4人組アイドル?
この路地裏は、ショーパブの裏口だった。ドアから見えるのは楽屋の様子で、次の出番の人たちがいそいそと戦場のように準備にかかっている。
「ねぇあれは何をしているの?」
夜の店……と言っても健全な店ではあるが、そういうところもエルフリーデはまだ見た事がない。興味があるのもわかる。
ピエロのように大道芸を披露するもの、歌を歌うもの、人形劇をするもの、スタンダップコメディをするもの。多種多様な出し物があるということは、この国に自由があるということだと感じられる。
「あの人たちが芸をして、お酒や食事をしているテーブルのお客さんを楽しませてる、そういう店だね、ここは」
「へぇ……あれ? タナカは何で知ってるの?」
そういえば俺もここでは17歳だった。しかも、この世界ではまだ行ったことがない。外から眺めて「あぁ、前と同じだな」と思った程度の知識だ。
「そうだ……よね。俺もあまり知らないけど、前にエマでリゾットを作ってるとき、お客さんに、夜の店で働いている人が来て教えてくれたんだよ」
口から出まかせではあるが、そのような店のお客さんが来てたのは事実だから、100パーセント嘘ということではない。
「そう、なんだ……」
ちょっと残念そうな顔をしているが、自分の知らない大人の世界を知っている男子、というのが気に入らないのだろうか。
再び店の中を覗いて、少しの無言の時間が過ぎたあたりに、出番を待つ男性4人組の姿があった。結構派手目の衣装だが、舞台映えしそうな感じがする。そして結構男前の4人組だ。
「あ!」
エルフリーデが気付いて声を出した。その中にさっき俺たちを案内してくれたガーディアンのチンピラ風の男がいた。気づいたその男はこちらに手を振ってくれている。
「やっぱりさっきの人だ」
俺もエルフリーデも驚いたけど、手を振り返した。まさかあのチンピラ風の男が、舞台に出るような男前に変身するとは。4人組の中でも役割分担があるのだろうか。少し筋肉質なので、その手の好きな人向けパートを担っているのだろう。色はブルー。他の人たちはレッド、イエロー、グリーンなので、色で推しグッズもありそうだ。
「どこの世界でも同じような感じだな」
ボソっとつぶやいたが、エルフリーデはそういうのを気にせずにいてくれるようになったので気が楽だ。
ブルー、つまりチンピラ風の男だったブルーがレッドの方を叩き、こちらを指さした。そのレッドは4人の中でも一番美形。少し影があるクールな感じが衣装と対照的で余計に目立つ。
「男前だね」
「……」
エルフリーデは虜になってしまったのか、何も答えない。
レッドは俺たちを見つけ、眉を顰め、さらに冷たい視線を向けた。10代がこんなところにいるということに対する嫌悪感なのか、それとも、エルフリーデの恰好をみて身分的にふさわしくない場所へ来ているのではないかと、拒否感なのか。
それの意味は、ショーパブが終了したときにわかった。
*
4人組がトリだったようで、その後すぐに店内の客が退出していった。ほぼご婦人たちだったので、お目当てはトリだったのだと思われる。
楽屋裏からはそれまで舞台にいた人たちが着替えて出てきている。俺たちは邪魔にならないように脇のほうに避けていたので、特に見られたりはしなかった。
「けっこうぞろぞろと出てくるね」
すでに10人ほど退出している。楽屋が広いのだろうか。それともぎゅうぎゅうだろうか。お客が多かったことを考えると、ここのショーパブに出たいという芸人が多いのかもしれない。メジャーへの登竜門的なものなのだろうか。
「……そうね」
俺は出し物を裏から見て、ワクワクしてしまっていたが、エルフリーデの様子はそうではなさそうだ。
「何かあったの?」
「う~ん、さっきの4人組の人たちなんだけど――」
さては、王女だとは言っても、そこは15歳の乙女。もしかしたらアイドル的なものに興味を持ってしまったのかぁ? と思ったが、ぜんぜんそうではなかった。
「――どこかで見たことがあるような気がして」
「見た事が?」
「うん、あまり記憶が定かじゃないんだけど」
この世界はテレビは無い。もちろんアイドル雑誌も無い。そしてエルフリーデは故郷オイレンブルクから出るのは今回で初めてである。ということは、オイレンブルクで見たことがあるということ。
「こういうところにいる人たちは、下積みとかで全国各地に回ってたりするから、そういうのがオイレンブルクに来てたりとかしたんじゃないの?」
この世界のアイドル事情は知らないが、だいたいそういうものだと思う。旅芸人みたいなもので、ドサ回りということも考えられる。どこかのショッピングモールでやっているような感じで。
「う~ん、あまり思い出せないけど」
レッドみたいな、あれほどの男前だと、どこか記憶に残っているのかもしれない。ブルーは筋肉売りみたいなので、顔の印象は「怖い」以外残らないかもしれないけど。
俺たちが悩んでいたところ、その4人組も楽屋裏から出てきた。
「よぉ、見ててくれたか?」
「あ、ブルー! 縁者だったんだね」
「ブルーって! 俺はギュンターという名前があるんだけど」
思わず俺は色で呼んでしまった。
「いや、そっちは自己紹介してなかったじゃん」
「たしかに!」
出会った時に感じた怖さは無かった。顔は元からチンピラっぽいだけで、中身は優しいあんちゃんだ。楽屋裏から手を振ってくれたのを見ても、俺たちをリラックスさせてくれる人の良さというのは伝わる。
和やかな雰囲気だが、レッドだけは違っていた。イエローとグリーンは先に帰ったが、レッドは残っていて、俺たち……特にエルフリーデを見ている。恋という見つめ方ではなく、別のものを感じる。
「おっと、忘れていた。紹介するよ。レッドのフィンだ」
「……」
ギュンターに言われても特に反応しない。会釈も無しどころか、視線を合わせようとしない。
「どうも、こんばんわ」
俺もエルフリーデも反応を見つつ会釈はしたが、返してこない。
「う~んと、フィン、お前が連れてこいって言ったからなんだけど?」
「うん、まぁ……」
反応が薄いのだが、俺たちを探していたのはこの無口の男前だったようだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
4人ともしゃべらない。俺とエルフリーデは顔を見合わせるが、連れてこられた側なので、ここはフィンの言葉を待つのではないかと空気を読んでいる。
「あぁ、もう! フィン! お前が、ソフィアさんのことについて聞きまわってる彼らを保護しろ、って言ったんだろ?」
しびれを切らしたギュンターが、代わりに伝える。やはりエルフリーデのお母さんからみと思った。それ以外、今のところこの街で俺たちを囲う理由がない。
「うん……そうだな」
何か言葉を選びつつも出てこない感じで、フィンは上下左右に頭を動かしている。
「それで、私たちに何か用なの?」
エルフリーデがフィンの前に体を動かし、視線から逃げられないようにした。
フィンも観念して、エルフリーデを凝視した。そして一つため息をついた。
「ふぅ、そのソフィアさんについて知りたければ、いまから俺についてきな」
フィンは、頭をポリポリと掻き、何か納得したかのように頷き、表通りへ歩いていった。
「ついて行って、良いの?」
ギュンターに確認すると、「大丈夫だよ」頷いている。
「行く?」
エルフリーデが俺に最終確認を取る。
これだけ街のショーパブで認知されている人物なので問題行動は起こせないだろう。それにガーディアンという男が大丈夫と言っているので、安心しても良いと思う。
なにより、ギュンターに比べると、俺の剣でもなんとかなりそうな細さというところが良い。ヘタレだけど、エルフリーデ一人くらいなら守れそうだ。
ギュンターとわかれ、俺たちはフィンという男前の後を追いかけた。




