追分だんご屋で
首都からグレンツェ村に道標の指している方向へ、街道沿いを歩いていると、すぐに追分があった。
どれくらいの距離があるのか、団子を食べながらオジサン店員に訪ねると、だいたい半日で着くということだった。
今がだいたい昼過ぎなので、夕方には着きそうだ。
追分だんごを食べていて思ったのだが、グレンツェへ向かう人は少なそうだ。かたや人が多く流れる街道もある。
「どうしてあちらが多いのですか?」
単純な疑問だったが、店員にしては何をいまさらと一瞬思って、俺がこの国の人ではないからと理解した。
「お客さん、この国の魚料理は食べましたか? あちらは海の方角なんですよ」
なるほど、物の往来が盛んだからか。たしかに、荷物を持っている者も多い。よくよく見ると、そちら方向は道の整備もしっかりしている。そして、前に見て聞いた水槽を運んでいる馬もいる。
店員はこの国の自慢とばかりに、威張ってドヤ顔をしている。いやいや、あなたが作ったんじゃないでしょう、とツッコミたかったが、この国の国民であるということは、関わりはゼロではないのか。
「魚食べましたよ。刺身……ですか? あれは凄い。よくあんなに新鮮なものを作れるもんだと感心しました」
よいしょ、よいしょっと。店員は嬉しそうにしている。頼みもしないお茶のお替りを入れてくれている。
「でしょ~。前の国王が、やってくれたんだよ。おかげて国民の生活も安定したし、ウチも街道のおかげでこうやってお客さんが来てありがたいよ。戦争前と同じくらいかそれ以上だ」
国民はいつもどこでも国じゃなく自分の生活があってこその国なのだろう。さらに自分の店が儲かる国は良いところだろう。
「ビンデバルトの国王は優秀なんですね」
俺がそう聞くと、ため息をつき、首を振る。
「いやぁ、前の国王がね」
「ん? でも言っちゃ悪いけど、戦争を起こしたのも前の国王じゃないの?」
「それはそうなんだけど、そのケジメが自らを律して、家の繁栄より先に国の復興をやった、ってところが重要なんだろうな」
「だけど、こうやって人通りは多いから、今の国王も良いんじゃないの?」
「たしかに、今の国王は良いヤツだよ。だけど、少しだらしがないというか、何というか、俺たちがしっかりしてないとダメって感じなんだよ」
ヤツと言われてしまう国王もかわいそうだが、嫌われているわけではなさそうだ。愛されるおバカなのだろう。
「国民に支えられる国王って感じで?」
「まぁそうだな。女に騙されたり、金をだまし取られたり、幼少期から知っているが、アホというか、ビンデバルトのバカ息子代表だなあれは」
呆れているようだが、本当に嫌ではなく、笑いながらなので、おそらく愛されているのだろう。
国民がみんな「俺が育てた」的な感覚を持っているのだろう。俺も浅田真央が成人式のときの晴れ着姿を見て感慨深かった……少し違うのだろうか。いや、そんなもんだろう。
「愛されている王様なんですね」
「まぁ、バカなほど可愛かったりするからな」
どの国どの時代でも変わることのない考えなのだろう。
しかし、グレンツェ方向が少ないのは気になってしまう。
「逆に、こっち方向はどうして少ないの?」
「あぁ――」
店員は顎をさすり、なんとも説明しづらそうにしている。
「――そう、そっち方向はね。グレンツェは近寄りがたいというか、あまり他者を寄せ付けない雰囲気というか」
つまり、壁があるってことだろう。ジョバンニも「たぶん会うのは無理かも」ということを言っていた。同じ国民でもそうなのだろう。
「その村の人がここを通ることってあるの?」
「あるよ」
「え? そうなの?」
結構意外である。村から出てこないものなのかと思ったらそうじゃなかった。
「あぁ、彼らは技術があって、それを活かしているからな。修理とかで呼び出されてここを通ることもある」
「へぇ、そうなんだ」
だとすると、付いて行くと案外あっさり入れて話聞けるんじゃないのか?
目の前に一人、その方向へ向かっていく人がいる。
「あ、あの人は?」
「あれは違うな。この先にある畑へ行くんだろう」
たしかに、鍬など農機具はもっている。でもどうしてわかるのだろう。
また、今度は向こうから一人と疲れているような馬一頭が歩いてきている。どちらも少し高齢っぽい。
「じゃあ、あの人は?」
「あれも違う」
「でも畑作業っぽくはないけど?」
「うん、でも違う。あれは商人だな」
確かに、荷馬車を引いて荷物を載せている。荷物があるってことは商人なら村と交流できるってことなのか?
しかし、その村とただの商人の違いが判らない。何か見分ける方法があるのだろうか。
「兄ちゃん、格好からすると商人かい?」
「え、ええそうですが」
「だとすると、グレンツェへ行くのは結構無謀だと思うがね」
「どうして?」
「あそこへ行っても会ってすらもらえないよ」
「でも、今向こうから商人が来たじゃないですか?」
目の前は過ぎ去っているが、まだ荷台が見えるのを指さした。でも正解では無いようで、店員は首を振る。
「あれは昔からの、そうだな、戦争前からの行商だ。だから今でも付き合いがあるんだ」
この追分だんご屋は戦前からあると言っていた。ということは、長年毎日行き来する人を見ているのだろう。だから見てわかるのだろうか。
「新規に取引を始めた、ってことも聞いてないな。せっかくの技術があるのに、もったいないと思うよ」
戦争前後でなぜ変わってしまったのだろうか。そこに閉鎖的になってしまった原因があるのだろうか。
「兄ちゃんは経験も少なそうだから、たぶん、門前払いも良いところだと思うよ。何か良い、天地がひっくり返りそうな条件でもない限りな」
どれだけハードルが高いのか……。俺はつばを飲み込んだ。今のところ、行くくらいなら殺されはしないっぽい。相手にされないのは確実だろうけど。だから、ひとまず行ってみるということは変更しなくて良さそうだ。
たまたま通って、村まで話をしながら打ち解けたら良いなぁと思い、通過する人を10人程度聞いたが、店員曰く、どれもグレンツェの人ではなかった。
「そう、どうしてグレンツェの人と、そうじゃないって見わけが付いたの?」
「グレンツェの人は、一般的なビンデバルト国民に比べて、背が低いのが特徴だからさ」
見た目の違いか……。背が低い。ドワーフとか? でもこの世界には妖精的なものは存在していないはずだ。17年間、オイレンブルクでもいなかったし、書物にも無かった。他国にもいないのだろう。
包丁を作る。金属製の水槽を作る。ドワーフまがいに背が低い。頑固な職人集団。一目で良いから会いたい気持ちが盛り上がってきた。




