グレンツェの選択
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「俺の勝手な推測ですけど、転生する際に何か軸が歪んだりしたのかもしれないですね」
「そうだな。特に不老不死の薬を飲んだとか、そういうのは無いし、この世界には無い。俺も何か転生の時に起きたんだろうと、いまは思っている」
すでに悟っているのか、ゴトーさんは気にしていないようだ。まったく歳を取らないのではなく、進行が遅いというだけとのこと。250年も生きていると、70歳くらいにはなっているらしい。本人の感覚らしいけど。
「タナカも同様に作用するかどうか、というのはわからないけど、そうなってしまった場合でもなんとかなるから、人生をあきらめないようにな!」
「は、はぁ」
なかなか実感は無いけど、できれば、周りと同じ時間で生きたいと思っている。ただ、目の前に実例があって、大丈夫というならそうなんだろう。
「引きこもってても仕方がない」
といわれても説得力は低い気がする……。
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引きこもりが解消できたのは、何十年経ってからとのこと。ゴトーさんのことを良く知る人物が村にほとんどいなくなったから、らしい。それを聞くと、深夜にコンビニに行くリアル引きこもりとどこが違うのか、と思ってしまう。
久々に村を見て回ることにすると、自分がいたときより人も多く、豊かになっていた。各工房が競い合って、新しい技術も開発されていた。自分がいなくても大丈夫だ、とゴトーさんは安心することができた。
そのあと、妻と息子たちの墓所を聞き、伺い手を合わせた。「心が弱かったのだな、俺は」と。
村に戻ると、「うわさでは聞いていました」「師匠の師匠がお世話になったとか」と声をかけられることとなった。それも嫌ではなくなっていた。引きこもりで何かを悟ったのだろう。
それから100年近く、平和で村というのは大きな存在になっていた。
その時だった。先代の国王が隣国オイレンブルクと戦争を始めた。
ゴトーさんが転生してきて200年。城づくりを頼まれてからも戦はあった。小競り合いも多数。しかし、小さなところを攻めていく戦で、大国となった国対国は無かった。
グレンツェにも、技術の提供が求められることとなった。つまり武器の製造である。刀剣、防具など人を殺すための道具である。
もちろんゴトーさんは反対した。しかし、村の若者は熱を上げ、賛同するものが多かった。結果、製造した。
戦禍が拡大するにつれ、武器製造の協力だけじゃなく、兵隊に招集されることとなった。村の者がいなくなると武器は作れず、戦力は低下する。それでも駆り出されるくらいの戦ということだ。
元々村を作った時から、体格的に小さい、ずんぐりむっくりの集団だったので、その子孫たちも戦いに向いている体格ではない。
ゴトーさんの腕っぷしの強さは、250年も生きていると鍛えられる、ということで特別とのこと。
訓練もままならない状態で、コンツを超えた向こう、オイレンブルクとの境にある戦場で多くが亡くなった。湿地で足を取られ、悲惨だったと聞いた。
さらに、あとから聞いた話では、兵役について容姿を馬鹿にされ、見下され、最前線の国境に送り込まれたと。
ゴトーさんは終戦後、訪問し、供養をしていたとのこと。俺が見た積まれた石は、この時の物だったらしい。
ただただ、怒りの感情が高ぶった。家族を失っている村民たちに相談した。長寿すぎて、村で仙人のような扱いになっていたゴトーさんの言葉に首を振る者はいなかった。
前の国王に絶縁状を叩きつけ、グレンツェの周りを3メートルの石垣で囲み、交流を絶った。
しかし、すべて断つのではなく、戦争前から付き合いのあった行商が食えなくなるのは申し訳なく、その行商がいる限り引き続き作ることにしている。
もちろん、昔馴染みの行商からの依頼でも、刀は作らない。包丁は作る。平和のためなら協力する。
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「だから、石垣は崩れたままなんですね」
首都の城の石垣のことである。
「あぁ、あれは崩れたままが良い。戒めのために」
ゴトーさんの言葉は、腹を据えているのがわかる。この世界に来て戦争に翻弄されている。俺にはわからない痛みを感じているのだろう。
そういえば公園の警備員が言ってたけど、崩れたままでも、それはそれで良いのかもしれない。
「今でも前の国王は許せないでか?」
「それは当たり前だ。死んだ者は生き返らないし、歴史は戻せない。でもだな、前の国王は過剰に反応してしまった自分を責めとった。それで戦の口火を切ってしまったことも。それに罪滅ぼしと、いろいろやっとる」
「罪滅ぼしですか? 庶民の生活優先の政策とかですか?」
「それもある。しかしな、戦で亡くなった者たちの、遺体の身元を調べて、元のところに帰してやってたり、必要になれば戸別訪問もしとる。それは誠意じゃないかと」
ゴトーさんは大きなため息をつく。罪は罪だが、許すのも必要ではないかと。戦争後20年。ゴトーさんにとっては一瞬の時間かもしれないが、他の人にとっては長い人もいる。250年生きていても、そう簡単に結論が出ないこともあるということか。
「さて、俺の昔話は以上だ。あまり明るくないことばかりだから、ちょっとはタナカの、俺がいなくなってからの日本の話を聞かせてくれよ、な!」
ゴトーさんは俺の肩を軽くたたいて、優しい目で言ってきた。戦争のことは、ある程度結論が出始めているのかもしれない。ズルズル引っ張っている感じは見られない。
「たぶん、あまり面白くないと思いますよ」
「それは俺が聞いてから判断するよ」
そこから、幕末、明治大正昭和、平成の話と、俺がこっちに来てからの話をした。




