旧知?
「城も見に行ったのですが、石垣が崩れてたので残念でした。武家屋敷を抜けて行った先、だったの期待をしたのですが、崩れてて。警備員と話をしたのですが、そのままでも良いって声はあるみたいです。戦争があったことを残している、歴史遺産みたいな感じで、当時の様子を未来に伝える、感じでしょうか。公園は首都に住んでる人たちは必ず1回は利用しているみたいで、憩いの場としてお城があるってのは良いんじゃないかなぁと」
話題が少し変わったが、まだ少し眠そうだ。ジョッキは机に置かれているので、ビールはすでに飲んでいない。長旅で疲れているのだろうか。
「……あとは、城は他国に対しての見栄やハッタリの部分のあるので、ちゃんとしたほうが良い、って声もあったみたいです。商人として旅している俺としても、旅の見所としてあると良かったなぁと思いました……以上ですが、起きてますか?」
「あぁうん、起きてる」
まぁ、80代らしいので、眠いのだろう。一応「寝ます?」と聞いたが、まだ少し話をしたいようだった。
「しかし、タナカはよく見ているな。商人で旅をしているって言っても、旅に出たばかりの17歳だろ? 感想に若さを感じられない気もするが……、そういえば、エルフリーデの嬢ちゃんはどうしたんだ?」
今気づいたのかよ! というか、感想に若さがないって……誉め言葉じゃないよね?
「エルフリーデは少しやりたいことがあったってことで、一旦別行動取ってるだけですよ」
「そうか、残念だな。あのお嬢さんの、竹を割ったよう感じは好きだったんだが」
「はぁ、すみません、俺一人で」
「いやいや、大丈夫だよ」
何がだよ! まぁ俺が晩酌の相手だと不満なのかもしれないけど。
「あ、そういえば」
もう一つ忘れていた。
「お話してもらった職人の村・グレンツェにも行ってきましたよ」
その話を振ると、少し目が開いた。
「お、簡単には会えなかっただろぉ?」
ほれみたことか、あれは簡単に会わない気質なんだよ、と言わんばかりに、ドヤ顔されている。ジョバンニさんの手柄でもなんでもない。
「いえ、会って村に入れてもらえました」
「な!?」
俺の回答に大きなリアクションで驚いた。眠そうにしていた目は見開いている。
「門の前で石垣を触っていたら見つかって。注意されたり怒られるのかと思ったら、そのまま中に引き連れていかれて」
「それはまことか? グレンツェに入れたのか?」
ますます驚いてくれている。少しは俺もドヤ顔しても良いのだろうか。いいや、もう少し我慢しよう。
「はい、それどころか、話をして、包丁などの取り扱いも商業ギルドを通じてさせてもらえることになりました」
「はぁ~! それはそれはなんともすごいな」
ジョバンニさんの反応を見ると、本当にかかわりをもたない村だったのだろう。完全に酔いは醒めている様子だ。俺もテンションが上がってしまい、ドヤ顔を我慢できない。
「そこで、石垣のことが分かる人――その、門のところで俺を捕まえた人ですが、その人とも話をしまして、この国の歴史を聞きました。だから尚更、この国のことを思うと石垣は今のままが良いのかなぁと思います」
「ゴトーさんに会ったのか?」
ガタと椅子から立ち上がり、テーブルに手をつき、顔を俺の前まで寄せてくる。ぐいぐいと。80代とはいえマッチョなので、その迫力に押されてしまう。
「えぇ、会って話しました」
「そうかぁ……それもまたすごいな」
再び椅子に腰を掛け、深いため息とともに、俺のしたことに感心している。
なんだ? ゴトーさんのレアさ加減……あれ? どうしてジョバンニさんは知っているんだ?
「ジョバンニさんはゴトーさんをご存じなんですか?」
「そうだな。最近は会えていないけど、昔はな。80年も生きてりゃ交流もあるさ」
そうか、あの戦争の前までは、グレンツェも閉鎖的ではなかったから、市民同士も交流もあったのか。
「久しぶりに、会いたくなってきたな」
ポツリ、上を見上げて懐かしむ感じで言葉を漏らした。
「タナカ、ワシを連れて行ってくれないか?」
「え? グレンツェにですか?」
「あぁ、久しぶりにゴトーさんに会ってみたくなった」
俺はこのままバッケスホーフの人が包丁と醤油に興味を持った報告で戻るので構わないが……。
「俺は仕事の話で入れてもらえるようになりましたが、前にジョバンニさんがハードルが高い、って言ってたので、連れて行ってもそのまま入れるかどうか、わかりませんけど大丈夫ですか?」
「それで構わない。門まで行って聞いてみることにするよ」
「それなら……」
何か思うところがあるのか、ジョバンニさんの真剣な顔に押されて、このあと一緒に戻ることになった。
しかし、戦争前に交流があった人たちとも関係を断っていたとなると、根深い気もする。大丈夫なのだろうか。
今晩は、ジョバンニさんのところに泊めてもらうことにした。部屋は前と同じ場所を借りた。




