迂闊だった
「信じてないだろう?」
当たり前である。この転生してきた世界だとはいえ、ファンタジー要素は少ない。ほぼ俺の知っている前の世界と、人の能力は変わらないと思っている。
だから250年以上生きていると言われて「はいそうですか」とか「マジっすか」とはならない。「何言ってんの」と思うだけだ。
「……」
しかし、この野武士の目が揺るがない。本気で言ってるのだろうか。
「あの……本気ですか?」
「嘘だったら、かなり俺はヤバいだろう?」
ということは本当なんだろうけど、だからなんなんだろうか……。
「それが俺と何か関係あるんでしょうか?」
「……お前、どこからきた?」
「……」
これは色々とバレているということか。年齢も聞かれているということは、そうなのだろう。しかしどうして。
目をそらしても、この野武士はそらさない。ジっと俺を見ている。何か嘘をつくような素振りがあれば見逃さないように。
「そうですね」
俺は隠し通せないとあきらめた。何かあれば、どうにか逃げなければならないけど、靴も脱いでるし、自信がない。でもこの睨みから、いま逃げられると思えない。腹をくくろう。
「俺は、本当は40歳と17歳……57歳です」
「ほぉ。それで?」
「お察しの通り、元々は別のところから来ました」
「それは、日本か?」
俺が隠し隠し話しているのに痺れを切らしたのか、この野武士は、この世界に無い言葉、久々に聞く日本という単語を言ってきた。
「なんで!?」
俺が驚いてしまったことで、野武士はニヤリとした。しまった! これは何か知っていて俺を引っかけたのか。だがそれはすぐに否定された。
「大丈夫だ。俺も、日本から来た」
*
この野武士。250年近く前にこの世界に飛ばされたということだった。
名前はゴトー。文化4~5年頃ということなので、1800年過ぎくらいだろうか、加賀藩で金沢城の石垣を修築していた時、足を滑らせて転生にあったとのことだ。
加賀藩穴生出身で、後藤というと、穴太衆が絡んでいる話だったような気がする。歴史的には織田信長や豊臣秀吉、徳川家康ほど有名ではないが、俺が飛んでしまった平成まで続く技術じゃないか。
前の世界にいた終わりあたりに、黒田官兵衛の大河ドラマの関係で後藤又兵衛を調べたことがあるが、その後藤家なのか? 俺はとてつもない人物を目の前にしてしまっているのだろうか。興奮が収まらない。
「そうか、後藤家や石積みは今でも知られているのか」
俺の正体が分かったからなのか、同郷だったからなのか、ゴトーさんの表情が和らいで、思いにふけっている。
「そうですね、今は穴太積みというと、歴史や城好きには知られた名前ですね」
今、と言っても、俺は17年こっちの世界なのでわからないが、たぶんそんなに変わってないだろう。
「俺がどうしてお前が日本から来たかもしれないと思ったか、知りたいだろ?」
「えぇ、知りたいです!」
そりゃそうだ。とにかくバレないように生きてきたし、発言は気を付けてきていた。見た目は日本人っぽくない恰好に転生しているので、わからないはずだ。
「その石積みについて、お前は野面積み、って言ってただろ?」
「え、えぇ」
「あの言い方、この世界にいる者は知らんのだよ」
「あ!」
たしかに。迂闊だった。穴太積みという言い方が昭和に入ってからだったから、古い言い方の野面積みだったら大丈夫だと思っていた。その言い方もこの世界には無かったようだ。
「油断だな」
「そうですね……」
今後はさらに気を引き締めないとダメだとわかった。だが、まだわからないことがある。
「ゴトーさんは250年以上生きているって言ってましたが、それも本当ですか?」
時間軸がどう歪んでいるのかわからないが、俺が飛ばされたときが17年前だったとして、ゴトーさんが日本で200年前に滑落しても、この世界に飛ばされたのが70年前かもしれない。だが、そういうことでもなかった。
「間違いないよ」
「じゃあ、本当に250年生きているのですか?」
「そうだ。理由はわからないが、50年あたりから、歳の取り方がだんだんと遅くなっている」
「そんな……」
ここで新たな謎が出てきた。ゴトーさんがそうあるなら、俺も同じようになる可能性がある。
「でも、そんな悲観することはない。悪いこともあるけど、経験できることじゃない。楽しもうって気持ちになれてるからな」
仙人みたいなものだろうか。達観している。そうか、だから、この村の人たちはゴトーさんをリスペクトしているのか。
「深く考えるのは止めたほうがいい。生きてしまっている俺がおかしいんだから。お前……いや、タナカが現れて、タナカも長寿なのかと思って、それが聞きたかったんだ」
しかし、俺はまだ転生して17年ということで、ゴトーさんは少ししょんぼりしているようだ。
「俺もこれからどうなるかわからないので、ゴトーさんのような方がいてくれていることが安心、ということで、細かいことを考えるのは今は止めておきます」
「何も言わず黙々と連れてきたのは謝る。しかし、そういう事情だから許してくれ」
そういう理由なら理解せざるを得ない。村の人にバレて、話が漏れてしまうのも問題があるのだろう。
そこから、ゴトーさんがこの世界に来た話を、250年の歴史を聞いた。




