このあとどうする?
「ズルズルズル~~~~!」
啜って食べるというのは下品とされているが、俺がお勧めする食べ方に倣って、国王もエルフリーデも蕎麦を啜って食べている。
「これは香よし、味よし、ついでに食感も良いな」
国王べた褒めである。
三人前だけじゃなく、屋敷で働いている分をすべて打った。結構な労力だった。体が17歳で良かったと思う。
前菜に卵とチーズを重ねたガレット。そのあとメインに蕎麦。蕎麦湯をいただく。これで終わりと思わせておいて、デザートの材料が届いた。
「タナカさん、お届け物です~」
勢いよく入ってきたのは「いもや」のトーマスだ。今日の閉店後にお願いしていたものが届いた。
「これは?」
今日は蕎麦尽くしなのに、いもやから何が届いたのか、そのあたりは女子学生・エルフリーデの勘が冴える。
「まぁまぁお待ちよ」
そういって俺がキッチンから持ってきたのは、蕎麦粉で作ったどら焼きの皮。それで、いもやから持ってきてもらったスイートポテトを挟む!
「おお!」
何かわからないが、トーマスもエルフリーデも興味の声を上げる。国王も合わせて歓声を上げる。
「ま、食べてみればもっと感動するよ」
これまた作法もなく手づかみで食べられる代物。
少し炒った蕎麦を入れている香ばしい皮に挟まれた、甘~いサツマイモ餡。どちらも良さを引っ張り出す、1×1=3になっているスイーツ。
「これ、うちで売っても良いか?」
一口食べただけのトーマスだったが、すでに売れると確信している。エルフリーデも「それなら私も友達連れて買いに行くよ」と嬉しそうにしている。
「バッケスホーフで作ってるから、できるだけ回せるようにするけど、まだ足りないかもしれない。可能になるまで待っててもらえるか?」
そう伝えると、2人とも残念がった。でも需要があるとわかったので、あの村もこのあとはある程度安泰と思いたい。
「デザートにもなるなんて、これは良いものだな」
国王も納得の品になっているようで良かった。うんんと頷いてくれている。
今日の宴は何とか綺麗にまとめることができたようだ。
*
食事の後、村でどんなことがあったのか、エルフリーデが国王に話をしていた。まったりとした時間が過ぎていたが、俺の今後を聞かれたとき、空気がピリっとした。
「国王から手形もらいましたので、他の国の商業ギルドに行ってみようと思っています」
夕方ごろには国王の花押と国の印が入った通行手形が発行されていた。これはかなり貴重なものである。大事にしなければならない。
しかし、それだけでは終わらなかった。
エルフリーデも「行きたい」と言い始めたのである。
「いや、エルフリーデが出て行っちゃったらあの村の領主は誰がやるのさ?」
「それ私じゃなくてもよくない?」
「いや、俺はエルフリーデが合ってると思うよ。村民から慕われるようになってたじゃない」
「それはそうだけど、もっと政治がわかる人が適任だと思うの」
「そうかなぁ、それより人望だと思うんだけど」
「私はまだまだ小童。今回もタナカが陣頭指揮をとってくれたからできただけで、私は村民の人と一緒に楽しんでただけだから」
「普通の貴族ってそれができないから。だからエルフリーデがすごいんじゃないか」
「う~ん、褒められてるのわかるけど……でも行きたいんだよね。今回の旅で、私はぜんぜん足りてないって思ったの。そんなに年齢も違わないタナカの知識とか振る舞いを見て、このまま学校を出て、どこかで仕事をしても、たぶんみんなが望むようなことはできない。できれば今のうちに世界を知っておきたいの」
「それはそれで悪くないんだけど……ちょっと国王、黙ってないで何とか言ってくださいよ」
手を顎に当て、唸っているだけである。たぶん色々心の中で葛藤しているのかもしれない。
「本心を言うと、私は反対だ」
国王のいうことは至極当たり前だ。
「エルフリーデが三女とはいえ、長男、長女、次女の三人に何かあった場合、家督を継いでもらわないとならない。それに、今回みたいに存在を知っている者が攻撃に出ないとも限らない……というかかなりあり得る。そうすると、国王として了承できることではない……けど、旅に出たいという子供を止めるというのも親として心が狭い気がしている」
苦悩しているのはわかる。言い終わって俺をちらっと見てくる。
「……え? 俺は護衛なんて無理ですよ?」
当たり前だけど、そこまで腕に自信はない。腕に覚えのある人が一人でもきたら、俺一人でも守れない。国王は「だよな」と納得する。しかしエルフリーデは諦めない。
「三女だから好きにしていい、って言ってたよね?」
おいおい、王様よ、そんなことを言ってたのか? と思わず口から出そうになった。が、事実だったようだ。
「それ、10年前の話だよね? 時効だよ、じこう!」
「でも、約束は約束だよね?」
長男は王子としてフリッチュ含めたいくつかの領地を治め、長女は他国の王子に、次女は名門貴族に嫁いでいるので、国としては大丈夫。とはいえ、国王の言うように、姫の存在を利用しようとする者も多いと思われる。決して安全ではない。
「じゃあ……」
そういって提案したのは、護衛をつけるということだった。だが、「それでは旅をしている感じがない」ということでエルフリーデは断った。
「じゃあ……」
護衛は姿を見せないようにする、という提案があり、エルフリーデも納得した。この国王、三女エルフリーデにはとことん甘いのかもしれない。
ただ、これは俺の旅についてくるという前提で話がされている。もちろん俺の答えはノーである。しかしそれでは国王が納得しない。だが、国王が言っても、俺はそこまで責任を負えない。今回のことが結構肝を冷やしたのだ。
「旅は良いと思うけど、俺と一緒じゃないよね?」
念のため確認したが、するだけ無駄だった。
「これから旅の間にタナカを知っていくって言ったよね? 故郷とか、この“世界”ってのをもっと聞かせてもらわないと!」
確かに言っている。言ってるけど、今回の旅だけじゃないのか? エルフリーデは自分の知らないことを知っている俺に興味があるのだろうけど、身バレはできれば実家のことまでにしておきたい。でも一緒に旅していると、気が緩んでボロを出しちゃう気がする……。
「う~む」
悩んでいたのだが、国王から説得されたので、仕方がないと腹をくくった。一応、「エルフリーデに何があっても俺の実家は責任を取らなくて良いよね?」という確認はした。一筆を書くまでやるとドン引きだし、実家にそこまで義理はない。とはいえエルフリーデをできる限り守ろうというのは、今回の旅で思ってしまっていた。
旅は道連れ世は情け。護衛も隠れていてくれるなら、最悪のことにはならないだろう。最悪、生きて帰るように努力しよう……と甘く考えておくことにした。




