唯一の手掛かり
フィンは商店街を過ぎるまで何も話さず、早足で歩いた。まだ街は盛り上がりを見せている時間で、人も多かった。
彼の姿に気づいた夜のお姉さんが「フィン、今日はもう終わっちゃったの?」など声をかけてきた。たぶん普段は会話があるのだろうと思われる。
ただ、今日は一人ではないことを見られたくないということだろうか。そんな誘いに耳を傾ける感じではない。俺たちは置いて行かれないように必死について行った。
*
賑やかな場所を通り抜けたら一転、住宅街で静まっていた。そのあたりに来ると、フィンは速度を緩めた。
そこはレンガ造りもあるが、木造建築が多く懐かしい雰囲気がある。家族だろうか、会話が漏れて聞こえてくる。
「なぁ、あんた」
俺が見慣れた、エルフリーデが見慣れない建物を横目で見ているとき、フィンはこちらを振り返ることなく話し始めた。
「どうしてソフィアさんのことを知りたいんだ?」
お互いに知りたくて、伝えたかったことをズバリ聞いてきた。彼はこちらを見ていないが、言葉の強さから、神経質な感じが伝わってくる。何か苛立ちがあるような。
エルフリーデは俺の方を確認する。暗い通りだが、住宅街なので人いきれを感じることができる。叫べば何とかなると思う。
フィンが突然襲ってきたりしても、俺とエルフリーデで対応できると思う。最悪の場合、王から依頼された、護衛に付いてきているはずの人が対応してくれると思う。俺の危機は無視されると思うが……。
「それに答えたら教えてくれるってこと?」
「……」
エルフリーデが強気に返答したが、無言。ということは、きっちりと答えないと交渉の埒が明かないということだ。
今のところ、この男しか手掛かりがない。悔しいが、下手に出るしかないのでエルフリーデは諦めた。
「……悪かったわ。私が首都に来る途中で姿を見たのが、母に似てたのよ。その母の名前がソフィア」
「恋しいのか?」
「そういうのではないわ。ただ、会ってみたいという感情が出た。それだけ」
「他人の空似では?」
「そうかもしれないわ。7年経ってるからね。でも、名前を出して、あなたがこうやって興味を持ったってことは、可能性が無いとは言えない」
「俺の知っているソフィアさんは別人かもしれないよ?」
「だとしても、私たちの旅は急ぐものではないから、会っても良いと思うの」
こちらを見て「だよね?」と確認してくるので、俺は頷いた。急ぎの用事はない。ジョバンニに頼まれている首都の様子も、今のところ、良い感じだと思うだけなので報告に行かなくても良さそう。
「……結構強情だな。」
フィンはチラっと振り向いてエルフリーデの表情を確認した。それにしっかりと目を合わせてエルフリーデは返事をする。
「えぇ、それはそうだと思う」
肝が据わっていると思う。決めたら猛進するところがある。俺がストッパーになることもあるのかもしない。覚悟しておこう。
「それで、見つけてどうするの?」
気が付けば住宅街を抜け、左右に膝ほど雑草が茂る、道はあるが地面は土になっていた。静かになってきた。
住宅はあるが、しっかりとした作りではなく、数日もあれば組み立てられるだろう箱のような簡単な建物だ。
「見つけて? 7年会ってない母親なんだよ? 色々聞きたいことがあるでしょ」
「……」
フィンは「例えば」と言わんばかりに首を傾げる。
「あるのよ。今は何をしているとか。それに、どうして私たちを捨てて家を出て行ったのか」
「捨てた?」
足を止めて、少し不審に思うような感じで、こちらを見てきた。自分より背の高いフィンに怖気づくことなく、エルフリーデは見上げて堂々答える。
「えぇ、突然若い貴族の後を追って、ね」
横からエルフリーデの表情を見ると、目を見開きフィンに向ける視線は、何かに気づいたような顔をしている。
若い貴族? もしかしてこのフィンという男がそれなのか? だとしても、お世辞にも貴族と言えないようなナリをしている。貧乏貴族の俺でさえもっとましな生活をさせてもらえてた。
それ以降、二人は言葉を発せず、事態が硬直してしまっている。
俺からも気になっていたことがあるので口を出してみた。
「そちらからの質問ばかりだけど、こっちの質問にも答えてもらえるかな?」
ギュンターの話によると、ソフィアさんを探している俺たちに興味を持っているということだった。
会いたがっていた理由もあるはずだ。まったくポジティブなことを言ってこないが、フィンにもメリットがあるからこの場を持っているはず。そのあたりを探りたい。
「ふんっ」
しかし、何かを察したのか、フィンはまた俺たちに背を向けた。
「ちょっ……!」
追いかけようとしたが、目的の場所は目の前の建物だった。
「ただいま」
フィンが入っていったのは、一段と酷いバラック小屋だった。




