故郷の夜はこれで暫く
夜、前に蕎麦を食べた広場に村民が集まり、歓迎会をしてくれている。
あれからまだ日が経っていないにもかかわらず、村民たちはすでに自信を持ち始めているようだ。それはここに小規模の商業ギルドができたからだろう。
蕎麦ができると流通網が必要になる。誰かが先を越すことはないと思うが、できれば先手を打って見た目的にも主張をしておきたい。とはいえ、新人商人としての俺は、まだ小規模でも商業ギルドの支店を作るネットワークは無い。
そこで相談したのが、いつもの薬局のオーナー。彼女は見た目の肝っ玉母さん感だけじゃなく、性格も気に入ったやつにはとことん協力してくれるようだ。
俺が希望したらすぐにギルドに掛け合ってくれて、ギルドも、そんなおすすめの商品を取りっぱぐれないようにすぐに対応してくれたようだ。
もちろん、オイレンブルクの国王の了解は早々に取れているというのも、支店がすぐに作れた原因だ。俺の息のかかったギルドができたことで、情報も得やすくなるだろう。これは俺にとってかなりのメリットである。
村民たちは自分たちの作っている物の価値を、第三者に評価されたことがわかり、自信が付いたようだ。あとは、ちゃんと流通して、売れるものとわかることで、確信することができると思う。
そのギルドの人間もこの歓迎会に参加してくれている。門番と肩を組み酒を飲んでいる店員がこちらに気づき、近づいてきた。
「タナカさんですね? 話は聞いています。名産を作ってくれたとか。商業ギルドとして感謝をさせていただきます」
ギルドの人間は流通網を押さえて付加価値をつけて差額で利益を出す。前の世界での商社と物流のような存在だろう。蕎麦を麺として食べる方法を作ったことで、ますます蕎麦の価値が上がることも理解しているようだった。
「くれぐれも高額にならないようにしてくださいね」
俺は、しつこいと思われようと、念押ししておいた。高くなりすぎると村が狙われることも考えられる。ましてや蕎麦は庶民の味方の商品にしておきたい。
「はい、それは承知しています。そしてもう一つ個人的に感謝しています」
店員は酒で顔を赤らめているが、かしこまった感じに語った。
「個人的に?」
「そうです。私はこの村の出身でして、幸いに他の町のギルドで仕事を得ることができていました。ただ、数年前の災害で地が荒れて貧困さを増しているのを耳にしていました。だけど、私個人は何もできず、指をくわえているだけで……でも、タナカさんが村に光を与えてくれて、それで支店ができると聞いて、すぐに候補に名乗りをあげました」
だから門番ともはっちゃけてる感じだったのかな?
「彼とは昔馴染みなんですか?」
俺は門番を指さしたら、店員も「ええ」と頷いた。
「やつとは小さいころは一緒に悪さをしてたもんですよ」
笑いながら言っているが、つまり竹馬の友なんだろう。だから出て行った後も村の状況を耳にすることができたのかもしれない。
そこに、少女・門番の娘ミアがエルフリーデの手を引っ張りやってきた。
「ねぇねぇ、タナカ。お姉ちゃんとはどういう関係なの?」
この子は何を突然ぶっこんでくるのだろうか。俺は面をくらい、エルフリーデは頭を抱えてため息を漏らしている。連れてこられる前に聞かれた質問なのか。
それに便乗して、年齢的にはセクハラオヤジっぽい年齢の店員が会話に乗ってきた。
「君たちはカップルじゃないの?」
それに対しては二人とも力強く同時に「「違います!」」と即答した。
そう、中身がオジサンの俺はどっちかというと保護者的な感じで、若い姫君の成長を間近で見る、父親的な感覚だったりする。
「「え~、違うの?」」
と、ミアと店員も同時に口をそろえた。村に娯楽がないのか、つまらなさそうに口を尖らせる。
「ミアちゃん、ごめんね。期待に応えられなくて」
エルフリーデは笑顔で、残念がるミアの頭を撫でている。
「え~、じゃあ、どういう関係なの?」
何か形になっていないと納得できないのだろうか。まだミアは子供だけど、女の子はオマセなのだろうか。そういう恋愛的な思考がないと男女の関係は成り立たないと思っているのだろうか。
とは言いつつも、俺の思考は幼いままなのだろうか。それとも枯れてしまっているのだろうか。恋愛関係のない男女があっても良いと思っている。過去に遊んだり飲み友達は男女とか意識したことがなかった。まぁ、そもそも自分に収入や職業の劣等感があったので、恋愛脳まで辿り着かなかったからだけかもしれないが……。
とはいえ、エルフリーデとの関係はそういうものはない。
「そうだね、どちらかというと姫と従者って感じかなぁ」
冗談を言って、ハハハと笑ってみたものの、三人が首を横に振って、乾いた笑いになってしまった。
店員は「甲斐性を持ちなさいよ」、ミアは「女心をわかってないなぁ」という憐れむ視線を俺に送る。エルフリーデは少し違い、俺の背中を叩き背筋を伸ばさせた。
「タナカと私の関係は、友人です!」
凛とした姿で、王女が庶民的小貴族の捨てられた長男の俺に対して、友人という。
俺がエルフリーデを見ると、口角を上げている。自身のある笑顔だ。
これはかなり嬉しい。対等であると思われている。貴族が、とかじゃなく、常に精神的従者だった俺だし、出自も違う遠い存在から、友人だと言われたことなんてなかった。
「だから、タナカにはもっとしっかりとした態度でいてもらわないと困ります」
ただで喜んでいるだけでは駄目なようだ。見合う男になれ、ということだろう。
「お姉ちゃん、タナカの性格的に、それは無理だと思うよ」
ミアが口を挟む。ごもっともだ。
「それはわかってるけどね。男の子にしっかりしてもらいたいじゃない?」
エルフリーデも理解してくれているなら、少しの期間、自信が付くまでは待ってもらうことにしよう。
「うんうん、わかる」
ミアよ、そこをわかるんじゃない。俺も努力するんだから。
「タナカさん、あまり振り回されないように頑張ってくださいね」
店員は年の功なのか、自分の経験からなのか、励ましてくれた。ありがたい。




