カミッロという
動かないジョバンニさんを説得して動かし、先日まで泊まっていた宿屋に戻ってきた。
現状はどうなっているのやら、なにがなにやら、わからない。ただ、ジョバンニさん聞かなきゃならない。
「入りますよ」
ノックをして、反応がない。たぶんまだしょげているのだろう。俺は反応が無いけど、ジョバンニさんの取った部屋へ入った。
「……やっぱり」
ベッドに腰を掛け、うな垂れている。神々しかったあの筋肉すらツヤがなくくすんでしまっているようだ。
俺はテーブルの下に収まっている丸椅子を引き出して座った。
「ねぇ、ジョバンニさん、ワシのせいだって言うんだから、原因分かってるんですよね?」
そう伝えると、深くため息をされてしまうが、さっき自ら詫びてきたので、原因は俺ではないのはわかっている。ため息をされてもなぁ。
「ゴトーさんから聞いた、戦争中の差別的扱いをしたのだったら、俺はジョバンニさんを軽蔑します」
欧米人……だけとは限らなく、日本でも地域が違えばなのだが、文化など自分たち大多数と違うというだけで、差別されることがある。
もしくは少数派でも身分という物のせいで、差別をしても良いと勘違いしてる者もいる。
俺やエルフリーデへの態度を見ると、ジョバンニさんはそういう差別をするようにも思えないのだが、戦争になると人は変わってしまうのだろうか。
だが、その嫌な想像とは少し異なっていた。
「俺が直接差別をしたわけではない」
「ということは、知っていて見逃していたのであれば、それは同罪ですよ?」
「そういうことではない……グレンツェの人たちが、虐げられ、前線に送り込まれたというのは、戦争が終わった後に聞かされたんだ」
肩を落とし、力なさげに言葉を吐き出している。普通の老人が語るように。寂しさがある。
「知ってから、すぐに村へ行った。けど、もう扉は開けてくれなかった。弁解すらできなかったんだ」
旧知の仲とはいえ、排外的な行動をした人物たちの代わりにジョバンニさんが謝るのも筋が違う気がするのだが……なんだろう、この違和感は。
「だから、今回、タナカを使って機会が訪れないかと……こんなにお前とゴトーさんがトントン拍子に進むと思ってなくて、勇み足を踏んでしまった。すまんな、お前をダシにしてしまった感じで」
「謝ることができる大人……という言い方は失礼かもしれませんが、歳をとるにつれ、難しいことだと思います。でもこんな若輩者の俺にも頭を下げることができるのは尊敬します」
こう、素直に詫びられてしまったら、俺も元々他国の人間だし、情報を教えてくれたのはジョバンニさんだし、文句は言えない。でも何か引っかかる。
「でも……どうして、ジョバンニさんがゴトーさんや村に謝りに行かなければならないのですか?」
戦争なんて、一個人が始めるものではないだろう。隣接する領土があったとしても、小競り合いだろうし。それが発展しても戦争にはなかなかならない。
先の戦争も、元々戦争になれていなかったオイレンブルクとビンデバルトだったらしいので、始めようと思って仕掛けたというわけではなさそうだったし。
……ん? 一個人は始められないけど、始められる一個人もいる、かもしれない。……まさかだけど。
「まさかですけど、ジョバンニさんって…………偽名だったりしますか?」
ゴトーさんに伝えたときに、「よくある名前」って言われていたのを思い出した。
「……そうだ」
ジョバンニさんはあっさり嘘だと認めた。
「せっかくタナカが作った、ゴトーさんやグレンツェの人たちとの繋がりを壊してしまった。こんなくだらない嘘をついてても、意味がない」
隠しても仕方がないと思ったのだろうか、ジョバンニさんは顔を上げて、俺の方を向き、目を合わせた。
「ワシは、ビンデバルト、先の国王、カミッロ=ビオッティだ」
まさかぁ~! 万に一つくらいで可能性は考えなくも無かったけど、せめて司令官とかそのレベルと思っていた。
体の鍛え方からして、軍関係だと思っていた。まさか、前の国王とは……。
俺は、目を瞑り、天を仰いだ。心の中で、ここまでの間、なにか失礼は無かっただろうか、打ち首されないだろうか。など巡らせたが、おそらく、たぶん、大丈夫と思われる。
そして、焦ってると悟られないように、冷静に、今までと同じような感じで話をしなければ。
しかし、俺って、オイレンブルクの現国王とその王女、ビンデバルトの前国王と知り合ってるって……かなりすごいのでは!? いや、でも、これは自慢することは無理だな。
客観的に、あまりにウソっぽい状況なので、冷静になり心の余裕はできた。ひとまず、この人はジョバンニさんという認識で接しよう。
「前国王……ってのも言いづらいので、ジョバンニさんという呼び方で話しますが、自分的にはどうしたいのですか?」
「ただ、ワシは詫びたいのだ」
ホッ、ジョバンニさんという呼称で大丈夫ってことだ。特に反応なかったので、大丈夫そうだ……な、うん。
「すべては、ワシの至らない、幼い心が、口車に乗せられたとはいえ、国民を不幸にしてしまった。せめてと思って遺体の身元確認をして、個別に回っているのだが、グレンツェだけは拒否されたままなのだ」
戸別訪問していたことはゴトーさんも知っていたと話していた。ある程度誠意は伝わっているのではないのだろうか。ということは、アプローチの仕方なのだろうか。
「乗りかかった舟という感じなので、ジョバンニさんの願い、俺も一緒にやりましょうか?」
このままではゴトーさんは俺にも会ってくれないだろうし、結局は、ジョバンニさんの問題を解決しなければならないのだろう。
ジョバンニさん、ゴトーさん、どちらにも感謝したい気持ちがある。損得勘定抜きにして、老人のために一肌脱ぐのも若者の使命だと思う。前の世界の年齢を足しても、彼らより若いし……頑張ろう。




