、俺の方の提案もできないと思い、話題を変えた。
「あぁ、そうだったな、そもそもそれでタナカは帰ってきたんだったな」
これはすんなりと話が進んだ。包丁に関して詳しくは、工房組合の組合長・タルキさんとの話になるが、当初伝えていたことと変わりがないので問題なさそうだ。
醤油は、今のところゴトーさんの趣味の範疇なので、蕎麦屋として商売をしていくときにどうやって増産するかというのは、また別途考えてもらうことにしよう。
俺の方の要件はあっさり片付きそうなので、肩の荷が下り安心した。だとすると、村と国に関しての話に戻る。
「ゴトーさんは、ジョバンニさんにどうしてほしいとか、希望があるんでしょうか?」
「あぁ、ある」
戦後、20年、どうしたらよいか考えていたのだろうか、考えることもなく確実に希望はあるようだった。




