ビンデバルトの老後は安泰なのか
「――その職人集団がいるのは、グレンツェという村があるんだよ」
お爺さんの話によると、鉄の加工技術をもっているという集団がいるのは、グレンツェという村だとわかった。
そこへ行くには、この町・コンツから西へ、首都まで行く必要がある。
首都からそのまま西に通り過ぎると海がある。そう、魚の取れる海だ。しかもオイレンブルクと違い、砂浜がある海だ。オイレンブルクの海は崖なので、海水浴はできない。
その首都の南へ行くとグレンツェという村があるらしい。険しい山道ではなく、そこも舗装されていて、徒歩でも手段として問題ない。
ただ、門が閉ざされていて、簡単に中に通してくれないという。ましてや、技術を盗みに来たのか、取引したいのか、得体のしれない他国の商人となると、なおさら門前払いの可能性がある。
とはいえ、完全に世の中を遮断しているというわけではなく、生活のために包丁を作ったり、何か技術的にトラブルがあればメンテナンスに出たり、日々の収入を得るために交流はしているらしい。
ただ、必要以上に村以外の人間とかかわろうとしないのも事実。だから俺が合える可能性というのは、ほぼゼロである。メンテナンスのために村外に出る人がいれば、会うことができる可能性がある。
「かなりハードルが高いけど、チャレンジしてみる?」
俺はエルフリーデの確認を取った。興味持っているのでもちろん断るはずもなく、「もちろん」と二つ返事だった。ただ、少し長い時間話してしまっていただろうか、「…………クシュン」と少し花を啜っている。
気が付けば、日も暮れていて少し肌が冷えている感じがあった。俺はそろそろ宿を探しに行かなければならないと伝えた。
「たしかにな……どうだ、今晩はワシの家に泊まるか?」
まだ少し話足りなさそうだし、俺たちももう少しこの国について話を聞いておきたかったので、その提案はとてもありがたかった。
だが、俺一人ではなく、エルフリーデもいるので、何かあった時守れるだろうか。チラっとエルフリーデの方を確認したことで、お爺さんも気が付いたようだ。
「マッチョとはいえ、ワシもすでに80歳を超えとる。何も心配することは無いよ」
俺の心配とは少しベクトルが違うのかもしれないが、なかなか憎めなさそうなところがある。エルフリーデも「大丈夫だよ」ということなので、今日はこのお爺さんのところでお世話になることにしよう。
「よし、そう決まったら、さっそく移動しようか」
俺たちは、マテンロウとキャラメルのところへ行き、手綱をほどいた。
「良い馬を持っているね」
お爺さんは慣れた手つきで、馬にしゃべりかけながら首元を撫でてリラックスさせている。マテンロウもマッチョな年寄りを見てビビったわけではないだろうが、大人しく撫でられている。
「あ、そうそう、自己紹介がまだだったね。ワシの名前はジョバンニだ。よくある名前だけど気にしないでくれ」
「俺はタナカです」
「私は、エルフリーデです、よろしくねジョバンニさん」
ここで俺はしまったと思った。オイレンブルクの三女とは言え姫の本名を言わせてしまった。何かに巻き込まれることを考えると、偽名にしておいた方が良かったのかもしれない。
しかしそれは杞憂だったのか、ジョバンニも「可愛い名前だね」と気づいていなかったようだった。
*
少し小さめの家だったが、部屋も複数あり立派である。ジョバンニによると、元々首都に住んでいたが、最近この町に引っ越してきたばかりで、空き家だったここに仮住まいとのことだった。
ただ引っ越してきたばかりなのに、家具などはきっちりそろっている。ビンデバルトの老後の制度がしっかりしているということなのか? と感心するような程度に。




