くだらない30年戦争
20年前も今も、この街道は雨が降るとぬかるみがひどくなる。元をたどると湿地帯だったようだ。
双方の軍隊が激しく対峙したのは、湿地状態で地面から足が抜けなくなり進むことが難しくなり、矢で狙われたり、切り落とされたり、そのまま助けが来なくて死に絶えた者たちなど、死屍累々なっていて酷かったと聞く。
その戦争が続いたのは30年間ほど、つまり始まったのは今から約50年前の話。それは些細なことだったと聞く。教科書で習った話と、エルフリーデが知っている話を交えて教えてもらった。
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オイレンブルク6代目国王フランクが始めた戦争だ。表向きはビンデバルトがオイレンブルクの農業力、ほどほどの資源、労働力など狙っている、それにより軍事力を高めているという情報があったため、と言われている。
本当は旅人にそそのかされたためということらしい。くだらない。
旅人・ユングフラウ。どういう意図があったのか、面白がっていただけか、オイレンブルクの国王と、ビンデバルトの国王双方を煽るように吹聴した。
ビンデバルトの国王・カミッロには技術力と海岸を狙っていると伝えていたらしい。そのために軍事力を増強しないとダメだとか。
そもそも攻めるつもりがなかったのだが、お互いに軍事力を上げ、隣国に不安を覚えると、そこで衝突が起きるのも時間の問題だった。
初めに仕掛けたのはオイレンブルク。北方からビンデバルトの様子を見るために侵入を試みた。だが元々戦争になれていたわけではないので簡単に捕縛されてしまった。
そこからは、双方報復合戦になるという泥沼だった。
しびれを切らして大規模に攻めようと試みても情報が筒抜けだったことがある。どう考えても旅人と称するユングフラウが絡んでいると思ったが、尻尾を掴めず。
一進一退というが、結局はどちらも消耗する一方で、終わりの見得ない戦いになっていった。まるでコントロールされているような、終わりが見えたと思ったら、また一方が攻められる。
今俺たちが通っている街道は湿地なので、本来なら行軍するのに向いていない土地だが、手詰まりになって仕方なくルートになったいたようだ。
挙句、30年近く争っても、国境線は大きく変化がなく、双方の国力が落ちるだけというくだらない争いとなっていた。
国民が疲弊する姿を見て我慢できなかったのが、賢帝と言われるオイレンブルク7代目の王・レオン=オイレンと、その弟ベン=オイレンの兄弟だった。
まだ皇太子だったレオンは父フランクの悪政に我慢ができず、自ら調査に乗り出した。ビンデバルトも疲弊しているはずで、このまま超長期化を望むわけはないと。
自らの持っている忍びを使い、内情を探った。すると、何とか終わらせようとする動きがあった。しかし、何者かが妨害して戦争を続けていたとわかった。
レオンは秘密裏に和平工作を進めた。その条件として出されたのは、先に手を出してきたオイレンブルクのケジメを示すということだった。それはつまり、フランクの首を差し出せということである。
レオンは悩んだ。悪政とはいえ自らの父親でもある。ビンデバルトの内情について情報を共有していたベンに相談した。
ベンはレオンほどの感情はなく、毒殺を持ちかけた。戦争に嫌気を指してて、国民のことを考えると、父親の首一つで収まるなら安いと。30年十分に国王という立場を楽しんだ報いとしては足らないが、それで済むなら。
レオンはそこまで非情になれなかったが、毒殺はベンが主導するということだったので任せることにした。ベンはレオンに戦争後の政治を任せたかったこともあり、手を汚させたくなかった。
公には、戦争が収束しないことに責任を感じ、自ら命を絶ったとなっているが、事実は、ベンが戦争を終わらせる方法があると屋敷に誘い、毒を食前酒混入させて殺害したということだった。
ビンデバルト国内は、それに呼応するように、戦争収束派が推進派を一掃していた。
これにより、30年続いたオイレンブルクとビンデバルトの戦争は終戦した。レオンは差し出そうとしたが、実際に首を要求する悪趣味は無かった。
残ったのは、荒廃した双方の国土だった。
戦後、ベンは王籍を離れた。表向きは戦争の責任を取るという形だが、父親殺しということでしめしをつけ、政治を兄に任せたかったということだ。
ベンは王籍から離れ貴族になったこともあり、国民との交流も盛んになった。それにより国民が求めていることや感覚も近くなり、結果的に現在の政治に活きることになった。
レオンは7代目国王として国の再建、既存貴族のパワーバランスなどに多忙を極めた。
早めに復興するため、土木を推奨し、無駄を排除し倹約を勧め、平均して皆が良い暮らしをできるように努めた。徐々に回復が見えてきたところ心労が祟り、崩御することになった。
賢帝崩御。その報は国民を悲しませた。そのあと、国政を誰が仕切るのか、国民は不安を覚えた。また争いが起きるのかと。それはレオンに子供がいなかったからだ。
しかし表立って物理的なもめごとは無かった。静かに、しかし政治的に起きていた。
宰相をしていた者たちは弟ベンを王籍に戻し政治をさせる案。有力貴族が代理国王を作りいずれは民主的な国に作り替えるという案に分かれた。
ベンは毒殺を主導していたというのを知る者たちは賛成していなかったこともあり、初めは劣勢だったが、それを知らない民衆の支持はベンに集まっていた。
自ら退いていたベンはその要請を拒否していたが、国民たちが歓迎していると知り、戻ることを決めた。
エルフリーデが12歳の時だった。
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「しかし、俺の知らないことを、さすが、王族は知ってるんだな」
「呆れる、というのが正直よね」
「そうだね、くだらない理由だ」
「平和だからこそ、こんな美味しいものが食べられるってのを噛み締めないと」
エルフリーデがガレットの最後の一口を放り込む。
木に引っ掛けていた馬の紐を外し、彼らが十分休憩を取れたの確認した。
「じゃあ、改めて出発しますか」




