城を見に行く
「じゃあ俺はこのまままっすぐ石垣の方へ向かうよ」
武家屋敷の向こうに見える、崩れた石垣を指さした。
「私はお母さんのところへ行くね」
エルフリーデは左の小道を指さした。
たぶん一カ月くらいでまた様子を見に来るとは言え、出会ってからを考えると、初めての長期の別行動になる。
姿が見えない護衛がいるはずなので心配はしていないが、どこか寂しいところがある……気がしている。
エルフリーデはどうだろうか。俺を見送ろうとしてくれているのだろうか、まだこちらから視線を外さない。
「え~っと、それだけ見られていると、何か行きづらいんだけど?」
「あ、あぁ、そ、そう? これから冒険の旅に出るタナカを見送ってあげようと思ってるんだから、感謝してもらいたいよね、ほんと」
「ありがとうございます、しかし、私にはもったいのぉございます、姫」
「もぅ、姫とか言うの禁止だって!」
「そうだね、今更感あるよね」
「な、酷い~!」
なんてことはない、これだけ元気ならエルフリーデは大丈夫だろう。
少しの笑い声を交わすと、今度はちゃんと出かける挨拶をした。
「じゃあ、少し行ってきます」
「はい、いってらっしゃい。気を付けてね」
基本的に一人で行動してきた。また少しだけその期間になるので、どうせなら味わおう。次にエルフリーデと行動するときに話せるネタは仕入れておかないと。「なにしてたの?」と呆れられてしまう。
*
その崩れた石垣は、近づけばそこそこ砕かれていた。警備員がいて違づけないようになっている。
木製の案内図があったので確認すると、ここは城。ビンデバルトの国王の住まいということが分かった。
さすがに防犯のため、図面でしっかりと書かれているわけではないが、一部は国民に公園として開放されているようだった。
「元々は天守があったのか……」
案内図には戦争前にあった元々の城郭の図も描かれている。そこには天守があったようだ。しかし、中を覗くと公園の広い敷地だけが見える。
「全体は広そうだな。でも、再建予定はないみたいだな」
横には城の成り立ちが書いてある案内板がある。200年ほど前に移り住んだ王族がこの地に建てたと書かれてある。そしてここを拠点にして一帯を治めて今のビンデバルトができたと。
この200年でなにがあったのだろうか。堅牢と思われたこの城だったが、技術革新が無かったのだろうか。綺麗に砕かれている。櫓とか門があったのかもしれない。この部分だけ相当な打撃痕がある。他を見渡すと、あまり損傷はなさそうだ。
「だけど、この積み方って――」
「おい、お前、何をしてるんだ?」
崩れた石垣を見ていたことで、攻め込もうとか思われたのだろうか。警備員が声をかけてきた。怪しんだ目で見ている。少し怖そうだ。
「いや、俺は攻め込もうとか思っていませんから」
「そんなのはみりゃわかるよ!」
城を見ると、どうやって攻めたらよいのだろうか、なんてのは、昔やっていたシミュレーションゲームで考えることだったが、いまはそうじゃない。
それに、俺の恰好は強いヤツとは言い難い恰好。明らかに商人である。
「ですよね~。この崩れた石は何だろうかと思いまして」
城勤めということで、もしかしたらプライドを持っている警備員かもと思い、両手を合わせ揉み手をして、下手に出てみた。すると、少し横柄に見えた態度が柔らかくなった。
「……商人か?」
「はい」
「ってことは、旅をしてるのか?」
「えぇ、よくわかりましたね?」
「そりゃそうだろ。ここの街の者なら、だいたいがここに来たことがあるからな」
「へぇそうなんですね」
なるほど、結構ランドマークてきな存在なのか……ってそりゃそうか。王様が住んでる城で庭が解放されてるようなもんだから、来るよな。こうやって警備員もいるってことは、子供が来ても安全だ。
「旅をする者は嫌いじゃない。ちゃんと良いところを伝えると宣伝してくれるからな」
確かに、そういうこともあるだろう。好意的なのは助かる。
「それじゃあ、少しだけ説明してやるか」
「助かります!」
横柄に見えてたのは俺の警備員に対する印象だったのか、ヨイショする態度に出ると、結構良い感じで案内板の補足をしてくれた。




